速読:単なる進化形に非ず…レッドブルF1「RB20」先代比較、競合の裏をかく”革新”のシングルシーター
昨年の支配的なシーズンに飽き足らず、王者レッドブル・レーシングは2024年型「RB20」で先代の優位性を更に発展させるべく、安牌を切った保守的なアプローチを採らずに幾つかの「革新的」なソリューションを導入した。
満を持してローンチウィークのトリを飾った「RB20」は、全22レースで21勝を挙げ、最も成功したクルマの1台としてF1の歴史に名を残した先代モデル「RB19」の後継機だ。故にコンサバに正常進化させる手もあったわけだが、エイドリアン・ニューウェイとピエール・ワシェ率いる技術チームは安住を良しとしなかった。
RB20についてマックス・フェルスタッペンは「アブダビ(昨年の最終戦)で図面を見たんだけど、『おっと、ある意味これはかなり違うな』って思った」と述べ、チーム代表を務めるクリスチャン・ホーナーは「幾つかの素晴らしい革新」があるとして、「チームはRB20で素晴らしい仕事をした。彼らは現状に甘んじておらず、マシンの限界を更に押し広げている」と語った。
トレー状のラジエーターダクトや彫刻的なサイドポッドのアンダーカット、ショートノーズなど、RB20のローンチに先立ち発表された9つのライバルチームのマシンはいずれも少なからずRB19を追い求めたかのような要素を備えていたが、アンベイルされたRB20はそんな競合をあざ笑うかのような予想外の外観だった。
ローンチで手の内の全てを明かすとは考えられず、結局のところRB20の真の姿はプレシーズンテスト、あるいは開幕戦を待つ必要があるが、特に先代のメルセデスとの類似点が認められるレッドブルの最新シングルシーターについて駆け足で見ていきたい。
一体何処に?驚きのサイドポッド・インレット
最大のサプライズはサイドポッド・インレットだろう。ラジエーターを冷却するための空気を取り込むダクトが一見すると見当たらない。しかしながら”ない”という事はあり得ない(オーバーヒート必至)ため、何処かに隠されているという事になる。
RB19のダクトがあった場所、サイドポッドのリーディングエッジ(最前部)は前方に長く突き出た形状となっており、ダクトの存在もそうだが、RB19が先鞭をつけライバルがこぞって取り入れたトレー形状とは似ても似つかない。
問題の吸気口が何処にあるのかは正確には分からないが、その存在を仄めかすエリアがリアビューミラーの真下のあたりにある。車体に沿って縦に長いエアインテークのようなものがあるのだ。
仮にこれがラジエーターダクトだとすれば、コンセプトを誤ったとして闇に葬られたメルセデスの”ゼロポッド”を思い出させるが、空力的には大きく異なる。ゼロポッドにはサイドポッドとフロアとの間にいわゆるアンダーカットがなかったが、RB20は先代同様、ひょっとするとそれ以上に大きな空気の通り道が設けられている。
ただしこれに関しては、フェラーリ「SF-23」に導入された次世代Sダクトに似たソリューションである可能性も残されている。この場合、RB20の吸気口は前方に飛び出たリーディングエッジの下面あたりに、従来のような横長の形状で配置されている可能性が考えられる。
メルセデスW14風のエンジンカバー
サイドポッド・インレットの変更は冷却系の変更を意味する。取り込まれた空気はカウル内部に格納されるパワーユニットの冷却水やオイル、ERSコントロール・ユニットやES(バッテリー)等の冷却に使われ、その後、車体後方から排出される。
RB20は、そんな大量の熱を帯びた空気の排出口へと向かうエンジンカバーのデザインも大きく変わった。
ヘイローの取り付け部分から地面に対してほぼ水平にリアへと続き、その上部を流れる空気をビームウイングへと導くように後輪の直前あたりで”なで肩”に下方へと変形するそのフォルムは、これまたメルセデスがW14で導入したアイデアを彷彿とさせる。
メルセデスが捨て去ったものを拾った王者レッドブル。技術部門のアプローチはドライバーにとっても意外なものだった。RB20が先代のメルセデスによく似たアイデアを備えている事について驚いたか?と問われたセルジオ・ペレスは「うん、少しね」と答えた。
エンジンカバーやラジエーターダクトだけでなくサイドポッドの形状そのものにも変化が見られ、エンジンへの空気の取入口、インダクションポッドの形状も円形から角丸四角形状へと変更されている。
ご覧の通り、フロアエッジは完全にダミーで、ライバルに知られたくない肝の部分はベールに包まれている。
フロントウイングとサスペンション
RB19のノーズは幅が広く、2枚目のエレメントに固定され、メインプレーンとの間に隙間が設けられるショートノーズとなっていた。これはアンダーフロアの中央部に空気を導く事を目的としたものと考えられており、メルセデスやアストンマーチンが追随しているが、RB20のノーズはそんなライバルたちの従来モデルのように最前方のエレメントと接合されているように見える。
ただ、先端に着脱式のパネルのようなものが確認できるため、依然としてショートノーズである可能性もある。加えてウイングはボルトオンでの取り付けであり、楽に交換できるため、発表イベントでの姿はあまり当てにできない。
これを除けばフロントウイングやノーズ、サスペンションに関しては、ローンチ会場に持ち込まれたRB20とRB19との間に違いは殆ど見受けられない。
フロント・サスペンションは先代そのままといった雰囲気で、リア・サスペンションも変化らしい変化は確認できない。このあたりはプレシーズンテストでの再確認が必要となりそうだ。
革新的であることは必ずしも競争力を約束するわけではない。ホーナーは次のように述べ、昨年以上にフィールドが拮抗するのは間違いないとの考えを示した。
「全戦優勝という目標を掲げるのはかなり難しいと思う。我々は昨年、22戦で21戦を達成した。逃したのはシンガポールだけだった。つまり技術的には改善できると思うが、レギュレーションが安定しているため論理的には収束するだろう」