
電撃解任クリスチャン・ホーナー、涙の別れ「ショックを受けた」20年を締めくくる最後のスピーチ
チーム代表として20年にわたりレッドブル・レーシングに君臨してきたクリスチャン・ホーナーが、2025年7月9日をもってその職を解任された。本人の口から語られたのは、“突然の通告”に対する「ショック」と、チームメンバーやライバルに対する深い感謝の気持ちだった。
「昨日レッドブルから、チームおよび事業には今後、関与しないことを告げられた」
正式発表に先立ち、英ミルトンキーンズのファクトリーで行われた送別スピーチで、ホーナーはこう語った。この様子は英衛星チャンネル『Sky Sports』が映像を入手し、放送した。通告を受けたのは前日の8日。「ショックを受けた」と明かした。長年ともに戦ってきたスタッフたちからは、温かな拍手が長く送られた。
「この12時間、自分なりに振り返る時間を持った。そして今日、こうして皆さん一人ひとりの前に立った。この知らせを自分の口で伝え、感謝の思いを伝えたかった。この20年半にわたって、多大な貢献を果たしてくれたメンバーひとりひとりに心から感謝したい」
「このチームに加わった20年前は、今より白髪も少し少なかった。何が待っているのか分からないまま飛び込んだが、温かく迎えてもらい、そしてF1の強豪チームを共に築いてきた。このチームの一員でいられたこと、それは私の人生における最大の特権だった」
その言葉には、惜別の情と誇りがにじんでいた。なおホーナーは、業務からは外れるものの、「会社には引き続き雇用される」と明かした。レッドブルとの契約が残っていることから、今季終了までガーデニング休暇を取る形になるようだ。
Courtesy Of Red Bull Content Pool
チーム史上21回目の1-2フィニッシュを祝うレッドブル・レーシングのマックス・フェルスタッペン、セルジオ・ペレス、クリスチャン・ホーナー代表、2022年8月28日F1ベルギーGP
ホーナーは2005年、レッドブルのF1参入と同時に史上最年少チーム代表として抜擢され、2010年から2013年にはセバスチャン・ベッテルとともに4年連続でドライバーズ&コンストラクターズタイトルを獲得。その後もマックス・フェルスタッペンの台頭とともに、2021年から2024年にかけて再びドライバーズタイトル4連覇を成し遂げた。2度の黄金時代を築き、チームを頂点に押し上げた功績はF1史に深く刻まれている。
だが、今回の衝撃的な解任理由は一切明かされておらず、情報筋によるとホーナー自身も、解任の理由を知らされていないという。
今後はレッドブル・レーシングのみならず、パワーユニット開発部門であるレッドブル・パワートレインズ(RBPT)のプロジェクトからも外れることになる。本人は「そのエンジンのパフォーマンスを自分の目で見届けられないのが、本当に残念だ」と心境を吐露した。
後任には、これまでレーシング・ブルズを率いてきたローラン・メキーズが就任。ホーナーは「彼には信頼を寄せている。全面的にサポートするつもりだ。彼がチームを大切にしてくれることを願っている」と語り、チームに対する変わらぬ愛情をにじませ、次のように締めくくった。
「私は闘い抜き、最善を尽くし、全力を注いできた。そして今、その役割を終えることになる」
メキーズは声明を通して、「レッドブル・レーシングのCEO兼チーム代表として、“レッドブル・スピリット”を体現する素晴らしい人々の一員になれることを誇りに思う。クリスチャン・ホーナーがこの20年間で築き上げてくれた素晴らしいレガシーを基盤として、さらなる成果を積み重ねていきたい」と語った。
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ピットウォールに座るローラン・メキーズ(RBフォーミュラ1代表)、2024年11月21日(木) F1ラスベガスGPフリー走行(ラスベガス市街地コース)
さらにホーナーはSNSでも声明を発表。そこには、ライバルたちへの感謝の言葉も添えられていた。
「20年という信じられない旅路を経て、今日、愛してやまないこのチームに別れを告げることになった。胸が張り裂けそうな思いだ」
「ファクトリーで共に歩んできた素晴らしい皆へ。あなたたちこそが、我々が成し遂げてきたすべての立役者だった。勝っても負けても、常に我々は一つのチームとして支え合い、歩んできた。そのことを私は一生忘れない」
「この壮大なチームの一員として、そしてそのリーダーとしていられたことは大きな特権だった。全員で積み重ねてきたこれまでの成果を心から誇りに思っている」
「我々をレースに送り出してくれた素晴らしいパートナーとファンに感謝したい。その支えがあったからこそ、チームは小さな始まりから、F1界を代表する存在へと成長し、6度のコンストラクターズタイトルと8度のドライバーズタイトルを手にすることができた」
「同様に、ライバルたちにも感謝したい。彼らがいなければ、レースは成り立たない。彼らは我々を突き動かし、挑戦し、そして我々が夢にも思わなかった栄光を実現する原動力になってくれた」
「競争があったからこそ、勝利の味は一層甘くなり、挫折は成長の機会になった。F1というのは、飽くなき野心、情熱、そしてリスペクトによって成り立つスポーツだ。ライバル関係は激しかったが、革新し、基準を押し上げるという共通の意志があったからこそ、この旅路は特別なものとなった」
「これまでに成し遂げたこと、そして2026年に向けた準備に誇りを持ち、F1を今日の頂点に導いたすべての人々に深い敬意を表して、この場を去ることにする」
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2013年10月27日のF1インドGPで優勝したセバスチャン・ベッテルとレッドブルのチーム代表を務めるクリスチャン・ホーナー
ホーナーの解任発表を受け、マックス・フェルスタッペンと角田裕毅は、感謝と別れのメッセージを公表した。