
マルコの”事後対応”でレッドブル離反続出?本社主導のホーナー解任劇でチーム内部に亀裂か
前チーム代表クリスチャン・ホーナーの解任をめぐる混乱が、レッドブル・レーシング内部でくすぶり続けている。ホーナーに代わってチームの指揮権を掌握した新たな上層部に対し、一部従業員から強い反発が噴出しており、退職を検討するスタッフも出始めているという。
関係筋からは「チーム崩壊の危機」との声も上がっており、英国内に本拠を構えるレーシングチームと、オーストリア本社との対立が表面化しつつある可能性が浮上した。
20年の功績に幕─ホーナー突然の解任
2005年のチーム創設時からレッドブルの指揮を執り、8度のドライバーズタイトルと6度のコンストラクターズタイトルをもたらしてきたホーナーは、7月9日にロンドンで開催された会議に呼び出され、その場で突如として解任を通告された。
チーム関係者によれば、ホーナー本人には事前の通告は一切なく、通常の会議との認識で出席した際に、初めて自身の解任を知らされたという。
同日、チーフ・マーケティング・オフィサーのオリバー・ヒューズ、広報責任者のポール・スミスも同様に解任され、社用端末を押収された上で、施設からの即時退出を命じられたとされる。
新体制への反発と職場の動揺
ホーナーの後任には、レーシング・ブルズの前チーム代表ローラン・メキーズが就任したが、実質的な権限はモータースポーツ・アドバイザーのヘルムート・マルコ、ならびにレッドブル本社で企業プロジェクトおよび新規投資部門を統括するオリバー・ミンツラフにあると見られている。
Courtesy Of Red Bull Content Pool
ガレージで話を交わすレッドブルのモータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコとレッドブル・スポーツ担当責任者のオリバー・ミンツラフ、2022年11月19日F1アブダビGPのFP3にて
英大衆紙『The Sun』によると、ホーナーの解任翌日にミルトンキーンズのファクトリーでスタッフ向けの説明会が行われたが、マルコの発言がさらなる反発を呼び、一部スタッフが辞職を検討する事態に発展しているという。
女性従業員の一人は、「クリスチャンが解任された翌日、多くのスタッフがまだショックを受けていた中で、マルコ氏が解任を冗談のように扱い、『もっと笑っていこう』と言ったのです。そんな状況で笑顔になれるはずがありません」と憤りを口にした。
また、ミンツラフは、解任されたホーナーらに言及する場面で冗談めいた言葉を交え、「問題があれば直属の上司に連絡を」「あ、上司がいなくなってしまった人は私に直接メッセージを」と笑いながら語ったとされ、職場に広がる不信感に拍車をかけたという。
さらに、ホーナーと長年にわたって家族ぐるみの関係にあった友人の一人は、「クリスチャンはこの18カ月、妻のジェリや家族とともに数々の困難を乗り越えてきた。それなのに、前触れもなく職を追われた。彼は深く傷つき、裏切られたと語っていた」と証言した。
「彼はテキストメッセージに関するスキャンダルで2度も潔白が証明されたにもかかわらず、現在はガーデニング休暇に入り、自分が愛していた仕事をなぜ失ったのか、その理由さえ説明されていない」
英独対立とパワーゲーム
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英国ミルトンキーンズにあるレッドブル・レーシングのファクトリー
2024年2月、ホーナーは女性従業員からセクシュアルハラスメントを含む不適切行為で告発されたが、2度にわたる内部調査ではいずれも嫌疑なしと判断された。にもかかわらず今回、明確な説明のないまま解任されたことに対し、「チームの支配権をめぐる権力闘争の結果」との見方が出ている。
前出のホーナーの友人は、「レッドブル本社のオーストリア人経営陣は、英国人がF1チームを率いて成功を収めていることに長年不満を抱いていた。それが今回の人事の根底にある」と指摘する。
さらに「チームスタッフの大多数はイギリス人で、クリスチャンへの忠誠心も極めて高い。退職を検討する者は少なくなく、現場は混乱の只中にある。今のミルトンキーンズは迷走している」と語った。
一時代を築いた強豪の岐路
レッドブルは近年、マックス・フェルスタッペンの活躍によってF1で一時代を築いた。必ずしも従業員の全てがホーナー解任劇に反発しているわけではないだろうが、それでも組織内部の混乱が競技面に波及する可能性は否定できない。
かつて「最も結束力のあるチーム」と称されたその姿が、いま大きく揺らいでいることは確かだ。
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F1ワールドチャンピオン獲得記念撮影に臨むマックス・フェルスタッペンとレッドブル・ホンダのメンバー、イギリス・ミルトンキーンズのファクトリーで行われた2021年12月15日の凱旋祝賀会にて (2)