F1エンジンの歴史 – 馬力・気筒数・排気量の推移を振り返る
FIAフォーミュラ1世界選手権(F1)は、第二次世界大戦終結後の1950年にイギリスで初めて開催された70年以上の歴史を持つモータースポーツだ。この間、レギュレーションの変更によって様々な排気量・形式のエンジンが用いられてきた。以下の表は馬力、排気量の推移をまとめたものである。
年 | 排気量 | 形式 | 最大馬力 |
---|---|---|---|
1950年– 1953年 |
4.5L 1.5L |
自然吸気 過給エンジン |
425馬力 |
1954年– 1960年 |
2.5L 0.75L |
自然吸気 過給エンジン |
290馬力 |
1961年– 1965年 |
1.5L | 自然吸気 | 225馬力 |
1966年- 1986年 |
3.0L 1.5L |
自然吸気 過給エンジン |
1,350馬力 |
1987年- 1988年 |
3.5L 1.5L |
自然吸気 過給エンジン |
690馬力 |
1989年- 1994年 |
3.5L | 自然吸気 | 820馬力 |
1995年- 2005年 |
3.0L | 自然吸気 | 930馬力 |
2006年- 2013年 |
2.4L | 自然吸気 | 740馬力 |
2014年- 2025年 |
1.6L | ハイブリッド(MGU-H/K)ターボ | 800~1,000馬力 |
2026年- | 1.6L | ハイブリッド(MGU-K)ターボ | 1,020馬力 |
現行のハイブリッド・ターボエンジン時代を含め、大別するとF1はこれまでに9度のエンジン時代を経験している。近年でこそレギュレーションによって気筒数や排気量が厳格に規定されているが、時代によっては必ずしも1種類のエンジンではなく、複数の種類のエンジンが許可されていたことすらあった。各々の時代のエンジンについて詳しく見てみよう。
- 4.5L NA / 1.5L過給 1950年–1953年
- 2.5L NA / 0.75L過給 1954年–1960年
- 1.5L NA 1961年–1965年
- 3.0L NA / 1.5L過給 1966年-1986年
- 3.5L NA / 1.5L過給 1987年-1988年
- 3.5L NA 1989年-1994年
- 3.0L NA 1995年-2005年
- 2.4L NA 2006年-2013年
- 1.6L ハイブリッド 2014年-現在
- 1.6L ハイブリッド 2016年-
4.5L NA / 1.5L過給 1950年–1953年
creativeCommonsDarren
F1エンジンの歴史は4.5リッター自然吸気エンジンと1.5リッター加給(スーパーチャージャーまたはターボチャージャー)エンジンによって幕を開けた。上記写真はアルファ・ロメオ159に搭載されていた直列8気筒エンジン。425馬力を誇っていたと言われる。
- 排気量
- 4.5L自然吸気 / 1.5L過給
- 馬力
- 425馬力
- 最大回転数
- 無制限
- バンク角
- 無制限
- 気筒数
- 無制限
2.5L NA / 0.75L過給 1954年–1960年
creativeCommonsLarryStevens
自然吸気・過給ともにエンジンサイズが縮小された1954年。その影響から馬力は290馬力まで低下した。規定上は0.75リッターの過給エンジンを搭載することも可能であったが、実際にこれを使用したチームはいなかったようである。
- 排気量
- 2.5L自然吸気 / 0.75L過給
- 馬力
- 290馬力
- 最大回転数
- 無制限
- バンク角
- 無制限
- 気筒数
- 無制限
1.5L NA 1961年–1965年
creativeCommonsGiles Williams
最小重量は450kgに制限され、過給式が禁止されて1.5リッター自然吸気エンジンに限定された1961年。これに伴い、各チームはそれまでマシン前方に搭載されていたエンジンをミッドシップに変更した。ホンダがF1に初参戦したのもこの時代。ホンダは横置き1.5リッターV12エンジンでF1を戦った。
- 排気量
- 1.5L自然吸気
- 馬力
- 225馬力
- 最大回転数
- 無制限
- バンク角
- 無制限
- 気筒数
- 無制限
3.0L NA / 1.5L過給 1966年-1986年
creativeCommonsMr.choppers
これまでの2倍の排気量となる3リッター自然吸気エンジンと1.5リッター過給エンジンが許可された1966年。この時代までは各チームが開発したエンジンはそのチーム内のみで使用されていたが、1967年にフォードがエンジンメーカーのコスワースに出資して開発させたフォード・コスワース・DFVエンジンは他チームにも販売された。エンジンの市販化である。
これによりエンジン開発障壁がなくなり多くの独立系チームが誕生することになった。マクラーレン、ウィリアムズといったチームはこのエンジンの市販化によって誕生した。F1史におけるエポックメイキングの1つと言える。
- 排気量
- 3.0L自然吸気 / 1.5L過給
- 馬力
- 1,350馬力
- 最大回転数
- 無制限
- バンク角
- 無制限
- 気筒数
- 無制限
3.5L NA / 1.5L過給 1987年-1988年
