
レッドブル・リンク
サーキット名 | レッドブル・リンク |
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所在国 | オーストリア |
住所 | Red Bull Ring Str. 1, 8724 Spielberg, Austria |
設立年 | 1969年 |
最大高低差 | 64m |
周回数 | 71 |
ターン1までの距離*1 | 246m |
平均速度 | 220km/h |
最高速度 | 320km/h |
変速回数 | 32回/周 |
SC導入率 | 60% |
ウェット確率 | 8% |
全長 / コーナー数 | 4,318m / 10 |
ピット長 / 損失時間 | 359m / 16秒 |
エンジン負荷と全開率*2 | 70% |
ブレーキ負荷と使用率 | 19% |
燃料消費レベルと量 | 1.48kg/周 |
フューエル・エフェクト | 0.31秒/10kg |
タイヤ負荷レベル | |
ダウンフォースレベル | |
グリップレベル | |
WEBサイト | www.projekt-spielberg.com |
SNS | facebook instagram |
*1 ポールから最初の制動地点までの距離*2 全開率は時間ベース
レッドブル・リンク(Red Bull Ring)とは、オーストリア・シュタイアーマルク州の山間部に位置するレースサーキットだ。同国を拠点とするエナジードリンク企業レッドブルが所有する。運営はプロジェクト・シュピールベルク社が担っている。
2014年以降、F1オーストリアGPの開催地として使用されているほか、Red Bull Air Raceの開催地としても広く知られている。2020年には、F1史上初めて同一サーキットでの連続開催(オーストリアGPとシュタイアーマルクGP)が実施された。
このサーキットは、過去に「エステルライヒリンク」「A1リンク」と様々な改称の歴史を持つ。2004年にレッドブル創業者ディートリッヒ・マテシッツが買収し、2010年の大規模改修を経て、現在の「レッドブル・リンク」へと改称された。
オーストリア人ドライバーでこのグランプリを制したのは1984年のニキ・ラウダただ一人。
Courtesy Of Red Bull Content Pool
2020年F1オーストリアGP決勝レース中のレッドブル・リンク
Courtesy Of Alfa Romeo Racing
レッドブル・リンクのグリッドからフォーメーションラップに向かうF1マシン、2023年7月1日F1オーストリアGPスプリント
コースレイアウト
copyright Formula1-Data
レッドブル・リンクのコースレイアウト図2021年版
全長は4,318mで、F1カレンダーの中ではモナコ、ザントフォールト、メキシコ、インテルラゴスに次いで5番目に短い。
コーナー数はカレンダー最小の全10箇所だが、ターン2・5・8がエンジン全開区間であるため、F1マシンにとっての実質的なコーナーはわずか7箇所しかない。結果、F1カレンダーの中で最もラップタイムが速いサーキットとしても知られている。
低速コーナーはターン3・4のみで、平均速度はおよそ220km/hと非常に高い水準を誇る。
最終コーナーであるターン10は、オフキャンバー(イン側よりアウト側が低い)となっており、わずかなミスでもコースオフに繋がりやすい。F1マシンはここを4速・175km/hで通過し、ドライバーが受ける横方向のGは最大で5.1Gに達する。これはF1カレンダーの中でもトップ3に入る大きさで、極めて高いフィジカル要求を伴う区間となっている。
3箇所のDRSゾーン
DRS区間は全部で3箇所。2018年にターン1を抜けた先の上り坂に新たにDRSゾーンが追加され計3箇所となった。
DRSゾーン | 検知地点 | DRS開始地点 |
---|---|---|
DRS1 | ターン1の160m手前 | ターン1の102m奥 |
DRS2 | ターン3の40m手前 | ターン3の100m奥 |
DRS3 | ターン10の120m手前 | ターン10の106m奥 |
特徴
高い空力効率が求められるエアロ・サーキットでありながらも、エンジン全開率が73%と非常に高い。これはアルバート・パーク・サーキットと同率であり、モンツァ(77%)に次ぐ屈指のパワー依存型コースだ。
