
角田裕毅、レッドブルに“7年ぶりの衝撃”も…評価確立には依然課題―ベルギーGPでの光と影
2025年F1第13戦ベルギーGPで、角田裕毅はレッドブル昇格後最高位となる予選7番手タイムを記録した。マックス・フェルスタッペンとのタイム差はわずか0.357秒。スパ・フランコルシャンでこれほどフェルスタッペンに迫ったチームメイトは、2018年のダニエル・リカルドが最後。実に7年ぶりの快挙だった。
例えば、雨に見舞われた2024年のベルギーGP予選で、セルジオ・ペレスは3番手を記録しているが、最速を刻んだフェルスタッペンとの差は0.606秒。ドライで行われた2023年の予選でも、同じく3番手ながらポールのフェルスタッペンとの差は0.877秒に達していた。こうした比較からも、角田の走りがいかに際立っていたかが分かる。
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スプリント前のファンステージでシミュレーターを使い、角田裕毅にラップ解説するマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、2025年7月26日(土) F1ベルギーGP(スパ・フランコルシャン)
7戦ぶりとなるQ3進出――この劇的な改善の背景には、予選直前に導入された新型フロアがあった。チーム代表ローラン・メキーズは、角田の適応力を「素晴らしい」と絶賛した。走行時間が大幅に限られる中でのアップグレードはリスクを伴うが、エンジニアやメカニック共々、角田は見事にやり遂げた。
運命を分けた一瞬の“指示遅延”
「明日に向けても自信があります」
如何なるコンディションでも競争力を発揮できる――そう自信をのぞかせていた角田を決勝で待ち受けていたのは、あまりにも厳しい現実だった。
レース序盤、路面状況がインターミディエイトタイヤからスリックタイヤへの交換タイミングに差し掛かると、角田は無線でチームに状況を報告した。ほぼドライ、との判断は的確だった。最終シケインに近づく角田は、短く尋ねた。
「ボックス?」
だがピットウォールの返答は遅すぎた。レースエンジニアのリチャード・ウッドから「ボックス、ボックス」との指示が出された時、角田はすでにピットエントリーを通り過ぎていた。
「ふざけんなよ!ドライだって言っただろ!」
怒りをあらわにした角田の声が無線に響いた。一方のフェルスタッペンには、最終コーナー手前で滞りなくピットインの指示が出されていた。
ヒューマンエラーだったのか、それとも機材上の問題だったのか――原因は明らかになっていない。レッドブルのモータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコはレース後、独専門チャンネル『Sky Sports』に対し、「原因を明確に解明しなければならない。7番手から12位というのは、我々が期待していた結果ではなかった」と語った。
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2025年F1第13戦ベルギーGPの決勝で、ウエット路面のスパ・フランコルシャンを走行する角田裕毅(レッドブル)、2025年7月27日jpg
チーム代表も認めた「ミス」
レース後、メキーズは「あれは我々のミスだ」とチーム側の失態を認めた。「マックスと同じ周にピットインさせるつもりで、ピットクルーもダブルストップの準備を整えていたが、ユーキへの指示が遅すぎた」
この1周の遅れが致命的だった。角田は5つポジションを失ってポイント圏外へ転落。巻き返しを目指したが、極端な低ドラッグ仕様のリアウィングを搭載したピエール・ガスリー(アルピーヌ)を攻略することはできず、7戦連続(スプリント含む)のノーポイントに終わった。
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決勝前のグリッドでローラン・メキーズ(レッドブル代表)と会話する角田裕毅、2025年7月27日(日) F1ベルギーGP(スパ・フランコルシャン)
連続無得点に表れない改善の兆し
今回の無得点はチーム側の責任だが、これまでの苦戦の一端は、角田自身が蒔いた種にあった。エミリア・ロマーニャGP予選でのQ1クラッシュ以降、角田はクルマのスペックでチームメイトに遅れを取っていた。
だが、たとえ新型フロントウイングを含めた幾つかの最新パーツが未だ投入されていないとはいえ、新しいフロアを得た今回の予選では、これまでとは明らかに違う走りを見せた。
予選7番手という好位置を踏まえれば、角田にとって8位以上、すなわちレッドブル昇格後の決勝べストリザルトは、十分に現実的だった。
なお、スプリントと予選の間という異例のタイミングでのアップグレード導入についてメキーズは、特別な扱いではないと強調した。実際、クリスチャン・ホーナー体制下のカナダGPでも2日目を前に角田にアップグレードが投入された例がある。
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予選でレッドブルRB21をドライブする角田裕毅、2025年7月26日(土) F1ベルギーGP(スパ・フランコルシャン)
一方で課題:ペース不足を指摘するマルコ
予選では光ったが、決勝では依然として課題が残った。ピットエラーの直後、クリーンエア下で前走ガスリーとのギャップを縮めようとした角田だが、ペースは期待されたほど上がらず、フェルスタッペンに対して1周あたり1秒近く遅れを取っていた。
英専門誌『Autosport』によると、マルコも角田のペース不足を指摘した。マルコはピットエラーにより角田が後退を余儀なくされたと認めつつも、「スピードも良くなかった」と語った。
角田はこれまでも、シングルラップペースでは何度か速さの片鱗を見せてきたが、燃料搭載量が多いロングランでは一貫してペース不足に苦しんでおり、角田自身がこれまで何度か口にしている「タイヤが溶ける問題」の解決の兆しは見えていない。
再起への鍵は“信頼と支援”の両輪
メキーズ率いる新体制を迎え、角田には追い風が吹きつつある。2016年のF1王者ニコ・ロズベルグは、英専門チャンネル『Sky Sports』の番組内で、メキーズは角田に「大きな違い」をもたらすだろうと指摘した。
「フェルスタッペンだけでなく、彼はユーキにも新しいアップグレード、新型フロアを与えた。本当に後押ししている」
「セッション後にはサムアップして笑顔を送っていた。これはドライバーにとって大きな違いを生む。突然、自分がチームからサポートされていると感じられるようになるからだ」
「前に聞いた話だと、チームはマックス・フェルスタッペンのことしか気にかけておらず、彼は少しチーム内で孤立を感じていたみたいだった。でも今、ローランは明らかにユーキのことも気にかけている」
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レッドブル・レーシングでの仕事初めに臨むチーム代表兼CEOのローラン・メキーズ、2025年7月10日シルバーストン・サーキット (2)
ハンガリーで問われる“継続性”
次戦ハンガリーGPは、オーバーテイクが難しいコース特性ゆえに、予選結果が極めて重要となる。角田には再び予選で力強い走りを見せ、それを確実にポイントへと結び付ける走りが求められる。そしてレッドブル側にも、スパで露呈したような初歩的なミスを二度と繰り返さぬよう、構造的な対策が求められる。
すでにシーズンは折り返しを過ぎ、証明の猶予は限られつつある。光る一瞬のパフォーマンスではなく、積み重ねられた結果こそが評価される世界で、角田は自らの将来をコース上で掴み取らなければならない。
仮に角田が結果を残せなければ、レーシング・ブルズの新人アイザック・ハジャーが、来季のシート争いで最大のライバルとなる可能性がある。
レギュレーション刷新を迎える2026年シーズン。継続性という観点から、角田の残留はレッドブルにとっても望ましいシナリオと言えるが、すべてはコース上での結果次第だ。
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ドライバーズパレードで言葉を交わすアイザック・ハジャー(レーシング・ブルズ)と角田裕毅(レッドブル)、2025年7月27日(日) F1ベルギーGP(スパ・フランコルシャン)