急展開…何故フェルスタッペンはレッドブル・ホンダとの契約延長をこれほど早期に決断したのか?
プレシーズンテストとシーズン序盤の数戦を消化し、新車「RB16」のパフォーマンスを確認した後に将来のシナリオを評価しても良かったのでは。。何故マックス・フェルスタッペンは、レッドブル・ホンダとの契約延長をこれほど早期に決断したのだろうか?
レッドブルは年明け早々の7日(火)に3年の契約延長を発表。少なくとも2023年末までフェルスタッペンがミルトンキーンズのチームに留まる事が確定した。レッドブルとホンダのファンにとっては、正月に相応しいめでたいニュースとなった。
ホンダとの契約延長からひと月後の急展開
フェルスタッペンとの契約延長は、レッドブルとホンダ双方にとって最優先事項だった。若きオランダ人ドライバーの囲い込みは、両者が中長期的成功を目指す上で必要不可欠であったものの、フェルスタッペンにはメルセデスへの移籍の噂が絶えなかった。フェルスタッペンは交渉上有利な立場にいた。
レッドブルは昨年、モータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコを窓口として、ホンダの山本雅史MDとの数回に渡る会談を行い、2021年以降の新しいパワーユニット契約について話し合った。フェルスタッペンをキープするためにはホンダとの契約延長が欠かせなかった。
レッドブルは神経を尖らせていた。チャンピオン獲得に足る才能を持つドライバーは限られており、仮にフェルスタッペンを失った場合、今のピエール・ガスリーやダニール・クビアト、アレックス・アルボンにその代役を期待する事は難しい。ジュニアドライバーに期待の新星はなく、フェルスタッペンを失えば再び中期的な低迷に苦しむ事になりかねない。
ホンダ側にとっても、目標に掲げるチャンピオンシップ制覇を果たすためには、フェルスタッペンの存在が重要だった。結局ホンダは、シーズン最終アブダビGP開幕を翌々日に控えた11月27日に、新たなレギュレーションが施行される2021年もF1に留まり、レッドブルとアルファタウリの両チームにパワーユニットを供給し続ける事を発表した。
これによってレッドブルは、残留のための説得材料を得る事になった。ヘルムート・マルコはヤス・マリーナ・サーキットで、シーズン閉幕後にフェルスタッペンと話し合う予定だと明かし、そのひと月後に3年の契約延長が発表された。まさに急展開であった。
引き止めに足る材料を揃えたレッドブル
ホンダはフェルスタッペンのレースパフォーマンスとフィードバックを高く評価し、フェルスタッペンはホンダの情熱と開発、そして今後の可能性を強く信じていた。ホンダのコミットメントがフェルスタッペンの決断を強力に促した事は間違いないだろうが、移籍候補先チームのドアが閉められたという可能性もゼロとは言えない。
“パワーユニット不正発言”のためにフェラーリの門戸は閉ざされていたため、フェルスタッペンの唯一現実的な移籍候補先はメルセデスのみという状況であったが、ハイブリッドエンジン時代の覇者にはワークス撤退の噂が付きまとっている。
仮に撤退の裏が取れたとすれば、フェルスタッペンとしてはレッドブル・ホンダ残留が最善の選択肢となるが、フラビオ・ブリアトーレはこの程、現在シルバーアローを率いているトト・ウォルフが、2021年以降もメルセデスで同職を務めると主張しており、撤退の可能性を除外している。
決め手となったものを断定する事は出来ないが、レッドブル側がフェルスタッペンの求めるものを約束した事は間違いない。それは一体何か? 一つにはホンダとの契約。他には、空力の鬼才エイドリアン・ニューウェイが今後もマシン開発に関与する事の保証などが考えられる。
© Getty Images / Red Bull Content Pool、エイドリアン・ニューウェイ、2019年F1バーレーンGPにて
クリスチャン・ホーナー代表が「レギュレーション変革に対応するためには、可能な限り多くの領域で継続性を確保する事が重要」と述べるように、規約が一新される2021年以降の新時代のF1で優位に立つためには、チームとしての一貫性が欠かせない。
F1チームは、リードドライバーとそのドライビングスタイルを中心にマシン作りを行うだけに、ドライバーラインアップの一貫性は重要度が高い。また、マシン開発だけでなく、スポンサーシップなどのマーケティング面にも大きな影響が及ぶ。早期決断はフェルスタッペン側にも相応のメリットをもたらす。
むろん、何らかのパフォーマンス条項がある事は想像に難くない。契約条項には「2021年の成績如何によっては、フェルスタッペンが契約の途中解除権を得られる」といった内容の記述がある事だろう。
いずれにせよ、フェルスタッペンとの契約延長によってレッドブル・ホンダは、黄金時代のフェラーリ&ミハエル・シューマッハ、あるいはメルセデス&ルイス・ハミルトンに肩を並べるだけの成功の土台を固めつつある、と言うのは大袈裟だろうか。