
破片に当たるのを黙って待てと?―角田裕毅、降格ペナに不満まくし立てる…一方で”アプグレ”には手応え
2025年F1第10戦カナダGPの予選を終えた角田裕毅(レッドブル)は、普段の冷静さをわずかに失い、10グリッド降格ペナルティという重い裁定に対して激しい不満をあらわにした。まくし立てるように語る姿は、近年の成熟した振る舞いからすれば異例のことだった。
「安全優先」が裏目に、スチュワードは厳格対応
発端は、最終プラクティス(FP3)中に発生した。オスカー・ピアストリ(マクラーレン)が“チャンピオンズ・ウォール”に接触し、赤旗が提示された。右リアに損傷を負い、時速80km程度で走行していたピアストリのマシンからはデブリが断続的に脱落していた。
バックストレートでこの状況に遭遇した角田は、安全を考慮して追い越しを決断。だが、エンリケ・ベルノルディら5名のスチュワードは「安全な距離を保って追走することは可能だった」とし、赤旗下での追い越しは正当化できないと判断。10グリッド降格という重い処分を科した。
「衝突に備えろ、ということのようです」
聴聞で角田は、危険回避のためだったと必死に説明したが、その主張は退けられた。
「正直、10グリッド降格ペナルティを受けるとは思ってもみませんでした。まさか呼び出されるなんて。一体、僕にどうしろって言うんだろう?という気持ちです」
角田の口調には、明らかに苛立ちが滲んでいた。
「オスカーは酷いダメージを負っていて、バックストレートで見かけたときは時速80kmくらい。ピットレーン並みに遅かった。デブリが散らばっていて、タイヤも外れそうでした。後ろを走り続けるというのは、何かが飛んでくるのを待つようなものです」
「そんな状況は避けたいわけで、あのまま時速80kmで後方を走り続けるというのは、何かに当たるのを待っているようなものでした」
角田の判断の背景として、チームからの無言の圧力があったことを考慮するのは妥当だろう。イモラでのQ1クラッシュ以降、「クルマを壊すな」と厳命されていた彼にとって、デブリとの接触を何としても避けたいという思いは切実だった。
「オスカーは他のドライバーに迷惑をかけないように、コースの一番左側を走っていました。本当に適切な対応だったと思います。なので、それを確認したうえで右側のラインを走り、前後のクルマの位置もチェックして、彼を追い越しました」
「スピードは時速170kmくらい。普段のペースの半分くらいです。不必要なリスクを避けるために追い越したのに、それでも違反とされてしまいました。つまり、前のクルマの後ろにとどまって、衝突に備えろ、ということのようです」
踏んだり蹴ったりの一日
この日の角田は、まさに災難続きだった。同じFP3では、フロントブレーキ周辺の信頼性トラブルと見られる理由により、ガレージでの作業に時間を費やし、走行はわずか14周。残り5分を切った段階でようやくコースへ復帰したが、20番手に沈んだ。
「トラブルもあって、かなりの走行時間を失いましたし、今日は本当にバタバタした一日でした」
こうした準備不足が響き、予選ではアイザック・ハジャー(レーシング・ブルズ)にQ2終盤で逆転され、至上命題としていたQ3進出を0.099秒差で逃す11番手に終わった。
「理不尽」への怒りは収まらず
それでも角田の怒りは、ペナルティに向けられていた。
「確かにルールはルールですが、これはフリー走行中の出来事ですし、このペナルティは不当だと思います。デブリは最終コーナーだけでなく、ほとんどのコーナーにあって、小さな破片があちこちに散らばっていました」
「正直、彼らが僕に何をさせたかったのか分かりません。本当にフラストレーションが溜まります」
レッドブルのマシンにまだ完全な信頼を置けずにいる角田にとって、この一連の出来事は大きな痛手となった。
「もし慣れてるクルマであれば、時間がなくても各コーナーをどう攻略すればよいか分かっているので、限界まで攻められます。でも、レッドブルのクルマには、まだ完全な信頼や自信が持てていないし、学んでいる最中です」
「11番手には満足していません。でも、バランス自体は結構よかったと思うし、その点ではチームが素晴らしいサポートをしてくれました。ただ、今回はとにかく時間が必要でした。それだけに、特にFP3の問題は響きました」
アップグレード投入「確実にポジティブな変化」
悪い流れが続く中、土曜に向けてレッドブルは、すでにマックス・フェルスタッペン車に導入されていたいくつかのアップグレードを角田裕毅のRB21にも投入した。これは角田にとって、わずかながらも前向きな材料となった。
「確実にポジティブな変化だと感じました。クルマにスピードがありましたし、いくつかのコーナーでは自分が改善できるポイントも見えてきました」と角田は語った。
ただし、アップグレードによって挙動が変化したことで、予選までに十分に適応しきれなかった点を悔やんだ。
赤旗中の追い越しにより、2戦連続で最後尾からスタートする角田だが、アップグレードされたマシンへの理解を深める機会という意味でも、決勝での完走と巻き返しに期待がかかる。
2025年F1カナダGP予選では、ジョージ・ラッセル(メルセデス)がポールポジションを獲得。2番手はマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、3番手はオスカー・ピアストリ(マクラーレン)という結果となった。
決勝レースは日本時間6月16日(日)27時にフォーメーションラップが開始され、1周4361mのジル・ビルヌーブ・サーキットを70周する事でチャンピオンシップを争う。レースの模様はDAZNとフジテレビNEXTで生配信・生中継される。