エンジン全開区間が長い一方でブレーキングに割かれる時間が短いため、エネルギー回生(ERS)的には厳しい構成だ。スパ・フランコルシャンやバクー市街地コースと並び、1周の途中でデプロイメントが切れてしまう可能性が高く、エネルギーマネジメントの徹底的な最適化が求められる。
サーキットは山の傾斜地にあり、メインストレートからターン3のエイペックスにかけては急勾配の上りが続く。その後はホームストレートまで一気に下りが続くレイアウトで、高低差は69メートル。これはF1カレンダーの中でも最大級の部類に入る。
レイアウトそのものは全10コーナー、全長4.3kmと比較的シンプルながらも、1周を完璧にまとめるのは容易ではない。特に予選では、トラフィックがラップタイムに直結するため、クリアラップの確保が非常に重要となる。
追い抜きとアクシデント
Courtesy Of Red Bull Content Pool
スプリント予選でスピンを喫し、レッドブル・リンクの最終コーナー外側に飛び出した角田裕毅(RBフォーミュラ1)、2024年6月28日F1オーストリアGP
ターン3、これに続くDRS区間の先にあるターン4、そして森の中を抜けた先のターン9が、レッドブル・リンクにおける主要なオーバーテイクポイントだ。
中でも最大の追い抜き機会となるのがターン3。ターン1から約790メートルの急坂を上りきった先に位置し、ヘアピンに近い急なRを持つ低速コーナーだ。高速からのブレーキング勝負が鍵を握り、並走したまま飛び込めば順位変動の可能性が高まる。
ミッドコーナーまでは上り勾配だが、立ち上がり区間は下りに転じるため、リアグリップを失いやすく、トラクションコントロールが問われる。ターン4に向けてスムーズに路面を蹴り出すには、繊細なスロットルワークとライン取りが求められる。
年 | 追い抜き | リタイヤ | ピット回数 | ||
---|---|---|---|---|---|
通常 | DRS | 接触 | 故障 | ||
2025 | – | – | – | – | – |
2024 | 9 | 34 | 0 | 0 | 45 |
2023 | 13 | 44 | 0 | 1 | 44 |
2022 | 13 | 50 | 1 | 2 | 42 |
2021 | 7 | 24 | 1 | 0 | 27 |
2020 | 6 | 28 | 0 | 7 | 25 |
2019 | 3 | 40 | 0 | 0 | 23 |
2018 | 9 | 16 | 0 | 5 | 23 |
2017 | 2 | 4 | 2 | 2 | |
2016 | 46 | 30 | 0 | 2 | |
2015 | 10 | 9 | 2 | 4 |
フロントタイヤの熱入れが課題
伝統的にタイヤの摩耗や劣化が比較的穏やかなサーキットとして知られており、かつては1ストップ戦略が主流だった。2018年のレースでは、レッドブルのマックス・フェルスタッペンがスーパーソフトからソフトへと繋ぐ1ストップ戦略で勝利を収めている。
ただ、車体車重が増加したグランドエフェクトカーの導入(2022年)以降は、2ストップ戦略が主流となる傾向が強まっている。
路面の摩耗性が高い一方で、コーナー数自体が少ないことに加え、タイヤに大きな負荷がかかるコーナーも2箇所しかないため、タイヤを適正な温度域に入れるのは容易ではない。
加えて、ターン1・3・4といったブレーキに厳しい区間が連続するレッドブル・リンクでは、冷却性能を重視してブレーキダクトの開口部を広く取る傾向が各チームに見られる。これにより、発生したブレーキ熱がタイヤに伝わりにくくなり、特にフロントタイヤの温度が上げにくいという課題が生じる。
一方で、ブレーキングと加速ポイントが多いことから、リアタイヤのオーバーヒート対策は重要となる。
1周の距離が短い分だけ余計に、レッドブル・リンクにおいては予選におけるタイヤ温度のマネジメントが非常にシビアな要素となり、アタックラップの成功可否を大きく左右する。
破損必至の”マシンクラッシャー”
レッドブル・リンクは“マシンクラッシャー”の異名を持つほど、クルマへの物理的負荷が極めて高い。
特筆すべきは、その悪名高き縁石だ。形状、高さ、間隔のいずれもがアグレッシブ。特にターン1・5・9の出口側に配置された縁石は、フロアやバージボード、さらにはサスペンションに深刻なダメージを与える可能性があり、これらの損傷によるリタイアは決して珍しいものではない。
実際、2018年のF1オーストリアGPでは、当時抜群の信頼性を誇っていたメルセデスの2台が相次いでトラブルに見舞われるなど、合計5台がマシントラブルによってリタイアを喫する波乱の展開となった。
