
物議の「モンツァオーダー」にピアストリとノリスが滲ませた”本音”、マクラーレンの誤算が生んだ意図せぬスワップ
2025年F1第16戦イタリアGP。チェッカーフラッグまで残り数周となったモンツァ・サーキットで、マクラーレンのチーム無線に緊張が走った。
「遅いピットストップもレースの一部だって話だったじゃないか。何が変わったのか分からない。でも本当にそうしてほしいなら、そうするよ」
2番手を走るオスカー・ピアストリの声には、明らかな不満がにじんでいた。チームからランド・ノリスに順位を譲るよう指示を受けた瞬間だった。
この無線交信は、チームファーストを掲げるマクラーレンの「パパイヤルール」に新たな議論を巻き起こした。果たしてチームの判断は適切だったのか。
Courtesy Of McLaren
決勝レースを経てP3ボードの前に止められたオスカー・ピアストリの81号車マクラーレンMCL39、2025年9月7日(日) F1イタリアGP(モンツァ・サーキット)
戦略の誤算が生んだ複雑な構図
事の発端はマクラーレンが採った戦略にあった。レースはマックス・フェルスタッペン(レッドブル)が独走する展開で、真っ向勝負ではマクラーレンに勝ち筋はなかった。
そこで第1スティントを限界まで引っ張り、セーフティーカー(SC)か赤旗を待ち、そこでソフトタイヤに履き替えるという画を描いた。赤旗なら順位を落とさずに交換でき、SCでもロスを最小限に抑えられる。
フェルスタッペンが37周目にハードタイヤに履き替えると、ノリスが首位、ピアストリが2番手に浮上した。ただ両者はまだピット義務を果たしておらず、残り周回で必ず入らなければならなかった。
通常であればレースをリードしていたノリスにピット優先権がある。だがピアストリがシャルル・ルクレール(フェラーリ)に抜かれるリスクを避けるため、マクラーレンはピアストリを先にピットに入れる決断を下した。
「チームの利益を最大化するため、まずオスカーを入れて次にランドを入れる必要があった。ただし、それで順位が入れ替わるべきではないと明確に考えていた」とチーム代表アンドレア・ステラは説明する。
ノリスを襲った「スローストップ」
だが、人生とはままならないものだ。ピアストリがタイヤ交換を終えてコースに戻った翌周、ピットに入ったノリスは左フロントタイヤの交換で手間取り、約2秒を失った。この結果、順位が入れ替わってしまった。
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ランド・ノリスの4号車MCL39のピット作業を行うマクラーレンのピットクルー、2025年9月7日(日) F1イタリアGP決勝(モンツァ・サーキット)
マクラーレンにとって、これは「意図せぬスワップ」だった。チームは即座に「本来の順序に戻すのがフェア」との判断からチームオーダーを発動したが、ピアストリの反応は冷ややかだった。
マクラーレンには似た前例がある。2024年のハンガリーGPでは、ノリスが渋々ながらもピアストリに勝利を”返上”した。
当時、ルイス・ハミルトン(メルセデス)のアンダーカットを防いで1-2を守るため、チームは後方にいたノリスを先にピットインさせた。その結果、ピアストリはノリスにアンダーカットされ、順位が交代した。最終的にノリスが折れたのは、20周近くにわたる説得を経たレース最終盤のことだった。
ドライバーたちの複雑な心境
興味深いのは両ドライバーの反応だ。ピアストリは当然としても、恩恵を受けたノリスもまた、この状況を快く思っていない。
ノリスは「オスカーが言うように、勝利を懸けて争えているのはチームあってのことだ」と語り、「チームが第一、ドライバーは二の次。それが僕らのやり方だ」と強調しつつも、勝負は実力で決まるべきだという思いを隠さなかった。
「僕の責任ではない遅れで順位が変わった。けれど、だからといって譲られる形で2位に戻るのは本意じゃない。僕もオスカーも、与えられた順位で勝ったり負けたりしたいわけじゃないんだ」
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決勝レースを経て会見でマイクを握る2位ランド・ノリス(マクラーレン)、2025年9月7日(日) F1イタリアGP(モンツァ・サーキット)
一方のピアストリも、無線での反応とは一転、レース後の会見では「フェアな要求」「フェアな決断」としつつも、「無線でのやり取りが全てを物語っている。これについてはきっと、また話し合うことになるだろうね」と、完全には納得していない様子をのぞかせた。
この日の出来事は、マクラーレンのチーム哲学に新たな課題を突きつけた。ステラは「今回の事例を検証し、スローストップ発生時に関わる原則も見直す。ドライバーたちと合意に至れば、より強固なものにする」と語り、”パパイヤルール”のアップデートに取り組む考えを示した。
2025年F1第16戦イタリアGPでは、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)がキャリア通算66勝目をポール・トゥ・ウインで飾った。2位はランド・ノリス、3位はオスカー・ピアストリと、マクラーレンがダブル表彰台に上がった。
バクー市街地コースを舞台とする次戦アゼルバイジャンGPは、9月19日のフリー走行1で幕を開け、9月21日に決勝レースが行われる。