creativeCommonsMorio
過給エンジンがあまりにも強すぎたため、FIAは1989年以降過給エンジンの禁止を決定。この時代は、このエンジン移行のための猶予期間として設けられた。そのため、89年に完全導入される3.5リッター自然吸気とこれまでの1.5リッター過給が共存していた。1988年に16戦中15勝を記録して圧倒的な強さを見せつけたマクラーレン・ホンダが搭載していたのは、1.5リッターV6ターボエンジン(ホンダRA168-E)であった。
- 排気量
- 3.5L自然吸気 / 1.5L過給
- 馬力
- 690馬力
- 最大回転数
- 無制限
- バンク角
- 無制限
- 気筒数
- 無制限
3.5L NA 1989年-1994年
creativeCommonsstorem
2年の猶予期間を経て、3.5リッター自然吸気エンジンのみとなった1989年。エンジンが大幅に変更されたものの、前年のコンストラクターズ王者のマクラーレン・ホンダが、89年から91年に3連覇を成し遂げ、計4年連続の王者に輝いた。
- 排気量
- 3.5L自然吸気
- 馬力
- 820馬力
- 最大回転数
- 無制限
- バンク角
- 無制限
- 気筒数
- 12気筒以下
3.0L NA 1995年-2005年
速度抑制のために排気量が3リッターに制限された。これ以降レギュレーションで速度を抑制するトレンドが生まれた。
エンジンのダウンサイジング化に対して、チームは軽量化と高回転化で出力アップを目指すことになった。1995年当初は気筒数12以下とされていたが、2000年以降はV型10気筒に限定された。一般的にはV10エンジンの方が軽量かつ小型化が可能であり、信頼性にも分がある。2003年のBMW製のP83エンジンはV型10気筒で最高回転数19,200を誇っていた。
- 排気量
- 3.0L自然吸気
- 馬力
- 930馬力
- 最大回転数
- 無制限
- バンク角
- 無制限
- 気筒数
- V型10気筒/12気筒以下
2.4L NA 2006年-2013年
creativeCommonsmachu
スピード抑制とコスト削減を理由に、それまでの3リッターV10エンジンに代わり導入されたのが2.4リッターV8エンジン。導入された2006年はエンジン回転数に制限はなかったものの、段階を経て1万8000回転までに制限された。
F1は2013年末を以て自然吸気エンジンと永遠の別れを告げた。
- 排気量
- 2.4L自然吸気
- 馬力
- 740馬力
- 最大回転数
- 18,000rpm
- バンク角
- 90度
- 気筒数
- V型8気筒
1.6L ハイブリッド 2014年-現在
F1とて世界的なエコ化の流れには逆らえず、2014年に1.6リッターV6ハイブリッド・ターボ・エンジンが導入された。この時代のエンジンは、運動エネルギーと熱エネルギーを回生する機構が組み込まれており、旧来型のICE(内燃機関)のみを主動力とするエンジンとは一線を画するものであるため、エンジンとは言わず”パワーユニット“と呼ばれる。
ホンダは規定変更の一年後にパワーユニットサプライヤーとしてF1に復帰。3シーズンに渡ってマクラーレンに供給した後、2018年にスクーデリア・トロロッソと提携。2019年からはレッドブル・レーシングに追加供給し、撤退前の最終年、2021年にマックス・フェルスタッペンと共にドライバーズタイトルを獲得した。
- 排気量
- 1.6L ハイブリッド
- 馬力
- 1,000馬力
- 最大回転数
- 15,000rpm
- バンク角
- 90度
- 気筒数
- V型6気筒
1.6L ハイブリッド 2016年-
次世代のパワーユニットはどういったものになるのだろうか? 2017年10月31日、国際自動車連盟(FIA)は将来のF1パワーユニット規定のビジョンとして、音量改善とコスト削減、そして小排気量ハイブリッドエンジン継続の3つの柱を示した。
ポルシェ及びアウディが要求したMGU-H廃止の方針に対して既存のエンジンマニュファクチャラー当初、反対の異を唱えたが、新規メーカー誘致を目的とするFIA主導の下、最終的には合意へと至り、2022年8月のFIA世界モータースポーツ評議会(WMSC)で新規定が承認された。
基本となるアーキテクチャは継承されるが、エネルギー消費を大幅に削減し、CO2排出量を実質的にゼロとするため100%持続可能な燃料が導入される。
MGU-Hの廃止に伴い、現行PUと同等レベルのパワーを維持べく、エネルギー回生システム(ERS)による出力を350kW(約476馬力)へと引き上げる。これは現行(120kW)の約3倍だ。
ICE(内燃エンジン)は1.6リッターV6のレイアウト、回転数を維持する一方、燃料流量は削減される。ただ、それでもなお約400kW(約544馬力)の出力を目指す。
PU全体の出力は約1020馬力となる見込みで、ステファノ・ドメニカリCEOはレースの魅力を高めるためにエンジンサウンドを高める意向を示している。
以上F1エンジンの歴史を見てきたが、1987年以降は排気量の縮小傾向が続いており、これ以降は排気量が再び増やされた例は一度もない。現在F1で採用されているパワーユニットの仕様は2025年まで有効だが、ホンダのF1撤退が引き金となり、規定が大幅改定される2022年以降は開発が凍結された。