メルセデスAMGが2014年のF1世界選手権に投入したパワーユニット「PU106A Hybrid」の拡大写真
Courtesy Of Mercedes

ホンダの撤退が投げかけるF1の次世代パワーユニットに関する議論

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2021年末を以てホンダがF1から撤退するとのニュースは、2026年に予定されている次世代のF1エンジン・レギュレーションに関する議論を巻き起こしている。マクラーレン・レーシングのアンドレアス・ザイドル代表は、F1の心臓部足るパワーユニット技術の将来について、2つの方向性を示している。

2050年カーボンニュートラルの実現のためにリソースを再配置するという名目で、ホンダは2021年末を以てレッドブル及びアルファタウリへのパワーユニット供給を終了する。これは、現在のF1が自動車メーカーにとって参戦意義を満たすだけの魅力がなく、ロードカーを巡るニーズ並びにトレンドと乖離している事を知らしめる格好となった。

F1がメルセデス、ルノー、フェラーリの3社のみとなるのに対し、排気ガスを出さない電動レーシングカーによるフォーミュラE選手権には日産、アウディ、ジャガー、ポルシェ、BNWなど10社もの自動車メーカーがリストに名を連ねている。

かつてポルシェを率いて、FIA世界耐久選手権(WEC)でのダブルタイトル3連覇とル・マン24時間レース3連覇という偉業を成し遂げた44歳のドイツ人エンジニアはF1の新たなパワーユニット規約について、F1とFIA、F1チームと現行エンジンメーカーだけでなく、新規参入の見込みがあるメーカーを交えて「進化を選ぶのか、革命を目指すのか」を明確にする事が第一歩であるとした上で次のように述べ、最終的なオプションは2つに絞られるとの認識を示した。

「2つの方向性が考えられる。1つは今後も(現行の)パワーユニットを維持し続ける方法だ。これはF1がテクノロジーをリードし、将来の市販車向け技術を開発するためのプラットフォームであり続ける事を目指すものだ」

「もう一つは複雑性を排し、はるかに安価なパワーユニットを選ぶというものだ」

後者が意味するのは、複雑奇怪にして高価極まりないMGU-Hの廃止だ。この場合、イルモアやコスワースといった独立系エンジンメーカーへの門戸が開かれる事になる。コスワースは、現行の1.6リッターV6ハイブリッド・ターボエンジンが導入される前年2013年末を以てF1を去った。

アンドレアス・ザイドルは、F1と比較すると比較的予算が限られているWECプロトタイププログラムでの自身の経験から、コストを抑えても革新的なテクノロジーを開発する事は可能だと考えている。

「LMPプロジェクトといった私の過去の経験から言えば、それは間違いなく可能だ」とアンドレアス・ザイドルは説明する。

「レギュレーションと自らが課した予算制限があったにも関わらず、最先端技術を備えたパワートレインを持つことが可能だった。よって私は、そういった選択肢を再びテーブルに置くべきだと考えている」

なおF1のスポーティング・ディレクターを務めるロス・ブラウンは、新たなエンジンルールはホンダを含めた自動車メーカーにとって魅力的でなければならないとの認識を示し「遅くとも2026年までに導入される予定の新しいパワーユニット規約がホンダの再参戦を促す事を願っている」と語っている。

F1は来年1月にトップ人事を変更し、チェイス・ケアリーに代わってステファノ・ドメニカリがF1の新たな社長兼最高経営責任者(CEO)に就任する。元フェラーリのチーム代表でもあるステファノ・ドメニカリは、ランボルギーニでハイブリッドの導入を指揮するなど、F1だけでなく自動車メーカーの内情にも詳しく、次期パワーユニット規約の議論を進めていく上で大きな役割を果たす事が期待される。