2022年型F1マシンの円環状リアウィング、2021年7月15日F1イギリスGPの舞台シルバーストン・サーキットのコース上にて (1)
Courtesy Of Pirelli & C. S.p.A.

6つの外観変化に見る2022年型F1マシンの空力思想…高性能PCで471年もの歳月要する計算経て導き出されたデザイン

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F1第10戦イギリスGPを前に発表された2022年以降の革命的デザインをまとったF1マシン。何処が異なり、なぜ変更されたのか? 外観の変化から次世代F1の空力思想を見てみる。

なおパワーユニットは現行と同じ1.6リッターV6ハイブリッド・ターボエンジンが継続されるが、国際自動車連盟(FIA)による監視体制を強化するために複数のセンサーが追加される他、燃料のバイオ成分比率が現行の5.75%から10%へと引き上げられたいわゆる「E10燃料」が導入される。

画像50枚:これが次世代のF1マシンの姿だ!

ダーティーエアー撃滅を目指して

F1の社内モータースポーツチームとFIAは2022年マシンの開発に向けて「より良いレース」を目標に掲げた。それは従来以上のホイール・トゥ・ホイールの接近戦をもたらし、副次的にオーバーテイクの促進を目指すものだ。

現行F1マシンは前走車から発生する後方乱気流、いわゆる「ダーティーエアー」の影響でダウンフォースが壊滅的に失われるという問題を抱えている。

2022年型F1マシンのダーティーエアーの影響copyright FORMULA 1

2022年型F1マシンのダーティーエアーの影響

F1の調査によれば現行マシンは前走車から3車身(約20m)後方を走行するとダウンフォースが35%減少し、1車身(約10m)にまで近づくと47%もの喪失が発生していると言う。

次世代マシンの空力コンセプトは先述の目標達成に向けてこの”汚れた気流”を排除する事を最優先事項としており、F1のシミュレーションによると新型マシンは3車身後方走行時のダウンフォース減少量が僅か4%、1車身にまで接近しても18%のロスに留まるという。

なおF1は2020年マシンの方向性を探るために、約7,500回ものシミュレーションを行ったそうだ。CPU1コアあたりに掛かった時間は1,650万時間で、仮にインテルi9クアッドコアの高性能ノートPCで計算した場合、計算が終わるのに471年掛かるというから驚きだ。

また風洞実験にはスイスのウィンヒルにあるザウバーの風洞が用いられた。

1,グラウンドエフェクト重視

2022年型F1マシンのフロア下部copyright FORMULA 1

2022年型F1マシンのフロア下部

ダーティーエアーを抑えるためには複雑な空力パーツを一掃する必要があるが、それらを失えばF1マシンの特徴とも呼ぶべき強力なダウンフォースが失われてしまう。そこで目を付けたのがグランドエフェクトだった。

グラウンドエフェクト、日本語で言う地面効果は、1970年代後半のF1でトレンドとなった空力思想で、飛行機が空に浮く原理を上下逆転させてボディー下面に強力な負圧を発生させる事でクルマを地面に押さえつける力、すなわちダウンフォースを得るものだ。

当時のマシンはサイドポンツーンを飛行機の主翼を上下反転させた形状として、マシンの側面から下部に流れ込む気流を防ぐためにサイドスカートを配置。強力なダウンフォースを得ていたが、車体の上下移動に対して脆弱であり、スカートによる遮断が機能しなくなると一気にダウンフォースが失われ危険であったため、グランドエフェクトカーと呼ばれていたこの類のマシンは1982年末に禁止された。

2022年型のF1マシンにスカートは備わっておらず、完全なグランドエフェクトカーではないものの、アンダーフロア・トンネルの採用により従来以上にグランドエフェクトを利用する事が可能となっている。

2,ホイールウイングレットとホイールカバー

2022年型F1マシンのオーバホイール・ウイングレット、2021年7月15日F1イギリスGPの舞台シルバーストン・サーキットのコース上にて (1)Courtesy Of Pirelli & C. S.p.A.

