
FIA、再選目指す会長提案の”物議を醸す規約改正”を可決─「暗黒時代到来」との警告にもかかわらず
F1の統括団体である国際自動車連盟(FIA)は2025年6月13日、マカオで開かれた総会において、モハメド・ベン・スレイエム会長が提案した複数の規約改正案を、加盟クラブの投票によって可決した。
改正内容には、次期FIA会長選挙に向けた候補者の申請期限を4週間前倒しする項目や、会長によるFIA評議員への影響力強化、さらに監査・倫理・人事の各委員会の任期を会長職と同一の4年に揃える措置などが盛り込まれている。
「民主的後退の暗黒時代」墺クラブが反発
本改正案に関しては、透明性や民主性の観点から今後の組織運営に対する懸念が高まっている。最も強く反発したのは、オーストリアの自動車クラブ『ÖAMTC』だ。
イギリスの公共放送『BBC』や『ロイター通信』によると、総会前日の6月12日、同クラブはFIAの世界自動車モビリティ・観光評議会(WCAMT)宛に書簡を送り、FIAが現在「民主的後退の暗黒時代」に突入しつつあると警告した。
また、ベン・スレイエム会長の提案による今回の改正案については、再選を見据えた布石の一つであると指摘し、「透明性あるガバナンスという観点でのFIAの評判をさらに損なうリスクがある」として、投票の延期を強く求めたという。
ÖAMTCの指摘によれば、今回の規約変更は以下のような性質を持つとされる。
- 会長立候補の申請期限の前倒し:対立候補の出馬を困難にする意図
- 世界モータースポーツ評議会(WMSC)の多国籍性に関する規約の緩和:会長に近い支持者を評議会に集める狙い
- 各委員会の任期を会長職と一致:監視機能の独立性が「露骨に低下」する恐れ
- 最大4名の評議員の任免権限を会長に移行:評議会による会長監視機能の弱体化
”圧倒的多数”で可決、FIAは「民主的」と主張
だが、こうした深刻な懸念が示されるなかでも、FIA総会では投票が実施され、改正案は83.35%の賛成多数で承認された。特に倫理規約に関する修正案については、88.83%が賛成票を投じた。
ÖAMTCのほか、イギリス、ベルギー、ポルトガル、スイスといった複数の国の代表が投票延期を求めていたが、最終的には少数派にとどまった。
FIAは「すべての改正案は、加盟クラブによる圧倒的多数の支持を受けて承認された。これはFIAを構成する民主的なプロセスに基づくものだ」と声明を発表し、今回の決定の正当性を強調している。
ベン・スレイエム、再選に向け前進
ベン・スレイエム会長の1期目の任期は2025年12月に終了する予定で、現時点で立候補を正式に表明しているのは現職の本人のみとなっている。ラリー界のレジェンドであるカルロス・サインツSr.が出馬を検討しているとの報道もあるものの、いまだ正式な立候補表明には至っていない。
今回の改正案が圧倒的多数の支持を得て可決されたことは、再選を目指すベン・スレイエム会長にとって極めて大きな前進といえる。
だがその一方で、制度改革を掲げて就任したはずの現会長が、むしろ統治権限を集中させているとの批判も根強く、近年相次ぐ組織上層部の人材退任と相まって、FIAの内部統治に対する不信感は年々高まっている。