
滑稽に見えた―批判噴出…F1のあるべき姿を問いかけたモナコ新ルール、一方で”継続すべき”の声も
2025年のF1モナコGPで導入されたスペクタクル向上を狙う新ルールは、長年指摘されてきた“構造的ミスマッチ”という旧知の課題を改めて浮き彫りにするとともに、激しい議論を巻き起こした。
「最終的に思うのは、あれだけ明白にレースの結果をペースで操作できてしまうような状況は、F1として許容すべきじゃないということ。スポーツとしてどうかと思う」
10位でフィニッシュしたウィリアムズのカルロス・サインツのこの言葉は、今回の新ルールが抱える根本的な問題を端的に表すだけでなく、F1の本質に関わる問題を提起するものだった。
期待された「改善」が生んだ現実
今回導入されたのは、全ドライバーに事実上の2ピットストップを義務付ける新ルール。レース前には緊張感が高まり、序盤こそ期待感に包まれた。
だが結果的にはオーバーテイクはほとんど発生せず、パワーユニットの問題によりフェルナンド・アロンソ(アストンマーチン)がリタイヤしたことを考慮すると、上位勢の最終リザルトは土曜の予選とほぼ同じ並びとなった。
ただ、批判の矛先は結果の単調さではなく、その過程に向けられた。
ブルズが見せた「完璧な作戦」の代償
この新ルールを最も巧妙に活用したのがレーシング・ブルズだった。リアム・ローソンが序盤で意図的にペースを落として後続をブロック。これによりチームメイトのアイザック・ハジャーに実質2回のフリーストップを提供した。
結果は見事だった。ハジャー6位、ローソン8位。チームとして最大限のポイントを獲得した。だが、この戦術の「被害者」となったのがウィリアムズ勢だった。
「レースのある段階で僕らは、本来のペースより4秒も遅く走らされた」とサインツは振り返る。「(レーシング・ブルズが採った戦略の)犠牲者になったことで、結局はアレックスと一緒に、ローソンと同じことをしなきゃならなくなった」
レース中盤に向けてウィリアムズが対抗策として同様の戦術を採ったことで、今度はメルセデスが「犠牲者」となった。ウィリアムズのチーム代表ジェームズ・ヴァウルズはレース中、メルセデスのトト・ウォルフ代表に「申し訳ない」とメールした。
Courtesy Of Red Bull Content Pool
アイザック・ハジャーの6位とリアム・ローソンの8位を祝うレーシング・ブルズ、2025年5月25日(日) F1モナコGP決勝
「恥ずかしかった」と2009年王者
この状況は、観戦していた関係者からも厳しい目で見られた。2009年F1ワールドチャンピオンで、現在Sky Sportsで解説を務めるジェンソン・バトンは「恥ずかしかった」と率直に述べた。
「一方のドライバーを援護するために、もう一方が1周あたり6秒も遅いペースで走る姿は、ちょっと滑稽に見えたね」
バトンはさらに具体的なシーンを挙げて批判を続けた。「ジョージ(ラッセル)がシケインをカットしてアルボンを強引に抜こうとし、そのままプッシュを続けたシーンもあったけど、あれもバカバカしく映った」
そして結論として「上手くはいかなかったと思う。試したこと自体はすごくいいと思うけど、もっと上手いやり方を考えないと」と改善の必要性を訴えた。
それでも「続けるべき」という声
一方で、異なる見解を示したのが7度のワールドチャンピオン、ルイス・ハミルトン(フェラーリ)だった。
決勝後のインタビューで継続の是非を問われたハミルトンは「前とあまり変わらない印象だった」としつつも、「間違いなく、今後も続けて試すべきだと思うよ」と肯定的な評価を下した。