チームのタイトルスポンサーであるライブ配信サービス「KICK」上で配信者が死亡した件を受け、ザウバーF1チームが声明を発表した。この事件はフランス現地警察が捜査を開始し、同国の人工知能・デジタル担当相が「虐待」と非難するなど、社会的関心を大きく集めている。
人気ストリーマーの死
フランス南部ニース近郊コンテで8月18日、配信者ラファエル・グラベン氏(46)が自宅で死亡しているのが発見された。グラベン氏は「ジャン・ポルマノーブ」の名で知られ、KICKをはじめとする配信プラットフォームや各種SNSで100万人以上のフォロワーを抱える人気ストリーマーだった。
同氏は他の2人の配信者とともに行っていた約12日間にわたる連続ライブ配信の最中に命を落としたとされる。現地当局は検視解剖を予定しているが、死因は現時点で公表されていない。
虐待映像と政府高官の批判
一方で配信映像には、グラベン氏が首を絞められる場面やペイント弾で撃たれる様子が映っていた。フランスのクララ・シャパズ人工知能・デジタル担当相は19日、「あまりにも残虐な暴力を受けていた」「KICK上で数ヶ月にわたり屈辱と虐待に晒されていた」と強く批判した。
グラベン氏は当初こそ単独で配信していたが、最後の配信に参加していた他の2人を含め、ここ数年は複数名による配信へと移行していた。その中にはいじめや暴行を受けていたと受け止められるような映像が数多く残されている。
急成長するKICKと「行き過ぎた挑戦」
KICKはオンライン賭博「Stake」傘下のライブ配信サービスで、収益配分を配信者に有利な95%とする仕組みで急速に成長してきた。今回の件については、視聴者からの投げ銭を収益とする「行き過ぎた挑戦」の一環であった可能性が指摘されている。
映像に表示された数字によると、グラベン氏の最後のライブ配信の収益は約3万6000ユーロ(約620万円)だった。
KICKは20日、捜査が終了するまでの間、今回のライブ配信に参加した全員の利用を停止したと説明。「我々の最優先事項はクリエイターを保護し、KICK上でより安全な環境を確保することだ」との声明を発表した。
ザウバーF1の立場
Courtesy Of Sauber Motorsport AG
ステイクF1チームKICKザウバーが2024年のF1ラスベガスGPでC44に採用したスペシャルリバリー
タイトルスポンサーのプラットフォームで起きた悲劇を受け、ザウバーF1チームは「この出来事に深い悲しみを覚える。クリエイターを守るためにKICKが必要な措置を講じると信じている」との声明を発表した。
ザウバーは2024年シーズンを前にマシンのネーミングライツをKICKに売却。さらに、チーム名を「Stake F1 Team Kick Sauber」に変更しており、この契約は2025年末まで続く予定となっている。
サマーブレイク明けのオランダGPでは、同国の賭博規制によりStakeのロゴを掲示できないため「KICK Sauber」として参戦し、現行マシン「C45」やレーシングスーツにはKICKブランドが掲出される見込みだ。
今後の焦点
フランス政府高官による厳しい批判の中、当局の捜査は続いている。サウバーにとってはチームの信頼性やブランド価値に直結する問題であり、スポンサーであるKICKの対応が今後の焦点となる。