アレクサンダー・ブルツが提案するモンテカルロ市街地コースのヌーベル・シケイン(ターン10・11)改修案、2025年5月26日
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F1モナコGPへの処方箋「3つの具体的コース改修案」ブルツが提案、”追い抜けない問題”の突破口となるか

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2025年のF1モナコGPで改めて浮き彫りとなったのが、「オーバーテイク不可能なモンテカルロ市街地コース」という構造的課題だ。この問題に対し、元F1ドライバーであり、現在グランプリ・ドライバーズ協会(GPDA)会長を務めるアレクサンダー・ブルツが、3つの具体的なレイアウト改修案を提案した。

モナコGPは長年にわたり、伝統的市街地レースの象徴として親しまれてきたが、近年続くF1マシンの大型化と重量増を背景に、オーバーテイクがほとんど見られない“行進レース”が恒常化している。

2025年大会では、3セットのタイヤ使用義務を課す試験的ルールが導入され、この状況の打開が試みられた。だが、戦略的チームプレイの是非が議論を呼び、むしろ物理的なコース改善の必要性に再び焦点が当たる形となった。

ブルツは現役引退後、サーキット設計を手がける「Wurz Design」を通して、サウジアラビアのキディアやルワンダでの新たなF1開催地の設計に携わっている。今回、インスタグラムを通じて公開したプレゼン動画では、モナコの“伝統”を損なうことなく実現可能とする3つの具体的改修ポイントを示した。

トヨタ・ガズーレーシングのアレックス・ブルツ、2015年FIA世界耐久選手権(WEC)第8戦バーレーン8時間レースにてCourtesy Of TOYOTA MOTOR CORPORATION

トヨタ・ガズーレーシングのアレックス・ブルツ、2015年FIA世界耐久選手権(WEC)第8戦バーレーン8時間レースにて

1. ヌーベルシケインの後方移設

アレクサンダー・ブルツが提案するモンテカルロ市街地コースのヌーベル・シケイン(ターン10・11)改修案、2025年5月26日copyright wurz_alex@Instagran

アレクサンダー・ブルツが提案するモンテカルロ市街地コースのヌーベル・シケイン(ターン10・11)改修案、2025年5月26日

最も注目されるのは、トンネル出口の後に位置する「ヌーベル・シケイン」の後方移設案(上記図の赤色)だ。現在の位置よりタバココーナー寄りにシケインをずらすことで、トンネルからの加速をより活かし、防御側のライン取りを困難にする狙いがある。

ブルツは、大規模な土木工事が必要になると認めつつも、「都市部という制約を踏まえても、物理的には十分可能な案だ」と主張。現在の”守りやすいシケイン”を、”守りにくい構造”に変えることで、追い抜きの可能性が高まると主張した。

「自分の経験上、そして他のドライバーたちとの議論の中でも、シケインを後ろに移すことで、ポジションを守るのがより難しくなるはずだという確信がある」

2. ラスカスの形状調整

アレクサンダー・ブルツが提案するモンテカルロ市街地コースのラスカス・コーナー(ターン18)改修案、2025年5月26日copyright wurz_alex@Instagran

アレクサンダー・ブルツが提案するモンテカルロ市街地コースのラスカス・コーナー(ターン18)改修案、2025年5月26日

続いて示されたのは、ラスカス(ターン18)のエイペックスを2〜3メートル外側へずらす案。コーナーへの進入角度が変化することで、急制動による“ダイブボム”が狙いやすくなるという。

「前のクルマは、抜かれるリスクを承知の上でドアを開けるか、あるいは守るかを選択しなければならなくなる。もし守ろうとすれば、その分立ち上がりで遅れるため、後続車からのプレッシャーが高まることになる」とし、レース展開に緊張感をもたらすだろうと説明した。

「これは比較的容易に実現できる小さな工夫だが、バトルが増え、より激しい展開が期待できる」

ただし、ラスカスのアウト側には駐車場スロープがあるため、設計上の配慮が不可欠とも指摘した。

3. フェアモント・ヘアピンの拡張

アレクサンダー・ブルツが提案するモンテカルロ市街地コースのフェアモント・ヘアピン(ターン6、ロウズ・ヘアピン)改修案、2025年5月26日copyright wurz_alex@Instagran

アレクサンダー・ブルツが提案するモンテカルロ市街地コースのフェアモント・ヘアピン(ターン6、ロウズ・ヘアピン)改修案、2025年5月26日

最後に挙げられたのが、モナコ名物とも言える「フェアモント・ヘアピン(旧ロウズ・ヘアピン)」の拡張案だ。コーナーの入口および出口側の両方で、コース幅を2.4メートル広げることができれば、オーバーテイクの余地が生まれると指摘した。

「理想のレーシングライン自体は変わらず、このコーナーの特性も維持されるが、後方車両がダイブボムを狙いやすくなることで、先行車は守りに入らざるを得ず、その分ペースが落ちる」

この変更は、ヘアピンそのものの改善のみを目的としているわけではない。ブルツは、進入および立ち上がりでスペースが生まれることにより攻防の余地が広がるとして、その結果として、その先に続くヌーベル・シケインでのオーバーテイクを誘発する連鎖的な効果に期待を寄せた。

F1モナコGPが開催されるモンテカルロ市街地コースのコースレイアウトcopyright Formula1 Data

F1モナコGPが開催されるモンテカルロ市街地コースのコースレイアウト

“変わるべきか、守るべきか”─モナコ未来像

いずれの提案も、モナコという特異な都市型サーキットの立地条件や歴史的価値を損なうことなく、最小限の変更でレースの質を向上させることを目的としたもので、豊富なレース経験を持ち、引退後はサーキット設計にも携わってきたブルツならではの実現可能性をも考慮したアイデアという点で興味深いものとなっている。

モナコGPは長年「変わらないこと」が価値とされてきたが、近年の「追い抜けないモナコ」への不満は無視できない現実であり、今後もF1カレンダーに留まるために「変えるべきこと」が存在することも、今や否定し難い。

果たしてブルツの提案は実現に至るのだろうか。それとも単なる議論に留まるのだろうか。

F1モナコGP特集