
F1パワーユニット
F1パワーユニット(F1 Power Unit)とは、ICE(内燃エンジン)に電動エネルギー回生・放出システムを組み合わせた、F1マシンの動力源である。略して「PU」と表記される。
F1とて世界的なエコ化・低炭素化の波には抗えず、従来の2.4リッターV8自然吸気エンジンに代わり、2014年に1.6リッターV6ターボ・ハイブリッドが導入された。以降、F1の動力源はエンジン単体ではなく、ICE(内燃エンジン)、ターボ、電動モーター、バッテリー、制御系を一体化した「パワーユニット」と呼ばれるようになった。
2014年に「ホンダ、2015年からF1エンジン供給」のような見出しが新聞各紙を賑わしたが、これは正確ではなかった。ホンダが供給していたのはエンジン単体ではなく、ハイブリッドを含むパワーユニット一式だった。

© Honda、2018年仕様のホンダ製F1パワーユニットRA618H
2026年にはPU規則が大幅に改定された。基本形式は1.6リッターV6ターボ・ハイブリッドのままだが、排気エネルギーを回生していたMGU-Hは廃止され、運動エネルギーを回生・放出するMGU-Kの出力が大幅に引き上げられた。また、先進的な持続可能燃料を使用する。
このため、2026年以降のF1パワーユニットは、2014〜2025年のハイブリッドPUとは同じ名称でありながら、技術的には別世代のシステムと捉える必要がある。
F1パワーユニットの構成要素
2026年以降のF1パワーユニットは、主に以下のコンポーネントで構成される。
- 内燃エンジン (ICE)
- ターボチャージャー (TC)
- 運動エネルギー回生システム (MGU-K)
- エナジーストア (ES)
- コントロール・エレクトロニクス (CE)
2014〜2025年の旧世代PUには、排気エネルギーを回生するMGU-Hも搭載されており、MGU-HとMGU-Kの2つ含むハイブリッド側を総称としてエネルギー回生システム=ERS(Energy Recovery System)と呼んでいた。だが2026年規則ではMGU-Hが廃止されたため、新世代PUの電動エネルギー管理はMGU-KとES、そして制御系が中心となった。
MGU-Hの廃止によりシステムが簡素化された一方、ターボラグの抑制やエネルギー回生量の確保は難しくなった。その代わり、MGU-Kの最大出力は従来の120kWから350kWへと大幅に引き上げられ、電動側の重要性はむしろ増加した。回生されたエネルギーを実際に使用することをデプロイメントと呼ぶ。
ターボ・ハイブリッド初年度においては、ERS単体で161馬力、ICE単体で600馬力、PU全体で計761馬力以上を発揮すると試算されていたが、2017年末にはメルセデスPUがシステム全体で1000馬力に到達と報じられ、2019年以降は概ねどのサプライヤーも、ICE単体で850馬力の性能を持つとされた。
上記の各コンポーネントについて、以下簡単に紹介していこう。
ICE =内燃エンジン
ICE(Internal Combustion Engine)は、燃料をシリンダー内で燃焼させて動力を得る内燃機関であり、PUの中核を成す。2014年初年度の時点では、ICE単体で600馬力程度の出力があると考えられていた。
ただし、2026年規則では電動側の比重が大きくなったため、ICE単体の位置づけは変化した。2026年のICE由来の最大出力は約400kW(約544馬力)とされ、旧世代末期に比べると内燃エンジン単体の出力は抑えられている。
一方で、燃焼効率、冷却、ターボ応答、燃料流量、エネルギーマネジメントとの連携は依然として極めて重要で、2026年以降のPUでは、ICEの最高出力だけでなく、MGU-Kと組み合わせた総合的なエネルギー利用効率が競争力を左右する。
MGU-K = 運動エネルギー回生システム
MGU-K(Motor Generator Unit – Kinetic)は、ブレーキング時などに発生する運動エネルギーを電気エネルギーに変換し、再利用するための装置だ。モーターとして駆動力を加える役割と、発電機としてエネルギーを回収する役割の両方を持つ。
旧PU規則では、回生したエネルギーを即時使用することも可能だったが、2026年の規則では、回生されたエネルギーはすべて一度バッテリーに送られ、蓄電されなければならない仕組みへと変更されている。
2025年までのMGU-K最大出力は120kWだったが、2026年規則では350kWへと大幅に引き上げられた。これはおよそ470馬力に相当する出力であり、新世代PUでは電動側のデプロイメントがラップタイムに大きな影響を与える。
