ホンダが2019年シーズンのFIA-F1世界選手権に投入し、レッドブル・レーシングとスクーデリア・トロロッソが搭載したパワーユニット「RA619H」、2021年3月22日撮影 (3)
Courtesy Of Honda Motor Co., Ltd

2026年F1エンジン規定詳細:制限強化の一方で1020馬力もラグ復活か…予算上限と新燃料、使用可能基数とテストルール

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地球環境保全の世界的時流と新たな自動車メーカーの誘致を背景とする2026年以降の新たなF1パワーユニット・レギュレーションが遂に、FIA世界モータースポーツ評議会(WMSC)で承認された。

基本となるアーキテクチャは継承しつつも、エネルギー消費を大幅に削減し、CO2排出量を実質的にゼロとする次世代のF1パワーユニット(PU)。2026年のF1エンジンルールの詳細を以下にまとめる。

ERSパワー3倍増で1020馬力

ポルシェ及びアウディの参戦要件の一つであるMGU-Hの廃止に伴い、現行PUと同等レベルのパワーを維持べく、エネルギー回生システム(ERS)による出力を350kW(約476馬力)へと引き上げる。これは現行(120kW)の約3倍だ。

ICE(内燃エンジン)は1.6リッターV6のレイアウト、回転数を維持する一方、燃料流量は削減される。ただ、それでもなお約400kW(約544馬力)の出力を目指す。

PU全体の出力は約1020馬力となる見込みで、レースの魅力を高めるためにエンジンサウンドも高められる可能性がある。

2019年F1オーストリアGP優勝マシン搭載パワーユニット「RA619H」Courtesy Of Honda Motor Co., Ltd

2019年仕様のホンダ製F1パワーユニット「RA619H」

悪名高いターボラグ復活か

MGU-Hの廃止に伴い悪名高いターボラグが復活する可能性がある。

MGU-Hは単に排気エネルギーを回生するだけでなく、ターボの代わりにコンプレッサーを稼働させてエンジン内部に圧縮空気を送り込む事でラグの発生を抑えている。

ラグが復活すれば、ドライバーはコーナーからの脱出の際にマシンコントロールで手を焼く事になるかもしれない。エネルギーマネジメントやレース戦略にも影響が出る事だろう。

F1パワーユニットにおけるターボチャージャーとMGU-Hの構造図

F1パワーユニットにおけるターボチャージャーとMGU-Hの構造図

持続可能燃料と開発

燃料は非可食性植物由来、廃棄物由来、持続可能な炭素回収のいずれかに限られる。これによりF1マシンの排気から発生する二酸化炭素量を実質的にゼロとする。

また、燃料流量は質量や量ではなくエネルギー量を指標として制限される。

燃料は持続可能な方法で生産されなければならないが、パフォーマンスを損なう事は許されない。サプライヤーにとってはF1を実験場、そして商業的アピールの場として利用することができる。

エクソンモービルが2021年型ホンダ製F1パワーユニットRA621H用に開発した新燃料シナジー・レース・フューエルCourtesy Of Red Bull Content Pool

エクソンモービルが2021年型ホンダ製F1パワーユニットRA621H用に開発した新燃料シナジー・レース・フューエル

レース中に使用可能な燃料量は、2013年に1台あたり160kgであったものが2020年には100kgとなり、新PU導入の2026年には70~80kgにまで削減される見通しだ。

なお、寿命を迎えたバッテリーやMGU-Kは、コバルトなどの材料がリサイクルされる。

廃止パーツと標準化を含む制限

MGU-Hに加えて可変トランペットとその関連システムも削除された。また、インジェクター、ノックセンサー、イグニッションコイル、パワーボックス、トルク・温度・圧力センサーは標準化され、高価な材料の使用も制限された。

ピストンやクランク、ブロック、バルブ、インジェクタの位置、ターボチャージャ・ホイール等については寸法が制限され、競争力の平準化を目的に主要コンポーネントの設置位置も更に厳しく制限される事となった。

PU開発競争という面では新燃料導入を踏まえて、エンジンブロックやクランクシャフト、コネクティングロッド等、主に燃焼界隈により多くの自由度が設けられる一方、その他のエリアに関してはコスト削減の観点から規制が設けられる。

使用可能基数とテスト制限

シーズンを通して使用できる各コンポーネントは以下に制限される。ただし新規定導入初年度の2026年は下記に各1基がプラスされる。

  • ICE、ターボ、エキゾースト:3基
  • ES、MGU-K:2基

また、PUテストベンチ用の機材も以下のように使用可能な最大数が制限される。

  • 単気筒ダイナモメーター:3基
  • パワーユニット・ダイナモメーター: 3基
  • パワートレイン・ダイナモメーター:1基
  • フルカー・ダイナモメーター:1基
  • ERSテストベンチ:2基

また2026年スペックのPU開発に際しては、コスト削減の観点から以下のようにベンチの稼働時間が制限される。

稼働時間
ICE ERS
2022年 300 200
2023年 5400 (3年計) 3400 (3年計)
2024年
2025年
2026年 700 500
2027年 400 400
2028年 400 400
2029年 400 400
2030年 400 400

PUメーカーに課せられる175億円の予算上限

長期的な競争力バランス及びスポーツとしての公平性確保のために、PUメーカーにも予算上限(コストキャップ)が設けられる。現在はコンストラクターのみに予算上限が設定されている。

2022~2025年シーズンに関しては9,500万ドル(約127億4,312万円)、2026年以降については1億3,000万ドル(約174億3,796万円)に設定される。以下の項目は予算上限から除外される。

  • マーケティング関連費用
  • 減価償却、金融費用、税金、為替差損
  • 人事活動、財務活動、法務活動費
  • 安全衛生コスト
  • PUに関連しない活動費
  • カスタマーチームにリースするPUの製造及びサービスに掛かる費用
  • 現行世代(2023-2025年)のPU関連費

財務規定違反の罰則

各PUメーカーが予算制限ルールを遵守しているか否かは、FIA総会で選出されたコストキャップ裁定委員会が監視・調査・判断する。

手続き上の違反を犯した場合は金銭的ペナルティ、または軽微な競技的ペナルティーが科せられる。

予算上限超過が5%未満の場合(マイナー・オーバーペンド違反)は財務的ペナルティ、および/または軽微な競技的ペナルティーの対象となる。

予算上限超過が5%以上の場合(マテリアル・オーバーペンド違反)は選手権ポイントの減点(チーム及びドライバー)という厳しい措置が取られる場合もある。