
ルイス・ハミルトン父がFIA参画へ、再選狙うベン・スレイエム会長の布石か
7度のF1ワールドチャンピオン、ルイス・ハミルトン(フェラーリ)の父であるアンソニー・ハミルトンが、国際自動車連盟(FIA)の若手ドライバー育成プログラム「Young Driver Development Pathway(YDDP)」において正式な役割を担う見通しであることが明らかになった。
英紙『The Times』によると、アンソニー・ハミルトンは過去18か月にわたり、FIAのモハメド・ベン・スレイエム会長と非公式に協力し、アドバイザーとしてYDDPの発足に向けて尽力。その取り組みが評価され、今回正式な役割が与えられる方向で調整が進められているという。
YDDPは、ジュニアカテゴリーからF1に至るまでの道筋を体系的に整備し、若手ドライバーの支援を目的とするもので、2025年6月にマカオで開かれるFIAの年次会議で正式に発足する予定だ。
アンソニー・ハミルトンの具体的な役職は現時点で未定だが、息子ルイスのキャリア初期を支えた経験を活かし、若手ドライバーが直面するリスクや課題に対して、実践的な指導と精神的な支援を提供することが期待されている。
なお、アンソニー・ハミルトンはここ数年、息子ルイスのマネジメント業務には関与しておらず、FIAでの役職就任において利益相反が生じることはないと見られている。
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FIAのモハメド・ベン・スレイエム会長、2023年1月9日(月) ラリーダカール2023(リヤド、サウジアラビア)
一方で、ルイス・ハミルトン自身はこれまでベン・スレイエム会長への支持を公に示したことは一度もなく、昨年には「彼を支持したことは一度もない」と明言。さらに、F1ドライバーの発言に対するFIAの規制強化に際し、ベン・スレイエム会長がドライバーを「ラッパーのようだ」と例えた件についても、「かなりステレオタイプ的で、しかも人種的な要素すら含まれていた」と強く非難している。
ベン・スレイエム体制下のFIAは、これまでに幾度となく混乱に見舞われてきた。FIA女性委員会のデボラ・メイヤー委員長、競技ディレクターのスティーブ・ニールセン、技術ディレクターのティム・ゴス、CEOナタリー・ロビン、広報責任者ルーク・スキッパーらが相次いで退任しており、統治体制への批判が絶えない。
ベン・スレイエム会長は、2025年12月に行われる次期FIA会長選挙において、2期目を目指して出馬するとみられている。一方、世界ラリー選手権(WRC)において2度のタイトルを獲得したカルロス・サインツSr.が、対立候補として立候補を検討していると報じられている。
『The Times』は、アンソニー・ハミルトンの起用について、「ベン・スレイエム会長にとって、ドライバー側の支持を得ているという印象を与える狙いもあるのではないか」と分析している。
ベン・スレイエム会長の再選に向けた動きと受け取れる措置は他にもある。イギリスの公共放送『BBC』によると、6月に開催されるFIAの総会では、会長の権限をさらに拡大する内容を含む規約変更案が投票にかけられる予定であり、その中には会長選挙の候補者登録締切を前倒しする案も含まれているという。
こうした中、アンソニー・ハミルトンがベン・スレイエム会長と足並みを揃える形となったことで、年末に行われるFIA会長選挙において、彼が他の候補者を支持する可能性は実質的に排除されたと見られている。