2022年型F1マシンのオーバホイール・ウイングレット、2021年7月15日F1イギリスGPの舞台シルバーストン・サーキットのコース上にて (1)

2009年のF1以来となるホイールカバーが11年ぶりに復活した。F1チームはホイールを使って気流をコントロールしダウンフォースを得ているが、副産物として乱れた気流が後続車両に襲いかかる事になる。カバーはこれを防止する。

オーバーホイール・ウイングレットの役割は、フロントタイヤの後流をコントロールしてリアウイングから遠ざける事にある。従来はフロントウイングが担っていた役割だが、フロントウイングは前走車の影響を受けやすく不安定であるため、こちらの方が効果的と判断された。

3,格差是正へ、18インチ

2021年型F1マシンの実物大モデルのフロントタイヤとホイールカバー、2021年7月15日F1イギリスGPの舞台シルバーストン・サーキットのコース上にて (1)Courtesy Of Pirelli & C. S.p.A.

2021年型F1マシンの実物大モデルのフロントタイヤとホイールカバー、2021年7月15日F1イギリスGPの舞台シルバーストン・サーキットのコース上にて (1)

1960年代から半世紀以上に渡ってグランプリで採用されてきた「ポットベリード(豚の一種)」と呼ばれる野太いサイドウォールを持つ13インチに別れを告げ、+5インチとなった18インチホイールが登場する。

トレッド幅は従来と同じ(フロント305mm、リア405mm)だが直径は660mmから720mmへと拡大。最も大きな変更点はサイドウォールの縮小で、市販車市場でトレンドとなっているロープロファイルタイヤが装着される。

この18インチホイールのために開発されたピレリの新しいコンパウンドと構造は、タイヤが横滑りする際のオーバーヒート低減を目的に設計されている。2022年シーズンでは現在と同様に5種類のコンパウンドが用意され、そのうちの3種類が各週末に供給される。

更にサイドウォールのたわみ量が少ないロープロファイルの採用はチーム間格差の是正が期待できる。

現行タイヤはたわみ量が大きい分、マシン全体の空力に与える影響が極めて大きく、これを分析するためには多大な予算が必要で、必然的に大規模チームが利する構造がある。新しく導入される扁平タイヤはサイドウォールが硬くたわみが少ないため空気力学的な影響がシンプルとなり、開発コストやシミュレーションコストの削減が期待できる。

4,簡素化されたフロントウイングとノーズ

2021年型F1マシンの実物大モデルの正面、2021年7月15日F1イギリスGPの舞台シルバーストン・サーキットのコース上にて (1)Courtesy Of Pirelli & C. S.p.A.

2021年型F1マシンの実物大モデルの正面、2021年7月15日F1イギリスGPの舞台シルバーストン・サーキットのコース上にて (1)

既にフロントウイングは年々シンプルな形状となってきているが、2022年には更に簡素化される。

新型フロントウイングの役割は、前走車の後方を走行しても安定的なダウンフォースを発生させる事、そしてフロントホイールの後流を上手く制御して乱流を防ぎ、可能な限り自車の下に導く事の2点にある。

現行のフロントウイングは後流を車両の外側に導いて自車から遠ざけようとする狙いがあるが、こうした気流は後方車両のダウンフォースを奪ってしまう。その意味では新旧フロントウイングの役割は真逆と言える。

2022年型F1マシンの気流シミュレーションcopyright FORMULA 1

2022年型F1マシンの気流シミュレーション

また2019年にスパで発生したF2レーサーのアントワーヌ・ユベールの死亡事故に関する知見を元に、主として衝突時のエネルギーを散逸させるためにノーズセクションが拡大されている。

5,円環状のリアウイング

虹色の2022年型F1マシン実物大モデルのリアウィング、2021年7月15日にF1イギリスGPの舞台シルバーストン・サーキットで開催されたイベント「F1 One Begins」にてCourtesy Of Pirelli & C. S.p.A.

虹色の2022年型F1マシン実物大モデルのリアウィング、2021年7月15日にF1イギリスGPの舞台シルバーストン・サーキットで開催されたイベント「F1 One Begins」にて

現行リアウイングは空気の流れを上方へ、そして外側へと誘導するよう設計されており、後続車にダーティーエアーを吐き出している。

これに対して8ぶりに復活したビームウィングを持つ2022年モデルのリアウイングは、回転気流を作り出して後輪から発生する乱流を集め、それをディフューザーを抜ける気流に巻き込んで後方へと排出する役割を担う。

なお実物大モデルはリアウィングが一体型となっており稼働するようには見えないが、依然としてDRSは搭載される見通しだ。ただしF1は車体変更に伴うDRSの効果を再検討したいとしている。

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