ServusTVの番組「Sport and Talk」に出演するレッドブルのモータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコ、2025年6月3日
Courtesy Of ServusTV

バルセロナの悪夢を経て角田裕毅に今、最も必要とされる姿勢―マルコが語る”情状酌量”と信頼

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レッドブル・レーシングは、マックス・フェルスタッペンのチームメイトにとって「鬼門」と化している。リアム・ローソンは僅か2戦で姉妹チームに逆戻り、セルジオ・ペレスは解雇。そして今、その重圧に直面しているのが角田裕毅だ。

角田はF1デビューから5シーズンを経て、通算98戦の経験を積んできた。ホンダの強力な後押しを受けてファエンツァのチームで腕を磨き、若き日の激情を乗り越えて成熟したドライバーへと成長した。

だが、ついに手にしたレッドブル昇格は、想像以上に過酷な試練となっている。

バルセロナの悪夢と意外な擁護

2025年F1第9戦スペインGPでは、フェルスタッペンがマクラーレン勢に必死で食らいつく中、角田は予選最下位に沈んだ。まさに奈落の底へと転落したような結果に対し、早くも新人アイザック・ハジャーとの交代説が囁かれ始めている。

とは言え、レッドブルの今季型「RB21」は、4度のF1ワールドチャンピオンであるフェルスタッペンですら手を焼く問題児だ。レッドブル系列のオーストリアのテレビ局「ServusTV」に出演した、辛口で知られるヘルムート・マルコも、今回は角田に対して一定の理解を示している。

「マックスは競争力を保つために毎周限界で走らなければならず、彼でさえマクラーレン相手に苦戦している場面がある」

「ユーキがマックスの歴代のチームメイトと同じ状況に陥っているのは理解できる。このクルマを使いこなせるのは、事実上マックスだけだ」

さらに、「我々のマシンは現在、作動領域が以前より広がっているが、マクラーレンと同等の速さを発揮できるのはすべてが噛み合ったときだけで、それは3、4戦に1度程度にとどまっている」と語った。

ハースVF-25フェラーリを駆るエステバン・オコンの前を走行する角田裕毅(レッドブル・レーシングRB21)、2025年6月1日(日) F1スペインGP決勝(カタロニア・サーキット)Courtesy Of Red Bull Content Pool

ハースVF-25フェラーリを駆るエステバン・オコンの前を走行する角田裕毅(レッドブル・レーシングRB21)、2025年6月1日(日) F1スペインGP決勝(カタロニア・サーキット)

数字が物語る厳しい現実

レッドブル昇格以降、角田が獲得したポイントはわずか7点。レーシング・ブルズ時代の3点を合わせても10点に過ぎず、ドライバーズランキング15位に低迷している。一方でフェルスタッペンはこの間に2度の優勝を飾り、101点を上乗せしている。

だがマルコは、単なる数字では測れない側面があると強調する。

「実際のところ、ユーキの状況はローソンよりもある意味で良好だ。フリー走行では、時にマックスの0.1秒差に迫ることもある。予選になると、マックスがさらにギアを上げてくるのに対し、ユーキはついていけない。そして、それを取り戻そうとしてミスをしてしまう」

セットアップ変更への適応が鍵

また、予選後に示したのと同様に、角田の不振の背景には、セットアップ変更への対応力の差があるとマルコは指摘した。

「我々のマシンは、金曜日には災害的な状態で、予選までに修正しなければならない傾向がある。そのためかなり大幅なセットアップ変更が必要になるが、マックスが即座に適応できる一方、ユーキは慣れるのに数周必要だ。だが、予選ではその時間が許されない」

この“対応力”については、角田自身もスペインGPの週末に先立ち、変化に即座に対応するためには「クルマを自然に理解できていること」が求められると語っており、結局のところ「クルマに関する経験がものを言う」と、経験値の重要性を認めている

決勝を前に担当レースエンジニアのリチャード・ウッドと話す角田裕毅(レッドブル・レーシング)、2025年6月1日(日) F1スペインGP決勝(カタルーニャ・サーキット)

決勝を前に担当レースエンジニアのリチャード・ウッドと話す角田裕毅(レッドブル・レーシング)、2025年6月1日(日) F1スペインGP決勝(カタルーニャ・サーキット)

イモラ事故の影響「コンマ3秒のハンデ」

バルセロナでの予選最下位については、技術的な要因も大きかったとマルコは説明する。

「イモラでの激しいクラッシュの影響で、今回のバルセロナでのユーキのマシンは、(フェルスタッペンと)同じスペックではなかった」

「新しいフロアの製造には約3週間かかるため、最新仕様が間に合わず、古いパーツで走らざるを得なかった。マシン性能だけでユーキは、0.2~3秒のペナルティを負っていた」

レッドブルが重視する「精神的安定」

コンストラクターズ選手権で貴重なポイントを稼ぐため、フェルスタッペンの隣には経験豊富なドライバーが必要ではないかという質問に、マルコは過去の経験を引き合いに出し、経験以上に“精神的な安定”が不可欠だと語った。

「ペレスを起用した時、ヒュルケンベルグも候補だった。だがペレスはバーレーンで勝利し、我々を納得させた。当初、チェコは素晴らしかった。我々と共にグランプリでも勝利した。だが、時間とともに状況は悪化していった」

そしてマルコは、理想的なチームメイト像についてこう語る。

「我々が必要としているのは、精神的に本当に安定したドライバーだ。自らのスタイルで走り、マックスに勝とうとしないドライバー。これまでのドライバーたちは皆、マックスについていこうとして失敗してきた」

アレックス・アルボン(ウィリアムズ)と並んで歩く角田裕毅(レッドブル・レーシング)、2025年6月1日(日) F1スペインGP決勝(カタロニア・サーキット)

アレックス・アルボン(ウィリアムズ)と並んで歩く角田裕毅(レッドブル・レーシング)、2025年6月1日(日) F1スペインGP決勝(カタロニア・サーキット)

崖っぷちで問われる真価

角田は少なくとも現時点において、マルコの信頼を失っているわけではない。マルコは「彼が改善することを願っている」と語った。だが、そのチャンスを何度も無駄にできるほどの猶予は残されていないと見るべきだ。

技術的ハンデを乗り越え、精神的な安定を保ちながら、フェルスタッペンを過度に意識することなく、自分らしいレースを貫いて結果を残す――フェルスタッペンという“絶対的存在”の隣で生き残るために角田に求められているのは、速さや才能だけではなく、「自分自身を見失わずに走り続ける強さ」だ。

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