
スパ・フランコルシャン
サーキット名 | スパ・フランコルシャン・サーキット |
---|---|
所在国 | ベルギー |
住所 | Route du Circuit, 55 4970 Francorchamps, Belgium |
設立年 | 1921年 |
設計 | ジュール・ド・ティエ(Jules de Their) |
全長 / コーナー数 | 7,004m / 19 |
最大高低差 | 104m |
周回数 | 44 |
ピット長 / 損失時間 | 386m / 17秒 |
ターン1までの距離*1 | 163m |
平均速度 | 221.157km/h |
最高速度 | 335.5km/h |
エンジン負荷と全開率*2 | 63% |
ブレーキ負荷と使用率 | 16% |
燃料消費レベルと量 | 2.39kg/周 |
フューエル・エフェクト | 0.41秒/10kg |
タイヤ負荷レベル | |
ダウンフォースレベル | |
グリップレベル | |
変速回数 | 58回/周 |
SC導入率 | 100% |
ウェット確率 | 36% |
WEBサイト | www.spa-francorchamps.be |
SNS | twitter facebook instagram |
*1 ポールポジションから最初の制動地点までの距離 *2 全開率は距離ではなくタイムベースで算出
スパ・フランコルシャン(Circuit de Spa-Francorchamps)は、ベルギー・リエージュ州のスパ市郊外フランコルシャンに位置するF1ベルギーGPが開催されるサーキット。通称”スパ”と呼ばれ、世界中の多くのファンに愛されている。
最古の歴史を持つコースの一つ。初めてレースが開催されたのは1922年で、1925年には初めてグランプリレース(F1の前身)が行われた。世界三大耐久レースのひとつ「スパ・フランコルシャン24時間レース」の開催地としても知られ、1924年の初開催から長年に渡って過酷な耐久レースの舞台を担ってきた。
2003年と2006年を除き、1985年以降は毎年F1グランプリを開催している。
Courtesy Of Pirelli
スパ・フランコルシャンの上空写真
コースレイアウト
開業当初のオリジナルのレイアウトは一部に公道を含み、その全長は14.981kmと、現行の二倍以上の長さを誇っていたが、幾多の改修を経て安全を優先し1979年に6.95kmの常設サーキットへと短縮され、現在は1周7.004kmに落ち着いている。
コーナー数は19。左10コーナー、右9コーナーとバランスが良い。
DRSは、オールージュの235m手前、ラ・ソース(La Source)を通過した後で検知。ケメルストレート(Kemmel Straight)で使用可。フリー走行・予選ではサーキットのどの部分でもDRSの使用が許可されているが、安全上での理由によりベルギーGPではオー・ルージュでのDRS使用が禁止されている。
最も標高が高いレ・コンブ(ターン7)と最も低いスタブロ(ターン15)の差は約100mと、カレンダーの中で最も標高差が大きいコースでもある。
特徴
平均時速240km!の超高速サーキット
全長7kmの内の約5.2kmはエンジン全開で、平均時速は240kmと、F1屈指の超高速サーキットとして名を馳せる。スパよりエンジン全開率が高いのはイタリアGPの舞台、モンツァ・サーキットだけだ。
セクター別にみるとセクター1は約84%、セクター3では約93%がフルスロットル状態となる。ラ・ソース(ターン1)からレ・コーム(ターン5)のブレーキゾーンまでの1,875mは、約23秒間ものエンジン全開区間となる。
これらの高速セクション(低ドラッグが有効)と、セクター2を中心に構成される曲がりくねったセクション(高ドラッグが有効)の両方のバランスの取れたセッティングが肝となる。エンジンパワーにして10馬力あたり0.22秒ほどのゲインとなるパワーサーキットだ。タイヤの消耗度はシーズン最大。
1周の大部分でアクセルをベタ踏みしているため、燃料消費量も桁外れに高い。スパでは1周あたり2.39kgもの燃料が使われる。カレンダーの平均が1.69kg/lapであることを考えると約1.4倍。如何に燃費に厳しいかがよく分かる。エネルギー回生(ERS)にも厳しく、1周もたずにデプロイメントが切れてしまう。
なお旧レイアウトでは、1973年にアンリ・ペスカロロがマトラのプロトタイプで平均時速262.461kmのコースレコードを打ち立てている。
気紛れな”スパ・ウェザー”