MGU-Kは、単にストレートで追加出力を与える装置ではない。ブレーキング、コーナー進入、立ち上がり、オーバーテイク時のエネルギー配分を含め、車両全体の挙動と密接に関係する。
ターボチャージャー
ターボチャージャーは、排気ガスのエネルギーでタービン(扇風機の羽根のような形状)を回し、その軸でコンプレッサー(空気を圧縮させる機械)を駆動して吸気を圧縮する装置だ。圧縮した空気をエンジンに送り込むことで、燃焼効率と出力を高める。
旧世代PUでは、ターボチャージャーと同軸上にMGU-Hを配置し、排気エネルギーの回生やターボ回転の制御を行っていた。だが2026年以降はMGU-Hが廃止されたため、ターボラグをどう抑え、低速域から高回転域まで安定した過給を行うかが重要な技術課題となっている。
小型ターボは、低回転域やアクセルを踏み込んだ直後の反応では有利になりやすい。一方、高回転域で大量の空気を送り込む能力では不利になりやすく、ピーク出力の伸びを制限する可能性がある。ターボの大きさや配置は、出力だけでなく、冷却、車体パッケージ、空力設計にも影響する。
ES = エナジーストア
ES(Energy Store)は、MGU-Kで回生した電気エネルギーを一時的に蓄えるバッテリーである。蓄えたエネルギーは、必要に応じてMGU-Kから駆動力として放出される。
2026年以降はMGU-Kの出力が大幅に高まったため、ESには高出力の充放電に耐える性能が求められる。単に容量が大きいだけではなく、短時間で大きな電力を出し入れする能力、熱管理、重量、信頼性が重要になる。
CE = コントロール・エレクトロニクス
コントロール・エレクトロニクス(Control Electronics)は、PU全体を制御する電子システムだ。燃料噴射、点火、ターボ制御、MGU-Kの回生とデプロイメント、バッテリー管理などを統合的に扱う。
2026年以降は、電動側の出力が大幅に増えたことで、CEの重要性も高まっている。どの地点でどれだけ回生し、どの地点でどれだけ電力を使うかは、ラップタイムだけでなく、オーバーテイク、タイヤ温度、ブレーキバランス、ドライバビリティにも影響する。
MGU-H = 旧世代PUに存在した熱エネルギー回生システム
MGU-H(Motor Generator Unit – Heat)は、2014〜2025年のF1パワーユニットに搭載されていた装置だ。排気エネルギーを電気に変換し、ターボチャージャーの回転を制御することで、ターボラグを抑える役割も担っていた。
MGU-Hは極めて高度な技術だったが、構造が複雑でコストも高く、新規メーカー参入の障壁にもなっていた。そのため2026年規則では廃止された。
持続可能燃料
2026年以降のF1では、先進的な持続可能燃料が使用されている。これは、食品由来ではないバイオマス、非生物由来の再生可能原料、都市廃棄物などを由来とする成分を用い、温室効果ガス排出に関する基準を満たす燃料だ。
F1は電動化だけではなく、内燃エンジンを残しながら持続可能燃料を使う方向を選んだ。これは、F1を単なる電動レースにするのではなく、高効率な内燃機関と電動技術、持続可能燃料を組み合わせる実験場として位置づけるためだ。
エネルギーマネジメント
2026年以降のF1では、エネルギーマネジメントの重要性がさらに高まった。MGU-Hが廃止された一方で、MGU-Kの最大出力は350kWまで引き上げられ、ICEと電動出力の比率は大きく電動側へ近づいた。
このため、速いPUとは単に最高出力が大きいPUではない。ブレーキングでどれだけ効率よく回生できるか、蓄えたエネルギーをどの区間で使うか、車速が高い領域でどのように出力を絞るか、オーバーテイク時にどれだけ有効に電力を使えるかが重要になる。
2026年のF1では、従来のDRSに代わり、電動エネルギーを使ったオーバーテイク支援が大きな役割を持つ。後続車は一定条件下で追加の電動エネルギーを使うことができ、前走車とのエネルギー配分差によって追い抜きの機会を作る。
一方で、電動出力の比率が高まったことで、サーキットによってはエネルギー切れや回生不足がラップタイムに大きく響く。したがって、新世代PUでは、ICE、MGU-K、ES、CEを一体として使いこなす能力が競争力の中心となる。
ホンダ第4期と2026年の復帰
ホンダはマクラーレンと提携し、V6ターボ・ハイブリッド導入から1年遅れの2015年にF1へ復帰した。しかし復帰初期は、信頼性とパフォーマンスの両面で苦戦を強いられた。無数のエンジントラブルに見舞われ、世界王者のジェンソン・バトンとフェルナンド・アロンソが表彰台に上がる事はなく、パートナーシップは3年足らずで解除された。
