レッドブルの2024年型F1マシン「RB20」と2023年型メルセデス「W14」の側面比較
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レッドブルRB20、鈴鹿で更なる衝撃の”メルセデス化”か…捨て去られたゼロポッドを拾う利点とは

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発表された新車「RB20」には既に、過去数年に渡ってメルセデスが採用していた幾つかのアイデアが見て取れるが、それは「メルセデス化」のほんの始まりに過ぎないのかもしれない。エイドリアン・ニューウェイとピエール・ワシェ率いるレッドブルの技術チームは、2024年の第4戦日本GPで「ゼロポッ​​ド」型のサイドポッドの導入を計画しているという。

F1日本GPで”ゼロポッ​​ド・アップデート”を計画

英「AUTOSPORT」によるとRB20のローンチスペックは開幕3戦、つまりバーレン、サウジアラビア、そしてオーストラリアのみの期間限定バージョンで、鈴鹿を舞台とする日本GPで「メルセデスのサイズゼロ・サイドポッドを彷彿とさせるアップグレード」が導入される見通しだという。

メルセデスの2023年型F1マシン「W14」のサイドポッド、フロアフェンス、ベンチュリートンネル、ルーバーのレンダリング画像Courtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.

メルセデスの2023年型F1マシン「W14」のサイドポッド、フロアフェンス、ベンチュリートンネル、ルーバーのレンダリング画像

鈴鹿がメジャーアップグレード第一弾の地として選ばれたのは、シーズン最初の常設サーキットであること、そして序盤の開催地とは異なり気温が比較的に低く、冷却に対する要求が厳しくないことの2つが考えられる。

チーム代表を務めるクリスチャン・ホーナーはローンチイベントで、RB20には幾つかの「素晴らしい革新」があるとしたうえで、その成果を「今後数週間を通して精査」すると説明した。

自らがリードしたレター型とは対照的にリーディングエッジ(最前部)の上部が前方に長く突き出たサイドポッド、ラジエーターへの吸気口と思しき縦長ダクト、そしてヘイローの取り付け部分から水平にリアへと続くエンジンカバーなど、ローンチイベントで発表されたRB20は既にメルセデス風の外観を備えているが、真のRB20は更に従来のシルバーアローに近いものとなるのかもしれない。

レッドブルの2024年型F1マシン「RB20」と2023年型メルセデス「W14」のエンジンカバーの比較画像copyright Formula1 Data

レッドブルの2024年型F1マシン「RB20」と2023年型メルセデス「W14」のエンジンカバーの比較画像

レッドブルの2024年型F1マシン「RB20」と2023年型「RB19」のサイドポッド・インレットの比較画像copyright Formula1 Data

レッドブルの2024年型F1マシン「RB20」と2023年型「RB19」のサイドポッド・インレットの比較画像

メルセデスが諦めた革新のコンセプト

メルセデスは2022年のグランドエフェクトカー規定導入を機に、ラジエーターを含む冷却系をタイトに抑え、その吸気口を縦長に取る処理によってサイドポッドを限りなく小型化し、より多くの空気を車体の側面と後輪の内側を通してリアに流そうとする革新的なコンセプトを採用した。

これは強力なピークダウンフォースの生成を可能にした。実際、ゼロポッド搭載のシルバーアローはしばしば、高速コーナーで誰よりも高いパフォーマンスを発揮した。

しかしながら路面状況や温度に対して脆弱で、その性能を一貫して引きだす事が難しく、また、バウンシングやポーパシングの影響でコーナーへの進入が不安定となり、モナコでの2023年初のメジャーアップグレードによってその独自路線には終止符が打たれた。

メルセデスの2023年型F1マシン「W14」と2022年型「W13」のサイドポッド、フロアエッジ、エンジンカバー周りの比較画像copyright Formula1 Data

メルセデスの2023年型F1マシン「W14」と2022年型「W13」のサイドポッド、フロアエッジ、エンジンカバー周りの比較画像

チャンピオンシップを争うまでの競争力を実現させるには至らなかったものの、ゼロポッドにはエンジニア達の追求欲を掻き立てるだけの利点があり、理論的には従来の「ダウンウォッシュ」型サイドポッドより空気力学的に有利と考えられている。

サイドポッドを小型化してフロアの露出面積を増やすと空気抵抗が減り、また車体後方に流れるフロア上部の空気量が増える。これによりディフューザーから抜ける床下からの空気を引っ張り上げ、より多くのダウンフォースを生成させる事が可能となる。

更に、グランドエフェクトカーにとっての肝となるベンチュリートンネル入口周りのレイアウトの自由度も高まる。

2022年F1バルセロナテスト時とバーレーンテスト時のメルセデスW13のサイドポッド比較Courtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.

2022年F1バルセロナテスト時とバーレーンテスト時のメルセデスW13のサイドポッド比較

新たなスタンダードを確立させるか

一貫してコンストラクターズ選手権首位を走るレッドブルは、スライドスケール空力テスト規制(ATR)と2021年の予算上限違反により、風洞およびCFDシミュレーションがランキング7位のチームの63%に制限された。

それでも昨年のハンガリーGPでは意欲的なサイドポッドを導入し、RB20においても大幅な改良を加えた。これらの裏にはATRの例外条項があるものと見られている。

内部にラジエーターや熱交換器を格納するサイドポッドの変更はすなわち、冷却システムの変更を意味する。レギュレーションには幾つかの例外条項が設けられており、空力測定を行わない事を条件に、冷却系の変更や開発のみを目的としたテストについてはATRから除外されるルールが存在する。

鈴鹿バージョンのRB20が成功するのかどうかは全く分からない。だがメルセデスが果たせなかった「ゼロポッ​​ド」の限界を打ち破り、グランドエフェクトカー時代の新たなスタンダードを築くことになれば、2024年はおろか、2025年も支配的な競争力を発揮する事になるだろう。

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