周りを深い木々が覆うロケーションが引き起こすスパ特有の変わりやすい天候、通称「スパ・ウエザー」による突然の土砂降りがレースを狂わした事は一度や二度ではなく、セーフティーカー出動率は80%(2016-2020年)と異様に高い。全長が長い事もあり、コースの一部で雨が降るかと思いきや、別のエリアでは路面が乾いている事も珍しくない。
名物オー・ルージュとプーオン
かの有名なオー・ルージュ(仏:Eau Rouge)は、ドライバーやファンが常に話題にするコーナーのひとつ。フランス語で「赤い水」の意味を持つ。コーナーと交差するように流れる川の名前が由来。2019年のFIA-F2選手権レースでアントワーヌ・ユベールが事故死したのがオー・ルージュとこれに続くラディオン(ターン3)を抜けた先の区間だった。
最大勾配は18%。高低差約80mを2秒ほどで駆け抜けることになるため縦方向に1G、横方向に5Gもの荷重がかかるという。ロケットで空に打ち上げられるような感覚に近いのだろう。また、セクター2では、18階建てのビルに相当する高さを一気に降ることになる。
© Pirelli / オー・ルージュ
オー・ルージュについて、2度のF1ワールドチャンピオンであるフェルナンド・アロンソはかつて「坂を下っていくと、いきなり急な上り坂を迎える事になる。コックピットからはコーナーの出口が全く見えず、頂上を越えた後にどこに行くことになるのか分からない。タイム的にもレースにおいても、その後に上り坂のロングストレートがあるためミスが許されない重要なコーナーだが、同時に走る度に特別な印象を与えてくれる。坂を駆け上がる前の一番低い場所を通過する際は、体が圧縮されるような感覚を覚える。凄く不思議な感じだけど本当に楽しい」と評している。
スパ・フランコルシャンの高低差はF1カレンダー最大の約104mで、ターン7が最高地点、ターン15が最低地点となる。
オー・ルージュと同じ位に人気があるのは、ターン10・11から構成されるプーオン。急な下り坂の先に位置する高速2連チャンの左コーナーでは、度胸とドライビング・スキルが試される。30%近くダウンフォースが増した最新型F1マシンはプーオンすらエンジン全開であり、ここではシーズン最高となる5.3Gもの横方向への強烈なGフォースがドライバーに襲いかかる。
© Pirelli、高速左コーナーのプーオン
意外と難しいオーバーテイク
レース中のオーバーテイクは、困難とは言わないまでも決して簡単なわけではない。2018年のベルギーグランプリでは合計28回のコース上での追い抜きが記録された。その内、DRSを使用しない通常のオーバーテイクは10回に過ぎなかった。
タイヤへの入力が大きいため、決勝ではタイヤのマネジメント能力が問われる。予選に関しては、1週7kmもの長さ故にタイヤのチョイスによっては1周持たずに性能が低下してしまう恐れがある。
ポール・ポジションからターン1のブレーキングゾーンまでの距離はF1最短の150.4mしかない。最長はソチ・オートドロームの890mで、6倍近くの差がある。
オープニングラップのターン1までに劇的なオーバーテイクが起こる可能性は低いが、その分だけターン1の出口で各車が接近するため、ここで前走車のスリップエリアに付くことができればターン5までに交わせる可能性は高い。
なお2018~2020年のグランプリでのオーバーテイクの80%以上はケメル・ストレート上でのものだった。
年 | オーバーテイク | リタイヤ | ||
---|---|---|---|---|
通常 | DRS | 接触 | 機械的問題 | |
2022年 | 30回 | 40回 | 2台 | 0台 |
2021年 | 0回 | 0回 | 0台 | 0台 |
2020年 | 7回 | 27回 | 2台 | 0台 |
2019年 | 15回 | 35回 | 1台 | 1台 |
2018年 | 10回 | 18回 | 5台 | 0台 |
2017年 | 11回 | 21回 | 1台 | 3台 |
全長が長いが故の特異な課題
短くなったとは言えF1カレンダーの平均を2km近く上回る。2番目に長いバクー市街地コース(6.003 km)より1kmも長く、今もなお最長のサーキットとして君臨しており、ベルギーGPのレース周回数は44周と最も少ない。
1周が長いが故に、チームとドライバーは幾つかのユニークな課題に直面する。
例えばラップの最初の方でマシンにダメージを負った場合、ピットまでの道のりは長く険しい。いつも以上に大きな痛手となる。
また天候変化の激しさ故に、コーナーごとにコンディションが変わることも少なくない。
