
FIA会長選、解任された元F1審判ティム・メイヤーが出馬表明―再選目指す現職ベン・スレイエムを批判
長年F1スチュワードとして活動してきたティム・メイヤー(59歳)が、2025年F1第12戦イギリスGPを前にした7月5日(金)、国際自動車連盟(FIA)の次期会長選挙への立候補を表明した。現職モハメド・ベン・スレイエム会長の唯一対抗馬として、今年12月に予定されている選挙に向けた準備を進めることになる。
FIA会長選挙では、単独での立候補は認められておらず、執行部ポストに就任予定の候補者全員の名簿を提出した上で初めて立候補が成立する。また、立候補の適格性については、現職会長の下に設置された指名委員会による審査を経る必要がある。
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元FIAスチュワードのティム・メイヤー、2017年4月25日
ティム・メイヤーは、かつてマクラーレンのチーム代表を務めたテディ・メイヤーの息子であり、米国のチャンプカーやIMSA、アメリカン・ル・マン・シリーズなどで要職を歴任。FIAでは15年にわたり、F1を含む複数の世界選手権でスチュワードを務めており、競技運営とレギュレーションの実務に精通している人物だ。
今回の立候補の背景には、ベン・スレイエム会長の資質や統治手法に対する批判がある。
2024年11月のF1アメリカGP後、観客がコースに侵入するという事件が発生。メイヤーはサーキット側の代理人として審理に対応したが、その後スチュワード職を解任された。この件についてメイヤーは、自身がサーキット側の代理人として対応したことにベン・スレイエムが「気分を害した」ことが理由だったと主張し、会長としての統治姿勢を公然と批判していた。
この一件を挟んで、メイヤーを含むFIAの主要幹部4名が相次いで組織を去っており、その中にはメイヤーが「次世代のレースディレクターの最高峰」と評していたジャンネット・タンや、元F1レースディレクターのニールス・ヴィティヒも含まれていた。背景には、FIA内における統治体制や人事方針をめぐる摩擦があったと見られている。
英専門誌『Autosport』に対しメイヤーは、「モハメド・ベン・スライエムは3年半前に、透明性、ガバナンス、非業務執行会長であることなど、素晴らしい公約を掲げて当選したが、いずれも実現されておらず、むしろ逆のことが起きている」と指摘した。
「真のリーダーシップとは、人を育てることだ。今のFIAは“回転ドア”のように、有能な人材を迎え入れては、真実を語ると追い出してしまうという、非常に憂慮すべき状況にある」
「世界モータースポーツ評議会のメンバーたちでさえ、最近の会議内容を他のメンバーやクラブに共有することを禁じられていると聞いている。議論のない組織で良い意思決定は生まれない。私はこの点を即座に変えたい」
さらに、FIAが最近、断行してきた規約改定については、「個別には正当な理由があるように見えても、全体として見れば“ひとりの人間”に権力を集中させるためのものであることは明白だ」とも指摘した。
今回の選挙では、スペイン出身のラリー界のレジェンドであるカルロス・サインツSr.も一時、立候補の意向を示していたが、「現状は出馬に適した時期ではない」として6月に辞退を表明。これにより、現時点でベン・スレイエムの対抗馬と目されているのは、メイヤーただ一人となっている。