その背景には、極端にリアを絞り込む空力優先の開発コンセプト、マクラーレンが求めたいわゆる「サイズゼロ」があったとされる。ホンダはターボチャージャーやMGU-Hを小型化し、これをエンジンのVバンク内に収めるレイアウトを採用したが、エネルギー回生や出力面でライバルに遅れを取った。

決別が決定的となった2017年シーズンのバルセロナテスト
2017年にはPUコンセプトを大きく変更。MGU-Hやターボチャージャーは大型化され、コンプレッサーはVバンク内から外へと再配置された。だが、再び深刻な信頼性不足が露呈する。コンプレッサーの再配置によってタービンとコンプレッサーを繋ぐシャフト(軸)が長くなり共振問題が発生した。
ある一定のエンジン速度域でバンプや縁石に乗り上げた際に軸振動が一気に増大し、捻じれ、曲がろうとするシャフトの動きに対して、回転軸に取付けられたベアリング(回転する軸を支えるためのパーツ)が耐えきれずに破損。支持体を失ったシャフトが暴れまわる事でパワーユニット全体が破壊された。まともに走行することすら厳しいシーズンだった。
この問題を解決するためにホンダは、ホンダジェットの開発を手掛ける本田技研の航空機部門に助けを求めた。航空機用のエンジンは大型のプロペラとタービンが長い軸で連結されており、MGU-Hはコンプレッサーとタービンが軸で繋がれている事から構造が似ている。
ガスタービンエンジンの専門家の知見を得て、シャフトを固定するベアリングの配置や位置、そして軸そのものの剛性を見直すことで、ホンダのF1パワーユニットは性能と信頼性を飛躍的に向上させた。
マクラーレンとの提携解消後、ホンダはトロ・ロッソ、続いてレッドブルと組み、信頼性と性能を大きく改善した。2021年にはレッドブルおよびマックス・フェルスタッペンとともにドライバーズタイトルを獲得。同年末を以てF1を撤退したが、2022年以降もレッドブル系チームへの技術的支援を継続した。
2026年規則が持続可能燃料と電動技術を重視する方向へ進んだことを受け、アストンマーティンとのワークス契約でF1に本格復帰した。
メーカー別パワーユニット供給先リスト
2026年
2026年には、新PU規則の導入に合わせてメーカー構成も大きく変わった。ルノーはPUメーカーとしての活動を終了し、アウディとレッドブル・フォードが新たに加わった。ホンダはアストンマーティンとのワークス体制で本格復帰し、キャデラックは参戦初年度にフェラーリPUを使用する。
| パワーユニット | 供給先チーム |
|---|---|
| メルセデス | メルセデス マクラーレン ウィリアムズ アルピーヌ |
| フェラーリ | フェラーリ ハース キャデラック |
| レッドブル・フォード | レッドブル・レーシング レーシング・ブルズ |
| ホンダ | アストンマーティン |
| アウディ | アウディ |
2014年
パワーユニット導入初年度となる2014年には、メルセデス、ルノー、フェラーリの3メーカーがPUを供給。仏大手自動車メーカーは独メルセデスと並ぶ最多4チームへ供給し、伊の名門フェラーリは3チームにパワーユニットを供給した。
| エンジン | チーム |
|---|---|
| フェラーリ 059/3 |
フェラーリ ザウバー マルシア |
| メルセデス PU106A Hybrid |
メルセデス マクラーレン ウィリアムズ フォース・インディア |
| ルノー Energy F1-2014 |
レッドブル ロータス トロ・ロッソ ケータハム |
2015年
一年遅れでホンダが参戦。第4期HONDAがスタート、マクラーレンとのワークス体制を築いた。フェラーリ陣営は、財政難のためにマルシャが投資家資本を受け入れマノーと名称を変更。予算の都合上、マルシャのみ昨季型059/3を使用した。ルノーは、ケータハムの撤退とロータスのメルセデス移行に伴い、レッドブル系チームのみへの供給となった。
| エンジン | チーム |
|---|---|
| フェラーリ 059/4 |
フェラーリ ザウバー マノー |
| メルセデス PU106A Hybrid |
メルセデス ウィリアムズ フォース・インディア ロータス |
| ルノー Energy F1-2015 |
レッドブル トロ・ロッソ |
| ホンダ RA615H |
マクラーレン |
2016年