更にプラクティス中に多くの周回をこなす事ができないため、ドライバーにとっては各コーナーの練習機会が限られる事になる。
コースレコード
タイム | ドライバー | チーム | 年 | |
---|---|---|---|---|
ラップレコード | 1:46.286 | バルテリ・ボッタス | メルセデス | 2018年 |
コースレコード | 1:41.252 | ルイス・ハミルトン | メルセデス | 2020年 |
最多勝利ドライバー
伝統的・古典的なスパのコースは多くのドライバーとファンに愛されているが、3勝以上を挙げたドライバーは僅か8人(2020年現在)。スパはドライバーを選別する。
- ミハエル・シューマッハ…6勝
- アイルトン・セナ…5勝
- ジム・クラーク…4勝
- キミ・ライコネン…4勝
- ルイス・ハミルトン…4勝
- ファン・マヌエル・ファンジオ…3勝
- セバスチャン・ベッテル…3勝
- デイモン・ヒル…3勝
歴史と改修
第一次世界大戦末期、リエージュの新聞社「ラ・ムーズ」のオーナー、ジュール・ド・ティエが、大戦の影響で中断されていたカーレース「ラ・ムーズ・カップ」復活の場所として、スパ・フランコルシャンとマルメディ、スタヴェロを結ぶ32号線、23号線、440号線を使用したコースに目をつけた。
1921年8月に全長15.820kmのコースで初の自動車レースが開催されたが、エントリーが1名のみであったため、23台のオートバイを集めたレースが行われた。平均時速90kmで走ったノートン500ccのハッサルが優勝した。
1年後の1922年、ベルギー王立自動車クラブがフランコルシャンで “ベルギーGP “を開催した。トルナコ・ブリュイエール男爵がインペリア・アバダルを駆り、平均時速88.900kmで優勝した。
1924年には計時ブース、スコアボード、プレススタンドの建設を経て、第1回フランコルシャン24時間レースが開催された。1928年には未舗装であったコースにターマックが敷設された。
1939年には、かの有名なラディオン・コーナーが建設された。外国人からは「オー・ルージュ」と呼ばれた。
世界選手権化されたF1の初年度、1950年のベルギーGPではファン・マヌエル・ファンジオが優勝を飾った。翌年にはコース幅が6mから9mへと拡大された。
旧ロングコースでの最後の開催となった1970年のF1ベルギーGPでは、メキシコ人のペドロ・ロドリゲスが平均時速241kmで優勝した。安全性確保の観点から、1979年に全長を6.947kmへと短縮したレウアウト変更が行われた。
F1ベルギーGPの復活は1983年。フランス人のアラン・プロストがルノーを駆り優勝を飾った。
2007年には1,500万ユーロの予算で、新しい施設の建設が行われた。目玉はFIAの新基準に適合したピットだった。
2019年のFIA-F2選手権でのアントワーヌ・ユベールの事故死など、深刻な事故が相次いだ事を受け、2022年大会に向けて8,000万ユーロ(約109億363万円)の費用を投じコース改修を実施した。
安全性向上のためにラディオン脇のランオフエリアが拡充され、ラ・ソースやブリュッセルなどのランオフエリアはアスファルトからグラベルへと変更された。
サーキットの場所と地図
ベルギーの首都ブリュッセルの東、ドイツとの国境に近いアルデンヌの森を切り開いた場所に位置する。実際のところサーキットはスパになく、敷地はフランコルシャンとマルメディの周辺に位置している。
写真
Courtesy Of Pirelli & C. S.p.A.
オー・ルージュから眺めたスパ・フランコルシャンのパドック
Courtesy Of Ferrari S.p.A.
スパ・フランコルシャンのオー・ルージュを上るスクーデリア・フェラーリSF1000、2020年F1ベルギーGPプラクティスにて
Courtesy Of Red Bull Content Pool
上空に雨雲が垂れ込めたスパ・フランコルシャン、2018年F1ベルギーGP予選
Courtesy Of Red Bull Content Pool
スパ・フランコルシャンのホームストレート
Courtesy Of Red Bull Content Pool
タイヤスモークを上げながらルノーのニコ・ヒュルケンベルグとバトルするレッドブル・ホンダのアレックス・アルボン、2019年F1ベルギーGP決勝レースにて
copyright FORMULA 1
2018年F1ベルギーGP決勝レースの1周目に発生した大クラッシュ