
スペイン接触騒動の余波―状況要因を強調するホーナーと心理を問うウォルフ、その対照的な視点
2025年F1第9戦スペインGPのレース終盤に発生したマックス・フェルスタッペン(レッドブル)とジョージ・ラッセル(メルセデス)の接触事故を巡り、両チームの代表がそれぞれ異なる視点から見解を示した。
レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表が「状況的要因」を強調したのに対し、メルセデスのトト・ウォルフ代表は「行為の動機や意図」に踏み込むなど、より俯瞰的な視点からフェルスタッペンの行動を分析した。
再スタート後の混乱と接触
騒動の発端は、アンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)のマシンストップによるセーフティカー導入後、再スタート時に起きた。ハードタイヤを履くフェルスタッペンは、ソフトタイヤを履くライバル勢に囲まれる不利な状況に置かれていた。
リスタート直後、フェルスタッペンは最終コーナーでオーバーステアに見舞われ、シャルル・ルクレール(フェラーリ)に先行を許した。その直後、ラッセルがターン1でイン側から飛び込んだことで軽い接触が発生。フェルスタッペンはエスケープロードに逃れ、そのままポジションをキープした。
レッドブルはペナルティのリスクを懸念。ジャンピエロ・ランビアーゼからの無線指示を受け、フェルスタッペンはターン5でラッセルにポジションを譲った。だがその直後、「急加速」してラッセルの車体側面に接触したことから、事態がさらに悪化した。
ホーナーの反論「主観的な判断」
レース終了後に当事者から話を聞くという選択肢もあったはずだが、スチュワードは異例とも言える早さで裁定を下し、フェルスタッペンに対して10秒のタイムペナルティと3点のペナルティポイントを科した。
この結果、ラッセルが4位を獲得した一方で、フェルスタッペンは5位でフィニッシュしながらも最終的には10位に順位を落とした。
この裁定に加え、ルクレールとの接触が不問とされたことについて、ホーナーは不満を表明した。
F1公式サイトによると、ホーナーは「マックスはリスタート時にスナップを喰らい、その隙にシャルルが並びかけてきた。マックスは左に寄せられたようにも見えたが、そこへジョージがかなり際どいラインで飛び込んできた」と状況を回顧した。
また、ポジション返上の判断については、FIAに助言を求めたが明確な回答は得られず、ペナルティのリスクを考慮してやむなく指示を出したと説明した。
さらに、「マックスは明らかに動揺し、腹を立てていた。第一にスペースを与えられなかったと感じ、第二にジョージが完全にマシンをコントロールできていなかったと思ったためだ」と接触の背景に言及し、「最近の事例を見ても分かるように、判断はかなり主観的だ」とスチュワードの一貫性のなさにも疑問を呈した。
最後に、ホーナーは悔しさをあらわにした。
「マックスとはまだ直接話せていないが、残念ながらスチュワードはマックスが衝突を引き起こしたと判断し、ペナルティを科した。本当に悔しい結果だ。楽に表彰台を狙えたレースで、結果はわずか1ポイント(10位)に終わったのだから」
困惑のウォルフ「報復運転でないと信じたい」
一方でウォルフは、この一件について「正直、理解が追いつかない」と語り、フェルスタッペンの意図にスポットライトを当てた。それは事件そのものについて、言及したくないという意思表示にも見えた。
「正直、マックスがポジション返上の指示を受けていたとは思わなかった。ターン4の立ち上がりが遅れたのは、マシントラブルか何かだと思っていた」と驚きを示し、「あれがロードレイジ(報復運転)だったとしたら、それは良くない」と懸念を口にした。
一方で「あまりにもあからさまだったから、さすがに報復とは考えにくい」とも述べ、「彼の言い分をきちんと聞かなければ判断はできない。軽々しく『あれは報復だ』と決めつけるつもりはない。とはいえ、見ていて気持ちの良いものではなかった」と、慎重に言葉を選びながらも疑念を示した。
さらに、「ジョージを前に出してすぐ抜き返そうとした? DRSを使ったよくある駆け引きの一環だったのか? 正直、何を意図していたのか分からない」と語り、困惑を隠さなかった。
心理的背景に踏み込むウォルフ
2021年のシルバーストンでのルイス・ハミルトンとの接触や、2024年後半のランド・ノリスとの一件など、アグレッシブなドライビングスタイルによりフェルスタッペンは過去にも批判を受けた経緯がある。
ウォルフは、その根底にある心理についても言及した。
「偉大なアスリートたち、それがモータースポーツであれ他の競技であれ、彼らにはある種の“パターン”がある。世界中が自分に敵対していると感じることで、自らを奮い立たせ、極限の集中力を引き出すんだ」
「だからこそ、彼らは時に“実は誰も自分を敵視していない”という事実を見落とす。自分自身がミスを犯していたり、状況を悪化させているだけだと認識できないことがある」
「マックスにこうした側面が見られたのは、もう何年も前のことだった。もちろん、2021年にはそういうことがあったのは分かっている。だが、今回の一件がどこから来たのかは、分からない」
フェルスタッペンは2028年までレッドブルとの契約を結んでいるが、それ以前にチームを離れるとの憶測は根強く存在している。
アストンマーチンのオーナー、ローレンス・ストロールがフェルスタッペンの獲得に強い関心を示しているとの報道もあり、さらに彼の契約には「ドライバーズ選手権で夏休み前の時点で4位未満の場合、移籍が可能になる」との条項があるとも言われている。
今回のスペインGPでは、フェルスタッペンはわずか1ポイントの獲得にとどまり、さらにあと1点で出場停止という危機的状況にある。このことから、かねて噂されていた移籍条項の現実味が一層増してきたのは間違いない。
普段であれば、自身のドライバーが関与する論争において強く主張する姿勢を見せるウォルフが、今回は明確な立場を取らず、終始中立を貫いた点も、その背景を考えるうえで非常に興味深い。
2025年F1第9戦スペインGPでは、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)がポール・トゥ・ウインを飾り、今季5勝目を挙げた。チームメイトのランド・ノリスが2位、シャルル・ルクレール(フェラーリ)は3位でフィニッシュし、バルセロナで自身初の表彰台に上がった。
ジル・ビルヌーブ・サーキットを舞台とする次戦カナダGPは、6月13日のフリー走行1で幕を開ける。