7種類のF1ピレリタイヤ
copyright Pirelli

F1レギュレーション解説「タイヤ & ホイール編」

  • Published: Updated:

F1ではイタリア・ミラノに本社を構えるピレリ(Pirelli & C.)製の18インチ大口径扁平タイヤが使用されている。如何に車体性能が高くとも路面と車体とを繋いでいるのはタイヤであり、タイヤを上手く機能させる事ができなければ速く走る事は不可能だ。

一般的に柔らかいコンパウンドはグリップ力が高い一方で耐久性が低い(デグラデーションが大きい)。逆に硬めのコンパウンドはグリップが低く耐久性が高い。

ここではタイヤとホイールに関わるF1ルールを紹介する。

ワンメイク

ブリジストンの撤退を経てF1は2011年にイタリアのタイヤメーカー、ピレリと独占供給契約を締結した。以降、F1はワンメイクとなっており、現時点では2024年末までピレリの単独供給体制が続く事が確定している。

ピレリは1986年の撤退を経て1989年にF1にカムバック。1991年まで活動した後、20年間の休止期間を経て2011年に公式タイヤパートナーとして再びF1に復帰し、第4期活動を開始した。

2011年以降、ピレリはこれまでにトルコのイズミットとルーマニアのスラティナの工場で40万本以上の13インチタイヤを製造してきたが、次世代車両が導入された2022年からは18インチの扁平タイヤを供給している。

なお13インチから18インチへの切り替えにより、タイヤとホイールの合計重量は46kgから74kgへと28kgも増加した。

コンパウンドの種類と供給セット数

各週末に持ち込まれるコンパウンドは晴れ用のドライタイヤ(スリック)が3種類、トレッド面に溝の入った雨用のレインタイヤが2種類となっており、外見で識別できるように以下の様にサイドウォールに色ペイントが施される。

  • ソフト:赤色
  • ミディアム:黄色
  • ハード:白色
  • インターミディエイト:緑色
  • フルウェット:青色

供給されるスリックは3種類だが、2023年に製造されるのは「C0」から「C5」までの6種類で、各サーキットの路面や気温などの特性を踏まえて、その内の3種類が各グランプリで供給される。FIAとピレリは少なくとも各グランプリの2週間以上前にチームにこれを通知しなければならない。

レインタイヤの排水量

雨用のタイヤは浅溝のインターミディエイトと深溝のフルウェットの2種類が用意される。フルウェットの直径はスリックより10mm大きい。

インターミディエイトは時速300kmでタイヤ1本につき毎秒30リットルの水を排出することができる。アクアプレーニング現象に対応できるよう設計されているフルウェットの排水量は毎秒85リットルだ。

なおインターミディエイトあるいはフルウェットタイヤで走行する際はリアライトを点灯させなければならない。

供給セット数

週末の各車への供給セット数は以下の内訳で最大20セットとなっている。ただしスプリントフォーマットが採用される週末は19セット、2023年に試験導入される「改訂予選フォーマット(RQF)」が採用される週末に関しては18セットに削減される。

タイヤ供給セット数
通常 スプリント RQF
ハード 2 2 3
ミディアム 3 4 4
ソフト 8 6 4
インターミディエイト 4 4 4
フルウェット 3 3 3
20 19 18

ただしピレリの判断により、スリックタイヤが特別に追加される場合がある。この規定は主に来季仕様のタイヤ評価用としてルールに組み込まれている。

また、初日の2セッションのいずれかがウェットコンディションの場合、いずれかのセッションでインターミディエイトを使用したドライバーに追加で1セットのインターミディエイトが供給される。

2日目の最初のセッション(FP3あるいは、スプリント週末の場合はFP2)がウェット濃厚な場合、追加で1セットのインターミディエイトが供給される。

なお「1セット」とはFIAによって割り当てられたフロント2本とリア2本のパッケージを指す。

2022年シーズンのピレリ製F1タイヤCourtesy Of Pirelli & C. S.p.A.

2022年シーズンのピレリ製F1タイヤ

タイヤウォーマー

タイヤウォーマー(タイヤブランケット)はFIA指定センサーが取り付けられたレギュレーションに準拠したものを使用し、直近96時間の運用状況を正確に記録して提出できるようにしなければならない。

2021年以前は最大90℃で加熱する事が許されていたが、2022年は70℃に引き下げられた。この数値はレギュレーションで規定されているわけではなく、週末毎にピレリが指定するため、必ずしも固定されているわけではない。

概ねスリックは70℃で3時間まで、インターミディエイトは60℃で2時間まで、ウェットは40℃で2時間まで加熱する事ができる。温度測定はトレッドとサイドウォールの表面で行われる。

