ピットウォールに座るジェームズ・ヴァウルズ(ウィリアムズ代表)、2025年5月24日(土) F1モナコGP予選(モンテカルロ市街地コース)
Courtesy Of Williams

”申し訳ない”の一文—ウィリアムズの誇れぬモナコ戦略、熾烈な争いの裏に2つの友情…メルセデス明かす

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メルセデスのトト・ウォルフ代表が、モナコGPでの興味深いエピソードを明かした。レース中、ウィリアムズのジェームス・ヴァウルズ代表から「申し訳ない」という謝罪のテキストメッセージが届いたという。

メルセデスを苦悩させたウィリアムズの戦略

2025年F1第8戦モナコGPでは、レースの活性化を目的として全車に対し、事実上の2ピットストップが義務付けられた。この新ルールは各チームのストラテジストに大きな課題を突き付けた。

ウィリアムズは、カルロス・サインツとアレックス・アルボンを巧妙に使い分けた。

2台が交互にメルセデスのジョージ・ラッセルとアンドレア・キミ・アントネッリの前でペースを落とし、チームメイトがピット後に戻るためのギャップを稼ぐ戦術を展開。この完璧な連携により、ウィリアムズは4戦連続でダブル入賞を果たし、アルボンが9位、サインツが10位でフィニッシュした。

ペースを落としてメルセデスのジョージ・ラッセルとアンドレア・キミ・アントネッリを抑えるカルロス・サインツ(ウィリアムズ)、2025年5月25日(日) F1モナコGP決勝Courtesy Of Williams

ペースを落としてメルセデスのジョージ・ラッセルとアンドレア・キミ・アントネッリを抑えるカルロス・サインツ(ウィリアムズ)、2025年5月25日(日) F1モナコGP決勝

友情とプロ意識の狭間で

ウォルフとヴァウルズは長年の友人関係にある。ヴァウルズにとってウォルフは、メルセデス時代の上司であり、数え切れない苦楽をともにしてきた戦友でもある。

英専門メディア『Autosport』によるとウォルフは、「彼からレース中にメッセージが届いたんだ」と振り返った。「『申し訳ない』と。前方の状況を考えると、我々に選択肢はなかった、と。私は『分かっている』と返した」

ウォルフは続ける。

「ジェームズは私の仲間だ。上から目線に聞こえるかもしれないが、彼はチーム代表として素晴らしい仕事をしてキャリアを築いている。彼にはああするしかなかった。2台ともがポイント圏内にいたんだから」

ガレージからコースを見守るジェームズ・ヴァウルズ(ウィリアムズ代表)、2025年5月24日(土) F1モナコGP予選(モンテカルロ市街地コース)Courtesy Of Williams

ガレージからコースを見守るジェームズ・ヴァウルズ(ウィリアムズ代表)、2025年5月24日(土) F1モナコGP予選(モンテカルロ市街地コース)

一方、ヴァウルズも「こんな形でレースをしたくはなかった」と率直な胸中を明かしていた。古巣メルセデスを苦しめるかたちとなった戦略は、必ずしも誇れるものではなかったという。

そこには、チームの利益を最優先にせざるを得ない立場としての葛藤がにじむ。かつて共に戦った仲間を相手に、勝利のためには手段を選べない現実。ヴァウルズの言葉は、F1という世界が持つ非情さと、チーム代表という職責の重みを物語っていた。

一方で、同じ戦略はメルセデスも検討していた。ラッセルは「ああなることはある程度分かってた。僕らもキミと組んでやろうとしてた作戦だったしね。僕がピットに入り、キミが集団を抑えて、その後に交代…でも、RBとウィリアムズに先を越された」と振り返った。

