メルセデスW11と並走するレーシングポイントF1マシン、2020年F1ハンガリーGPにて
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F1、マシンコピー禁止に向け2021年規約改定へ…グリッドにメルセデスが10台並ぶ状況は嫌だ

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レーシングポイント「RP20」の合法性を巡る一連の問題と議論を受けて、国際自動車連盟(FIA)が2021年のF1レギュレーション改定に動き出した。来季以降はマシン全体をコピーするといった類の行為が禁止される事になる。

レーシングポイントは今季用のマシン開発において、マシン全体の空力コンセプトを独自立案する代わりに、昨季のチャンピマシンであるメルセデス「W10」の哲学を模倣。表彰台すら狙える強力なマシンを作り上げた。

彼らが既にメルセデス製パワーユニット及びギアボックスを使用している事を踏まえれば、これは合理的なアプローチと言えるものの、F1とライバルチームはグリッドに何台ものメルセデスが並ぶ状況を望んではいない。

「RP20」の存在を疑問視したルノーは第2戦シュタイヤーマルクGPを終えて、ブレーキダクトに焦点を絞ってFIAに抗議を申し立てた。調査を終えたスチュワードは、競技規約に違反するとして40万ユーロの罰金と15点のコンストラクター選手権ポイントの剥奪を科す裁定を下した。

ルノーの勝訴という格好だが、レーシングポイント「RP20」が全面的に違法だと判断されたわけではない。技術規約上の違反は認められず、当該ブレーキダクトは今後も罰則なく使用が可能であり、罰金は僅かに5,000万円と、裁定の甘さに不満を示したルノー、マクラーレン、スクーデリア・フェラーリの3チームが控訴の意志を表明している。

プレシーズンテストの段階から大きな議論となってきた本件について、FIAのシングルシーター部門を率いるニコラス・トンバジスは判決が出た70周年記念GPの週末、マシンの全てをコピーするような行為を禁じる方向で来季のレギュレーションを改定すると説明した。

「まず第一に、F1では長い間コピーが行われてきた。写真を撮り、時にはそれをリバースエンジニアリングして、一部のエリアにおいてライバルチームと似通ったコンセプトを採用するなどしてきた」とトンバジス。

「将来的に、これを完全に止めることはできないと考えているが、レーシングポイントはこれを別のレベルに引き上げた。彼らは明らかにこの哲学をクルマ全体に適用することにしたのだ。これはパラダイムシフトと呼ぶに相応しい」

「彼らは過去40年間に渡って、F1マシンの設計に際して当たり前のように行われてきたプロセスの混乱を利用したのだ。このアプローチを採用したのは彼らが独創的であったがためであり、それを罰するべきではない」

「だが我々は、これがF1のあるべき姿ではないと考えている。来年のグリッドに8台とか10台ものメルセデスやメルセデスのコピーが並び、それに至るプロセスの腕前を競い合うような状況になる事を望んでいない。これがF1のスタンダードになって欲しくない」

「我々は、これが当たり前になる事を防ぐために、2021年のスポーティングレギュレーションに幾つかの修正を加えることを計画している。これにより、レーシングポイントが行ったような、他のマシンの一部を丸ごとコピーするために大々的に写真を使用する事を防げるはずだ」

「個々のコンポーネントやローカルエリアのコピーは認めるが、マシン全体が他のマシンの根本的なコピーになることは望んでいない」

では、レーシング・ポイントF1チーム(来季からはアストンマーティン)は来季に向けてマシンの全面修正を余儀なくされるのだろうか?

トンバジスはルール変更に関する具体的な言及を避け、今後数週間以内にガイダンスを発表するとしたが、違法設計と判断したブレーキダクトの継続使用を認めたのと同じ理屈で、既存のコンセプトを一掃して再スタートを強制するのは不合理だと述べた。つまり、ピンクメルセデスは来季も健在ということだ。

ルノーが本件を提起した理由の1つは、F1の長期的なあり方についての広範な議論を求めたからであった。裏口カスタマーカーが氾濫する状況を良しとするのか否か。判決の如何に関わらず、こうして議論が進みFIAが動き出した事はルノーの功績と言える。