  • スプリントやレース中のピットレーンへの持ち込みは禁止
  • 開始5分前シグナル表示以降は使用できない

なお電気消費量を削減し、持続可能性を高めるためにF1はタイヤウォーマーを将来的に廃止する計画を立てている。

予選でのタイヤルール

Q2突破タイムを記録した際のタイヤを履いてレースをスタートしなければならないとする2014年導入の規定は2022年に廃止された。

基本的には柔らかいソフトタイヤの方が1発のタイムが出しやすいため、特に最終Q3では全車がソフトをチョイスする傾向がある。

3ラウンドから成る予選では、いずれにおいてもドライバーは装着するコンパウンドを自由に選ぶ事ができるが、改訂予選フォーマットが採用される週末に関しては装着できるコンパウンドが以下のように制限される。

  • 予選Q1:ハードタイヤのみ
  • 予選Q2:ミディアムタイヤのみ
  • 予選Q3:ソフトタイヤのみ

決勝でのタイヤルール

タイヤ交換義務

ドライ・コンディションのレースでは、少なくとも1回のピットストップを行い、別のコンパウンドに履き替えなければならない。つまり最低2種類のドライタイヤを使用する義務があるということだ。

スプリントの場合はタイヤ交換義務がない。

決勝レースが中断の後、再スタートできずに終了した場合、2種類のドライタイヤを使用しなかったドライバーに対しては30秒が加算される。

フルウェット装着義務

雨の影響でフォーメーションラップがセーフティカー先導でスタートした場合、またはスプリントを含むレースがセーフティカー先導で再開された場合、セーフティカーがピットに戻るまでフルウェットを装着しなければならない。

ホイールガン

F1のホイールにはナットが組み込まれており、チームは重量4kgほどのイタリアのパオーリ社製のホイールガンでこれを着脱する。

タイム短縮のためにナットのネジ山は3~5個に抑えられており、ホイールガンも一動作毎に回転方向が自動的に変わる仕組みとなっている。つまり手動で回転方向を切り替えなくて済むわけだ。

使用と返却に関する規定

各フリー走行セッション後、ドライバーは2セットをピレリに返却する必要があるため、予選前の時点で各ドライバーが保持できるのは7セットのみとなる。

ただし予選トップ10に入らなかったドライバーに若干のアドバンテージを与えるため、Q3進出を逃したドライバーはレースに向けて7本のタイヤを保持できるが、トップ10組は予選終了後に1セットをピレリに返却しなければならない。

  • 使用状況監視のために全タイヤにバーコードが付与
  • 使用の有無を問わず、3回のフリー走行の終了2時間以内に各2セット、予選Q3終了3時間以内に1セット(Q3進出者のみ)をピレリに返却
  • 返却は電子的(csvファイルのやり取り)に管理される

製造・技術面に関する主な規定

  • ホイールはBBS製マグネシウムホイールで全チーム共通
  • 前輪タイヤ幅は345~375m370〜385mm、後輪タイヤ幅は440~470mm455〜470mm
  • タイヤの直径はドライタイヤが725mm以下、ウェットタイヤが735mm以下
  • 仕様は前年9月1日までに構造を、12月15日までにコンパウンドを決定
  • タイヤは空気か窒素でのみ膨張させること
  • チームはタイヤを改造してはならない
  • タイヤブランケットの使用はOKだが、タイヤ表面にのみに作用させる事
  • ホイール着脱工具の動力は圧縮空気または窒素のみ

改訂の歴史

ピレリは2018年にウルトラソフト、スーパーソフト、ソフト、ミディアム、ハードの5種類に加えて、スーパーハードとハイパーソフトを加えた計7種類のドライタイヤを供給した。

だが多すぎて「分かりづらい」との指摘に基づき、2019年よりハード(白色)、ミディアム(黄色)、ソフト(赤色)の3種類に整理。5種類のスリックタイヤを製造の上、各々のコース特性に応じて各週末に3種類のコンパウンドを供給した。

また、従来は各車が各々、各週末で定められた各コンパウンドの供給配分を選択できたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックによる物流上の課題に対処すべく2020年に固定配分制が導入され、1台あたりハード2セット、ミディアム3セット、ソフト8セットに統一された。

また、2021年は増加するマシンのダウンフォースに対応すべく、コンパウンド(トレッド面のゴム素材)こそ前年と変わらないものの、安全対策として構造面が強化された新たな仕様のタイヤが導入された。

また、18インチタイヤが導入される2022年に向けて、2021年中に計20日間に渡って10回の開発テストセッションが行われた。

半世紀以上に渡って続いた13インチタイヤ

13インチサイズのタイヤは1960年代以降、2021年に至るまで、ほぼ全てのレースでF1マシンの足元を支え続けてきた。当初、ホイールサイズに関する規制は自由であったが、1980年代に入ってレギュレーションで13インチに定められた。

ピレリが13インチを初めてF1に投入したのは第2期活動を開始した1981年のサンマリノGPで、ブライアン・ヘントンとデレク・ワーウィック擁するトールマンTG181がこれを履いた。初優勝は1985年のフランスGPで、ブラバムBMWのネルソン・ピケが勝利を飾った時だった。

手短に2022年のF1レギュレーションを知りたい方は「2022年F1ルール主要変更点のまとめ」を、より詳しくルールの全体像を知りたい方は「F1ルール完全網羅版」を参照されたい。