ラッセルに夕食を奢ったアルボン

ラッセルとアルボンの関係もまた、ウォルフとヴァウルズに負けず劣らず長く深い。そんな旧知の仲が、モナコGP後に微笑ましい一幕を見せた。

レース後にアルボンは、レシートを手に持つ自身とラッセルとの2ショット写真をSNSに投稿し、「どういたしまして」とコメントを添えた。

レース後のインタビューでラッセルは、「今夜はアレックスと一緒に夕食に行く予定なんだ。だから…彼に奢らせるつもりだよ!」と明かしていた。

週末を狂わせた土曜の悪夢

メルセデスの苦戦は、土曜日の予選から始まっていた。アントネッリがQ1でクラッシュ、ラッセルは電気系統のトラブルで14番手に沈んだ。本来なら少なくとも「上位2列」に入れるペースを持つマシンが、決勝では後方からのスタートを強いられた。

「キミがバリアに接触したのは、ルーキーとしては仕方のないことだ。ジョージの場合は突然パワーがなくなった。上位2列、いやそれ以上を狙えるマシンだったのに」とウォルフは悔しさを隠さない。

機能しなかったラッセルへの厳罰

レース中、ラッセルは後方からのプレッシャーとウィリアムズ勢のペースダウンに業を煮やし、ヌーベル・シケインをカットしてアルボンを追い抜く強硬手段に出た。だが、当然のことながらこの行為は問題視され、ドライブスルー・ペナルティの対象となった。

ただし、ポジションを返上せず、その代わりにドライブスルーという厳しいペナルティを受けることを選んだラッセルの判断は、「皮肉」にも正しかった。

不正な追い抜きによりクリーンエアを得たラッセルは、その後のラップでドライブスルーを帳消しにするほどのタイムを稼ぎ出し、最終的に11位でフィニッシュ。もしチームの指示通りポジションを返上していた場合、17位付近に収まったとみられる。

レース後、故意にコース外から追い抜いたのかという質問に対し、ラッセルは「そんなつもりじゃなかった。本気で抜きにいこうとしてたんだ」と否定した。

さらに、前走車との1周あたりのペース差が3秒未満ではオーバーテイクの可能性は0%、4.5秒差でようやく50%程度とのチーム側の見解を示し、最大限のリスクを負わなければ順位を上げることはできない状況だったと強調した。

このようなケースでは10秒ペナルティが標準だが、スチュワードは今回、ラッセルが無線でポジションを返上するよりも「ペナルティを受ける」と発言したことに着目。「故意性」があったと見なし、ドライブスルーという厳しい処分を科した。

メルセデスのジョージ・ラッセルとアンドレア・キミ・アントネッリ、2025年5月23日F1モナコGP初日(モンテカルロ市街地コース)Courtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.

メルセデスのジョージ・ラッセルとアンドレア・キミ・アントネッリ、2025年5月23日F1モナコGP初日(モンテカルロ市街地コース)

モナコの特殊性と戦略の限界

ウォルフは、メルセデスの戦略判断についても言及した。角田裕毅(レッドブル)を含む4台のマシンが1周目の終わりにピットインしてクリーンエアに出た中、メルセデスは両車をコース上に留めた。

これは赤旗やセーフティカーの可能性に賭けた判断だったが、結果的には功を奏さなかった。

「戦略については今朝も興味深い議論をした。『早めにピットストップして、最後尾から追い上げよう』と私は言った。DTM時代にそれで勝てたんだ。だが、我々の戦略グループの賢明なメンバーたちが、それはモナコでは通用しないと示してくれた」とウォルフは明かした。

最終的には、角田を含む“先制ピット組”も、後方に沈んだままポジションを上げることはできず、タイヤ交換のタイミングによる有利不利は限定的だったことが明らかとなった。どちらの戦略を採っても、この日のレース展開においては、結果に大きな差は生じなかったことだろう。

なお、アントネッリは完走18台中最下位に終わり、コンストラクターズ選手権2位につけるメルセデスは、2024年のオーストラリアGP以来となる無得点に終わった。


2025年F1第8戦モナコGPでは、ランド・ノリス(マクラーレン)がモナコ初優勝を果たし、今季2勝目を飾った。2位はシャルル・ルクレール(フェラーリ)。3位表彰台にはオスカー・ピアストリ(マクラーレン)が滑り込んだ。

カタロニア・サーキットを舞台とする次戦スペインGPは、5月30日のフリー走行1で幕を開ける。

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