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悲劇のF2スパ死傷事故、FIA最終報告書が示すアントワーヌ・ユベール死亡の真相

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国際自動車連盟(FIA)は2月7日、2019年8月31日にスパ・フランコルシャンで開催されたFIA-F2選手権のレース中に発生した死傷事故についての最終調査結果を発表した。このクラッシュでは、フランス人ドライバーのアントワーヌ・ユベールが22歳という若さで死亡し、米国出身のフアン・マヌエル・コレアが瀕死の重傷を負った。

FIAのセーフティー部門は、関係者へのインタビュー、物理的証拠の検証、映像資料の分析ならびに、チームから提供されたデータロガーやアクシデント・データ・レコーダーに記録された情報などの調査を実施。報告書はジェラール・セイラン教授が議長を務めるFIA研究ワーキンググループとFIA安全委員会の審査・承認を経た後、世界モータースポーツ評議会に提出された。

レポートは、レースコントロールやマーシャルの事故への対応及び、イエローフラッグ中の各ドライバーのドライビングには一切問題がなかったと結論づけると共に、この悲劇的な事故は単独要因によって引き起こされたものではなく、偶発的な幾つもの要因が積み重なった結果だと報告した。

世界中のモータースポーツ界が悲しみに暮れたあの事故は一体どのようにして起こったのか? 以下、レポートの内容を要約する。

F2ドライバーのアンソニー・ユベール
© FIA FORMULA 2、アントワーヌ・ユベール

アントワーヌ・ユベール死亡の真相

調査の焦点は、事故に関与した19号車(アントワーヌ・ユベール)、12号車(ファン・マヌエル・コレア)、20号車(ジュリアーノ・アレジ)、21号車(ラルフ・ボシュング)4台のマシンに当てられた。

オープニングラップでは、低速走行していたマシンを原因としてイエローフラッグ(ターン12・13)が提示されたが、レースリーダーが2周目のスタートラインを駆け抜けた際、事故発生区間となったセクター1はグリーンフラッグ状態であった。一連の事故のきっかけとなったのは、ジュリアーノ・アレジだった。

合計14.6秒間続いた一連の事故は、2周目の3ターン目(通称:オー・ルージュ)の出口でアレジがマシンのコントロールを失った事で始まった。まずは車体がスピンし、その後コースの左側へと飛び出たアレジは、制御不能となった1.9秒後にバリアに衝突。ターン4(通称:ラディオン)を過ぎたところで今度はコース側に跳ね返った。調査団はクルマが制御不能となった原因について、右リアタイヤの内圧低下の可能性が高いと結論づけた。

スパ・フランコルシャンの2018年版コースレイアウト図

バリアに激突した事で、アレジのマシンの破損パーツがコース上に広く飛散。アレジとデブリを避けるべく、ボシュングとユベールはステアリングを右に切り、コースを離れてターン4のランオフエリアに逃げた。この時点で黄旗は振られていなかった。

最初にイエローフラッグが振られたのは、アレジが障壁に激突した1.8秒後。ターン4脇の5番ポストのマーシャルによって提示された。

アレジの事故発生にいち早く反応したボショングは、ユベールよりも急激に減速。ユベールはボショングとの衝突を避けるために、更に右側に逃げそうと回避行動を取った。だがユベールはボショングの車体後部と接触してフロントウイングを破損し、ボショングのリアタイヤはパンクした。

フロントウイングを失い、制動力とコントロールを失ったユベールは、時速216km、40度の入射角でターン4出口のランオフエリア右側のバリアに衝突。最大衝撃値33.7Gを記録した。衝突エネルギーはバリアによって幾らか吸収されたものの、マシンは弾き飛ばされるように、回転しながらコース側へと押し戻された。

その間、コレアはアレジの事故現場に向かって走行していた。概ねレーシングラインを走行していたコレアは、ターン4出口でコースアウト側へとアプローチ。ここでアレジのマシンのデブリに接触した。黄旗が振られてから約1.5秒後のことだった。

破片との接触によって、右フロント・サスペンションとフロントウイングが損傷し、コントロールを失ったコレアは進路を右方向に変え、ターン4のランオフエリアへと侵入。その1.6秒後に、ほぼ静止状態にあったユベールの車体左側に、入射角約86度、時速218kmで衝突した。コレアの12号車には最大65.1Gが、ユベールの19号車には最大81.8Gもの衝撃が加わっていた事が明らかにされた。

このクラッシュによって、ユベールのマシンは時速105.4kmにまで加速され再びバリアに激突。その後コース側に弾き飛ばされた。コレアとユベールの衝突の2.5秒後にダブルイエローが振られ、その2.7秒後に赤旗が続いた。ユベールはコースの左側で、コレアはその反対側で停止した。

一連の事故の起点となったアレジのスピンから数えて12秒後、つまり、コレアの車体が停止する前、ダブルイエローが提示された直後にメディカルチームとレスキュー隊が始動した。現場に到着した医療班がユベールに初めて医学的評価を下したのは、赤旗から54秒後の事であった。

赤旗が振られた16秒後に、燃料漏れによってコレアの12号車に火災が発生したものの、これはマーシャルによって2秒以内に鎮火された。コレアに対する現場での最初の医学的評価は、赤旗の69秒後に行われた。


安全性の改善は継続的なプロセスによって担保される。今回の事故によって得られた教訓は、FIAで行われているワーキンググループでの作業に統合され、モータースポーツの安全性の更なる発展に使われる。FIAのセキュリティ部門は2019年に、F2スパでのクラッシュと並んで各国のASN(National Sporting Authority)のサポートを受けて、計28件の致命的な事故の調査を実施している。