標高と空気密度が生むマシンへの過酷な要求
標高約700mに位置しており、平地と比べて酸素濃度が約7%少ないことから、希薄な空気がマシンの各機構に大きな影響を及ぼす。
まず、ラジエーターやブレーキダクトを通過する空気量が絶対的に少なくなるため、エンジンやブレーキの冷却効率が大幅に低下する。
さらに、ターボチャージャーとMGU-Hのコンプレッサーには通常以上の圧縮能力が求められる。空気が薄いことに加えてエンジン全開率が高く、実質的なコーナー数がわずか7つしかないことから、ブレーキングによって運動エネルギーを回生するMGU-Kの作動機会が限られ、その分MGU-Hへの依存度が高まるためだ。
こうした複合的な要因が重なり、パワーユニット全体にとって極めて過酷なコンディションが生まれている。
コースレコード
- ラップレコード
- 1:05.619(サインツ/McLaren、2020年)
- コースレコード
- 1:02.939(ボッタス/Mercedes、2020年)
雄牛をモチーフとした彫刻
ターン6~8の内側エリアには雄牛をモチーフとした彫刻がある。これはコールテン鋼とコンクリート、そしてアルミニウムを素材としたもので総重量1,300トン、高さは18メートルもあり、2012年5月からレッドブル・リンクのランドマークとして親しまれている。
© Pirelli & C. S.p.A
サーキットの場所と地図
サーキット周辺は観光資源に乏しいのどかな農村地帯で、山々に囲まれた自然豊かな環境に位置している。オーストリアの国土の約62%は山岳地帯で占められており、航空写真からもその深い緑と起伏に富んだ地形が一望できる。
歴史
エステルライヒリンク時代
1964年のツェルトベクでの初開催後、F1オーストリアGPは1970年から1987年までエステルライヒリンクで開催された。
A1リンクの旧レイアウトであるエステルライヒリンクは、モンツァやホッケンハイムをも上回る超高速サーキットとして知られ、平均速度は250km/hに達していたとされる。直線が長くオーバーテイクポイントが豊富な設計は、ドライバーたちの間でも特に人気が高かった。
A1リンク時代
creativeCommons Arz
エステルライヒリンクとA1リンクのレイアウト比較図。薄い灰色がエステルライヒリンク
ヘルマン・ティルケによる改修を経て、1997年にエステルライヒリンクはA1リンクと名称を改め、F1オーストリアGPもこの年に復活を果たした。
だが、騒音問題を巡って地元の環境保護団体との対立が深まり、2003年をもって開催は終了。その後、同サーキットはレッドブルによって買収されたが、ディートリッヒ・マテシッツ総裁は当時、「F1オーストリアGPの復活を視野に入れてのA1リンク買収ではない」と明言していた。
A1リンクといえば、2002年のF1第6戦オーストリアGP決勝で起きた佐藤琢磨の激しいクラッシュが記憶に残る。レース28周目、ジョーダンを駆る佐藤に対し、コントロールを失ったニック・ハイドフェルドのザウバーが激しく衝突。クルマは大破し、琢磨はヘリコプターで病院に搬送される事態となった。
画像
Courtesy Of Red Bull Content Pool
2019年F1オーストリアGPの表彰台で、ホンダのロゴを誇らしく指差すレッドブル・レーシングのマックス・フェルスタッペン
Courtesy Of Red Bull Content Pool
F1オーストリアGP決勝レーススタート直後のホームストレートの様子、2024年6月30日レッドブル・リンクにて
Courtesy Of Red Bull Content Pool
フェルナンド・アロンソ(アストンマーチン)とサイドバイサイドを演じる角田裕毅(RBフォーミュラ1)、2024年6月29日F1オーストリアGPスプリント(レッドブル・リンク)
Courtesy Of Red Bull Content Pool
レッドブル・リンクの芝の上で談笑するアルファタウリの角田裕毅とニック・デ・フリース、2023年6月29日F1オーストリアGP
Courtesy Of Red Bull Content Pool
レッドブル・リンクの第二セクターとプラクティス走行を観戦する観客、2022年7月8日F1オーストリアGP FP1
copyright Antonin Vincent / DPPI
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のために人気のないレッドブル・リンクのパドック、F1シュタイアーマルクGP