MGU-H

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MGU-H(Motor Generator Unit Heat)とは、F1パワーユニットを構成するエネルギー回生機構の一つで、排気ガスを電気エネルギーに変換し、ICE(内燃エンジン)の出力を補うハイブリッドシステムを指す。2014年から2025年まで採用された1.6リッターV6ハイブリッドターボエンジンに搭載された。

運動エネルギーを回生するMGU-KとMGU-Hを合わせてERS(エネルギー回生システム)と呼ぶ。回収されたエネルギーは内燃エンジンが生み出す出力に加算され、マシンの駆動力となる。

市販車でおなじみのハイブリッドは主に運動エネルギーのみを回生するが、F1ではエンジンから大気中に放出され、温暖化の原因とされる二酸化炭素を含む排気ガスさえも再利用し、これを動力に変換する。

仕組みと原理

ハイブリッドの基本は、利用されることなく無駄に垂れ流されていた何らかのエネルギーを利用して発電機を回し、電力を得る点にある。F1で使われているMGU-Hは、空気中に排出される排気を利用して発電機を回し、パワーへと変換する。

熱エネルギーを回生する方法は原理的には複数考えられるが、規定上「MGU-Hはターボチャージャーと機械的に連結していること」と定められているため、事実上、排気ガスを利用する方法に限定される。

F1パワーユニットには、MGU-Hと同様に排気ガスを利用するターボチャージャーの搭載が義務付けられている。両者は同軸上に設置され、いわば共生関係にある。

F1パワーユニットにおけるターボチャージャーとMGU-Hの構造図

ターボチャージャーは、排気ガスによってタービン(扇風機の羽根のような形状)を回し、コンプレッサー(空気を圧縮する機械)を稼働させ、圧縮された空気をエンジン内部に強制的に送り込むことで燃焼効率を向上させ、出力向上を図る。

一方のMGU-Hは、全開加速時などタービンが余剰回転して排気ガスを使い切れない場合に発電を行う。

MGU-Hの役割

MGU-Hは「熱エネルギーの回生」と「ターボラグの解消」という2つの役割を担っている。なお、レギュレーションで最低重量は4kg、最高回転数は125,000回転と定められている。それぞれについて詳しく見ていく。

熱エネルギーの回生

MGU-Hは、大気中に放出される排気ガスを再利用して電気エネルギーに変換する。生成されたエネルギーは即座に使用するか、ESと呼ばれるバッテリーに蓄えて後で使用するかを選択できる。エネルギーを実際に使用する(デプロイメント)際には、MGU-Kにこれを転送する必要がある。MGU-Kは運動エネルギーの回生を担当するだけでなく、蓄えたエネルギーを使ってエンジンをアシストする役割も担っている。

ルール上、MGU-Hの回生エネルギー量に制限はないが、バッテリーからMGU-Kへの転送には1周あたり最大2MJという上限が定められている。そのため、MGU-Hで回生したエネルギーを一旦バッテリーに保存すると、事実上制限がかかることになる。バッテリーを経由させずに使用する場合はこの限りではない。

ターボラグの解消

排気ガスはアクセルを踏み込んでいる際には大量に排出されるが、減速時やアクセルオフの状態からオンにした直後にはあまり排出されない。そのため、コーナー出口からの脱出時などには、アクセル操作から少し遅れたタイミングでターボが作動し始める。これをターボラグと呼ぶ。

このターボラグを解消するためにMGU-Hが使われる。ラグが発生するタイミングでMGU-Hを用いてターボの代わりにコンプレッサーを駆動させ、エンジン内部に圧縮空気を送り込む。

MGU-Hの市販車転用

V6ハイブリッド時代の覇者メルセデスAMGは、乗用車から船舶まで幅広い種類の過給機を手掛けるギャレット・モーションと共同で「エレクトリック・エキゾーストガス・ターボチャージャー」と呼ばれる革新的技術を開発。MGU-Hのテクノロジーを次世代のロードカーに搭載する計画を2020年6月17日に明らかにした。

F1パワーユニットのMGU-Hを転用して開発されたメルセデスAMGのエレクトリック・ターボチャージャーの構造図

F1パワーユニットのMGU-Hを転用して開発されたメルセデスAMGのエレクトリック・ターボチャージャー 全体

聞き慣れない名称を持つこのターボチャージャーの最大の特徴は、排気側のタービンホイールと吸気側のコンプレッサーホイールの間にあるシャフトに直接組み込まれた、わずか4cmの小型電動モーターにある。いわゆる「電動ターボチャージャー」だ。

