
F1:揺れる「次世代V8ハイブリッド案」課題は導入時期とコスト―モンツァ会合で激論必至
2026年の新たなF1技術規則に基づく次世代パワーユニット(PU)がまだ実戦投入されていないにもかかわらず、すでにその次の世代のPUに関する議論が活発化している。かつて復活が検討されたV10は完全に選択肢から消え、現在は2.4リッターV8自然吸気エンジンにハイブリッドを組み合わせる案が最有力とされている。
V8ハイブリッド案と導入時期
独専門メディア『auto motor und sport』によると、220〜240kWのハイブリッドシステムを組み合わせる案が浮上している。これは現行規定の120kWと、2026年規定の350kWの中間に位置する出力値だ。
F1を統括する国際自動車連盟(FIA)は2029年の導入を強く推しており、新興メーカーであるレッドブル・パワートレインズやキャデラックも支持に回っているとされる。
一方で、2026年規定への対応に巨額の投資を行ったホンダやアウディは、その回収を優先すべく「最低でも5年間は現行規則を維持すべき」と主張し、2031年までの先送りを求める意向とみられている。フェラーリについては、FIAが方向性を明確に示すのであれば早期移行に応じる可能性があると指摘されている。
設備投資という観点から、短期間での規則変更はメーカーにとって大きな負担となる。安易な規則変更は、その技術的内容にかかわらずメーカー撤退を招くリスクを孕む。
Courtesy Of AUDI AG
アウディのF1パワーユニット開発が行われているノイブルクのファクトリーにあるテストベンチ、2024年6月28日
莫大なPU開発コスト
現在PUメーカーにはコスト上限が設けられている。財務規則は複雑であるため簡易的に説明するが、2026年以降はその上限が引き上げられ、年間9500万ドル(ホンダは関しては124.8億円と設定)から1億9000万ドル(同249.6億円)へと倍増する予定だ。
F1のPU開発にはこのように巨額のコストがかかる。2026年導入予定のV6ハイブリッドに代わる新たなPU規定についても、コスト削減という視点は欠かせない。
レッドブルのヘルムート・マルコは「エンジンはもっとシンプルで安くなるべきだ」と訴え、少なくとも3分の1のコスト削減を求めている。一方、フェラーリのフレデリック・バスール代表は、具体的な実現手段が示されないまま「コスト削減」という言葉だけが独り歩きしている状況に懸念を示しているとされる。
Courtesy Of Red Bull Content Pool
レッドブル・パワートレインズのロゴが付けられたスナップオンのツールキャビネット、2022年イギリス・ミルトンキーンズ
F1チームとは異なり、メーカーには成績に応じた分配金が支払われていない。そのため、エンジンメーカーの負担軽減を目的とした賞金制度の導入も議論されている。だが、その原資をF1側が負担するのか、あるいはチームの分配金を減額して拠出するのかという問題があり、反発は避けられない見通しだ。
なお、カスタマーチームは1基あたり1700万〜2000万ユーロ(約29億~34億円)をメーカーに支払っているとされる。さらに100%持続可能燃料に同程度のコストが加算されるケースもあるという。FIAはカスタマー向けリース価格を1,000万ユーロ(約17億円)程度に引き下げたい意向を示している。
次回会合の焦点
各陣営の利害は鋭く対立しており、議論は難航必至だ。モンツァで予定される次回の会合では、V8移行案の是非と導入時期が主要議題となる見通しだ。