
新型フロアだけでは語れない─角田裕毅のスパ躍進、後押ししたメキーズ新代表の”知られざる行為”
2025年F1第13戦ベルギーGP予選。スパ・フランコルシャンを駆け抜ける角田裕毅の走りには、これまでとは明らかに違う力強さが宿っていた。5月のマイアミGP以来、7戦ぶりとなるQ3進出。レッドブル昇格後最高位となる7番グリッドを獲得した。
この躍進の裏には、急遽投入された新型フロアの存在がある。だが、角田を真に後押ししたのは、技術的アップグレードだけではなかった。
この日の結果に対する新型フロアの効果について問われた角田は「大きなステップになったことは間違いない」としつつも、「なんとも言い難い」と返した。角田の走りに違いをもたらした要因は、アップグレードと“人”にあった。
再会がもたらした”いつもの光景”
今大会からレッドブルのチーム代表として合流したローラン・メキーズは、昨年から今季序盤にかけて角田を支えてきた旧知の人物だ。その再会は、思いがけない化学反応を生み出していた。
「実は面白い話があって」と語り始めた角田のエピソードは、国際映像では捉えきれないF1の現場における“人と人”の関係の深さを物語るものだった。
「僕がレーシング・ブルズにいた時、Q3に進出するたびに彼が毎回、ピットウォールから笑顔を見せてくれていたんです。そして今日もまったく同じように、僕を見て笑顔を向けてくれて。あれで、自分が良い仕事をしてるんだなって。昔の良い思い出が蘇った瞬間でした」
一見すれば些細な事だが、角田は日頃から「あらゆる細部が違いを生む」と繰り返してきた。信頼する人物からのささやかなサインが、角田に自信と落ち着きをもたらしていた。
Courtesy Of Red Bull Content Pool
RBのチーム代表を務めるローラン・メキーズと話をする角田裕毅、2024年5月17日F1エミリア・ロマーニャGPフリー走行
エンジニア出身の指揮官がもたらす“信頼の回路”
前任のクリスチャン・ホーナーがレーシングドライバー出身であるのに対し、ローラン・メキーズはエンジニア出身のチーム代表だ。このバックグラウンドの違いは、角田にある種の安心感を与えている。
「ローランとは、各セッションの前に必ず話をしていて、僕がクルマで感じたことをフィードバックし、それを彼がエンジニアリングチームに伝えてくれているのですが、それだけで違うものなんです」と角田は明かす。
技術的知見を持つ指揮官との対話は、ドライバーとエンジニアリングの間に新たな架け橋を築いており、角田にとっては単なるコミュニケーション以上の価値があるという。
「チーム内での自信が深まりますし、グループ全体の一体感を確認するという意味でも重要です。些細なことですが、特に今のように本当に僅かの差を争っている状況では、こうしたことが決定的な違いを生むんです」
Courtesy Of Red Bull Content Pool
ピットレーンで様子を伺うローラン・メキーズ(レッドブル代表)、2025年7月26日(土) F1ベルギーGPスプリント(スパ・フランコルシャン)
100戦目の節目「クレイジーな5年間」
日曜の決勝で、角田裕毅はF1通算100戦目のスタートを切る。2021年のバーレーンGPで鮮烈なデビューを果たしてから、およそ4年半。節目のレースを目前に控えた角田は、自身のこれまでの歩みを「クレイジー」と表現した。
「正直、ちょっとクレイジーな感じがします。バーレーンでのデビュー戦がまるで明日…いや!昨日のことのように感じられます」
Courtesy Of Honda Motor Co., Ltd
2021年3月28日のF1バーレーンGP決勝レースを前にグリッド上で準備を整えるアルファタウリ・ホンダの角田裕毅
だが角田の視線の先にあるのは、過去ではなく未来だ。
「この5年間は、人間として、そしてもちろんドライバーとしても、たくさんの成長の機会をもたらしてくれました。F1という世界は、本当に厳格で過酷ですが、同時に、想像もできないほど多くの経験を積み、成長できる場所でもあります」
「なので、今後も自分ができることを、とにかく全力でやり続けていくつもりです」
”特別なスパ”で狙うポイント獲得
「正直、最後にポイントを獲得したのは何年も前のような気がしますね」
レッドブル昇格以降、角田裕毅は一貫性を欠くRB21に苦戦を強いられてきた。時に鋭いパフォーマンスを見せながらも、今季のF1は全チームのパフォーマンス差が極めて小さく、わずかなミスや不運が順位を大きく左右するシビアな状況が続いている。
だが今回、角田の背中を押す要素は揃っている。新型フロアの投入、信頼するメキーズとの再会、そしてF1通算100戦目という節目。すべてが、彼の集中力と士気を高める方向に作用している。
スパ・フランコルシャンで迎える“特別な日曜”。角田は、2ヶ月ぶりとなるポイント獲得を目指し、ただひたすら前を見据えている。メキーズの笑顔に応える走りで以て、自らの節目を価値ある結果で彩ることができるか。注目が集まる。
Courtesy Of Red Bull Content Pool
スプリントに向けてパドック入りする角田裕毅(レッドブル)、2025年7月26日(土) F1ベルギーGP(スパ・フランコルシャン)
2025年F1ベルギーGP予選では、ランド・ノリス(マクラーレン)がポールポジションを獲得。2番手にチームメイトのオスカー・ピアストリが、3番手にシャルル・ルクレール(フェラーリ)が続く結果となった。
決勝レースは日本時間7月27日(日)22時にフォーメーションラップが開始され、1周7004mのスパ・フランコルシャンを44周する事でチャンピオンシップを争う。レースの模様はDAZNとフジテレビNEXTで生配信・生中継される。