プラクティス中にガレージで言葉を交わすクリスチャン・ホーナー(レッドブル代表)とマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、2025年6月27日(金) F1オーストリアGP(レッドブル・リンク)
Courtesy Of Red Bull Content Pool

ホーナー体制終焉? フェルスタッペン、”残留条件”を要求か―「決定的段階」ともされるメルセデス移籍交渉

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F1グリッドで最も高い評価を受けるマックス・フェルスタッペン(レッドブル)の去就を巡り、同陣営がチーム代表クリスチャン・ホーナーの権限縮小あるいは更迭を、レッドブル残留の条件として提示しているのではないかとの憶測がある。

フェルスタッペン陣営が求めているのは、現在ホーナーが掌握する「独裁的」なマネジメント体制の見直しだとされる。

チーム代表兼CEOであるホーナーは、レースチームだけでなく、エンジニアリング部門、エンジン開発部門であるRBPT(レッドブル・パワートレインズ)、さらにはマーケティング部門など、広範な影響力を持つとされる。

独専門メディア『Auto Motor und Sport』は、この体制をマクラーレンのような分権型に移行するよう、フェルスタッペン側が要求しているという噂を伝えている。

現実的な移籍リスク

フェルスタッペンの現行契約は2028年末まで有効で、3年半の契約期間を残している状況だが、レッドブルのモータースポーツ・アドバイザーであるヘルムート・マルコの発言により、同契約にはパフォーマンスに基づく解除条項が含まれていることが明らかになっている。

その具体的な条件は公表されていないが、シーズン前半戦終了時点でドライバーズランキングが4位以下であった場合に契約解除が可能となると見られている。

現在、フェルスタッペンはランキング3位につけているが、4位のジョージ・ラッセル(メルセデス)との差はわずか9ポイントにすぎない。一方でオスカー・ピアストリとランド・ノリスのマクラーレン勢は遥か前方に位置しており、解除条項発動の現実味が徐々に増してきている。

ただし、契約解除条項の発動条件を満たさなかった場合でも、フェルスタッペンがチームを離れる可能性は十分にあると見る識者も少なくない。

リアタイヤをグラベルに落とすマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、2025年6月27日(金) F1オーストリアGP FP1(レッドブル・リンク)Courtesy Of Red Bull Content Pool

リアタイヤをグラベルに落とすマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、2025年6月27日(金) F1オーストリアGP FP1(レッドブル・リンク)

組織内でくすぶるホーナー交代論

これまでホーナーは、レッドブルGmbHの大株主であるチャルーム・ユーウィッタヤーからの全面的な支持を受けてきたと見られている。だが、内部情報によれば、ユーウィッタヤーは組織再編に無条件で反対しているわけではないという。

チームの競争力が低下しつつあるなかで、関係者全員が如何に神経をとがらせているかは容易に想像される。角田裕毅やリアム・ローソンらセカンドドライバーの成績を見ればほとんど明らかなように、仮にフェルスタッペンがチームを去れば、レッドブルは競技面で大きな損失を被ることになるだろう。そして、それはチームの商業的価値についても同じことが言える。

プラクティス前にパドックで電話をするクリスチャン・ホーナー(レッドブル代表)、2025年6月27日(金) F1オーストリアGP(レッドブル・リンク)Courtesy Of Red Bull Content Pool

プラクティス前にパドックで電話をするクリスチャン・ホーナー(レッドブル代表)、2025年6月27日(金) F1オーストリアGP(レッドブル・リンク)

取り沙汰される候補者リスト

だがホーナーの後任選定は全く容易ではない。彼は名ばかりのチーム代表ではないのだ。21年の経験を持つ実務型のリーダーであり、政治的手腕にも長けており、創設時からチームを率いて数々の歴史的偉業を残してきた司令官にして、チームのDNAとも言える存在だ。

そのため、完全な交代ではなく、「単独主導体制の終焉」とし、各部門をそれぞれ別のマネージャーに統括させる方式が検討されていると見られている。

すでに複数の名前が浮上している。レーシング・ブルズのピーター・バイエルCEOや、マクラーレンの元チーム代表アンドレアス・ザイドルだ。かつてはオリバー・オークスの名前も取り沙汰されたが、実弟が法的トラブルを抱えていることや、アルピーヌのチーム代表を辞任した経緯を踏まえ、現在は候補から外れていると見られている。

メルセデス交渉「決定的段階」との報道も

フェルスタッペンの2026年以降の去就については、夏休み前までに結論が出る見通しだ。移籍先最有力候補と見られるメルセデスのチーム代表トト・ウォルフは、オーストリアGP終了後に「ドライバーたちを必要以上に待たせるつもりはない。我々はサディストではない」と述べ、来季ラインナップ決定のタイムラインを示唆した。

こうした状況を背景に、イタリアの衛星テレビ局『Sky Sports』は7月2日、フェルスタッペンとメルセデスとの移籍交渉が「現実的かつ決定的な段階」に入ったと報じた。

ただし、現在のドライバーラインナップのままでも2026年以降に高い競争力を維持できるとの見方から、メルセデス経営陣の一部はフェルスタッペンの獲得に慎重な姿勢を示しており、移籍の成立には依然としてハードルがあるとされている。

なお、フェルスタッペンがメルセデスに移籍する場合、シートを失うのは新人アンドレア・キミ・アントネッリではなく、ジョージ・ラッセルであり、彼の移籍先としてはレッドブルまたは、アストンマーチンが有力候補だと伝えている。

仮にフェルスタッペンを引き抜く場合、日本円にして200億円を超える巨額の違約金が発生する可能性も指摘されており、「現実的かつ決定的な段階」とする同報道には懐疑的な見方も少なくない。実際、F1関係者の中には、メルセデスとの契約交渉について「実態とは異なる」との声も上がっている。

ジョージ・ラッセル(メルセデス)と話をするメルセデスのチーム代表トト・ウォルフ、2025年F1サウジアラビアGPCourtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.

ジョージ・ラッセル(メルセデス)と話をするメルセデスのチーム代表トト・ウォルフ、2025年F1サウジアラビアGP

なお、今季チャンピオンシップをリードするマクラーレンは、フェルスタッペンの獲得に一切興味を示していない。

ザク・ブラウンCEOは米スポーツ専門チャンネル『ESPN』とのインタビューで、ピアストリとノリスのコンビは「F1で最高のドライバーラインナップ」であると強調し、「彼らの人間性、トラック内外での才能を含めて、他のどのドライバーとも交換したいとは思わない」と断言した。

ただし、現在上昇気流に乗り、2026年の次世代パワーユニット開発において一歩先行していると見られているメルセデスにフェルスタッペンが加わることになれば、「正直、ちょっと恐ろしい」とも語った。