この小型モーターは、排気ガスでタービンを回すことができずターボチャージャーが機能しない状況(アクセルを踏み込んだ瞬間など)において、電気的にコンプレッサーを駆動させ、圧縮空気をシリンダーに送り込む役割を担う。これにより、アイドリング時からの応答性向上だけでなく、全回転域でのレスポンス改善が期待できる。

いわゆるターボラグを電気モーターで解消する仕組みであり、F1のMGU-Hも同様の役割を兼ねているが、パフォーマンス追求を主目的とするMGU-Hとは異なり、エレクトリック・エキゾーストガス・ターボチャージャーはドライバビリティの改善を目的とした装置といえる。

信頼性を欠いたホンダのMGU-H

ホンダは2015年、マクラーレンとタッグを組んでF1に復帰したが、初期はMGU-Hが大きな足かせとなり苦戦を強いられた。マクラーレンはエンジンよりも車体の空力性能を優先し、可能な限りリアエンドのボディワークを絞る「サイズ・ゼロ」をコンセプトに掲げ、ホンダに対してコンパクトなエンジンの開発を求めた。

ホンダはマクラーレンの要請に応えるため、ターボチャージャーやMGU-Hなどを可能な限り小型化し、これらをエンジンのVバンク内部にレイアウトした。この結果、MGU-Hの出力が頭打ちとなり、ハイブリッドパワーによる追加出力に限界が生じた。

そこでホンダは2017年にパワーユニットのコンセプトを一新。MGU-Hやターボチャージャーを大型化し、ターボを構成するコンプレッサーをVバンク前方へ再配置した。だが、ここで再び深刻な信頼性不足が露呈する。

HRD SakuraでMGU-H開発の主任研究員を務める乙部隆志氏によると、その主たる原因は「ローターダイナミクス」にあったという。これは回転機械の振動や挙動に関する応用力学の専門分野を指す。コンプレッサーをVバンク前方へ再配置したことでタービンとコンプレッサーをつなぐシャフト(軸)が長くなり、軸の共振に関する問題が発生した。

具体的には、一定のエンジン回転数や速度域でバンプや縁石に乗り上げた際に軸振動が一気に増大し、ねじれや曲がりが生じた。その動きに対して回転軸に取り付けられたベアリング(回転する軸を支える部品)が耐えきれずに破損。支持を失ったシャフトが暴れることで、パワーユニット全体が破壊された。この年はバーレーンやモナコ、アゼルバイジャンなど前半戦の多くで故障が相次いだ。

この問題を解決するため、ホンダはガスタービンエンジンの知見を持つ航空機部門に支援を求めた。航空機用エンジンは大型のプロペラとタービンが長い軸で連結されており、MGU-Hもコンプレッサーとタービンが軸でつながれていることから、構造が類似している。

ホンダジェットのエンジン開発担当主任研究員を務める藁科直美氏によると、ベアリングの配置や位置、軸の剛性を変更することで、シャフトの危険回転域(特に大きく振動する回転域)をレース中に使用する常用回転域の外へと移し、耐久性を高めたという。

この結果、ホンダのF1パワーユニットは飛躍的に性能と信頼性を向上させた。2019年第2戦以降、レッドブルとトロロッソはMGU-Hの故障を原因とするリタイアを経験していない。

MGU-Hの存廃を巡る議論

当初、F1および国際自動車連盟(FIA)、そしてリバティ・メディアは、2021年から一新されるF1テクニカルレギュレーションにおいて、高価で極めて複雑なMGU-Hを廃止し、新規マニュファクチャラーの参入を促したい考えだった。だが既存参戦メーカーからの反対もあり、少なくとも2025年まで継続されることが決まった。

ハイブリッド・ターボ時代の王者メルセデスやホンダはMGU-Hの廃止に反対の意向を示し、フェラーリもこの方針に強く反発した。

だが最終的には、極めて複雑で開発コストが高く、市販車への転用も限定的であることなどを背景に、FIAは新規メーカーの参入促進と既存メーカーの負担軽減を目的として、2026年シーズンのレギュレーションでMGU-Hの廃止を決定した。