フェラーリ陣営に新チームのハースが加入。トロ・ロッソは一年落ちの2015年型フェラーリPUを搭載、ハンデを抱えた。ロータスを買収し、ルノーがワークスとして復活。パワーユニット型番も「ルノー R.E.16」と一新されたが、関係悪化に伴いレッドブルはバッジネームを採用し「タグ・ホイヤー」名義のPUを搭載した。メルセデス陣営には、昨年フェラーリPUを搭載していたマノーが加入した。
ホンダ陣営は、トロ・ロッソ等のプライベーターからの引き合いはあったが、ロン・デニス総裁が意を唱えたため実現ならず。16年もマクラーレンへの単独供給となった。
| エンジン | チーム |
|---|---|
| フェラーリ 061 |
フェラーリ ザウバー ハース トロ・ロッソ |
| メルセデス PU106C Hybrid |
メルセデス ウィリアムズ フォース・インディア マノー |
| ルノー R.E.16 |
レッドブル ルノー |
| ホンダ RA616H |
マクラーレン |
2017年
ホンダは復帰3シーズン目もマクラーレンのみに供給。今季限りで両者の関係は幕を下ろした。マノーが撤退した事で、メルセデス陣営は4チームから3チームに減少。トロ・ロッソがルノーに復活、スポンサーシップの兼ね合いからパワーユニットは「トロ・ロッソ」名義となった。ザウバーのみ、一年落ちのフェラーリ製2016年型PU「061」を使用した。
独Auto Motor und Sportの推計によれば、17年シーズン末の時点で、メルセデスは949馬力、フェラーリは934馬力、ルノーが907馬力、ホンダは860馬力の出力を誇るとされる。
| エンジン | チーム |
|---|---|
| フェラーリ 062 |
フェラーリ ザウバー ハース |
| メルセデス M08 EQ Power+ |
メルセデス ウィリアムズ フォース・インディア |
| ルノー R.E.17 |
レッドブル ルノー トロ・ロッソ |
| ホンダ RA617H |
マクラーレン |
2018年
マクラーレンとの関係を終わらせたホンダは、トロ・ロッソと提携。新たなスタートを切った。マクラーレンはルノー陣営に移動。この年、フェラーリ製PUはメルセデスに匹敵するパフォーマンスを発揮。ギャップを大幅に縮めた。
| エンジン | チーム |
|---|---|
| フェラーリ 062 EVO |
フェラーリ ザウバー ハース |
| メルセデス M09 EQ Power+ |
メルセデス ウィリアムズ フォース・インディア |
| ルノー R.E.18 |
レッドブル ルノー マクラーレン |
| ホンダ RA618H |
トロ・ロッソ |
2019年
遂に強豪レッドブル・レーシングがホンダ陣営に加入。ザウバーがアルファロメオ・レーシングに、フォース・インディアがレーシングポイントにチーム名称を変更した事を除けば、メルセデス、フェラーリ陣営の顔ぶれに変化はない。
ウィリアムズは本年9月に、メルセデスAMGとのパワーユニット供給契約を2025年まで延長した事を発表した。
| エンジン | チーム |
|---|---|
| フェラーリ 064 |
フェラーリ アルファロメオ ハース |
| メルセデス M10 EQ Power+ |
メルセデス ウィリアムズ レーシングポイント |
| ルノー E-TECH 19 |
ルノー マクラーレン |
| ホンダ RA619H |
トロ・ロッソ レッドブル |
2020年
ハイブリッド・ターボ導入後としては初めて、各陣営の顔ぶれに変化がなく2019年シーズンと同じ体勢となった。
| エンジン | チーム |
|---|---|
| フェラーリ 065 |
フェラーリ アルファロメオ ハース |
| メルセデス M11 EQ Power+ |
メルセデス ウィリアムズ レーシングポイント |
| ルノー E-TECH 20 |
ルノー マクラーレン |
| ホンダ RA620H |
トロ・ロッソ レッドブル |
2027年以降の変更見通し
2026年規則では、ICEと電動出力の比率が大きく電動側へ寄った。だが、開幕後にはエネルギーマネジメントが過度に重要になり、ドライバーからも不満が出たため、F1とFIA、各チーム、PUメーカーは2027年以降の出力配分見直しに合意した。
現時点の案では、2027年にICE出力を420kWへ、2028年に450kWへ引き上げる。一方で、MGU-Kの通常最大出力は300kWへ下げられる。出力比率は2026年の53対47から、2027年に58対42、2028年に60対40へ移行する見通しだ。