英国ベッドフォードにあるレッドブルの風洞施設を案内するクリスチャン・ホーナー代表、2014年12月18日
Courtesy Of Red Bull Content Pool

風洞共有で懸念されるBチームへの技術流出、潔白を主張するアルファタウリと来季制限を叫ぶマクラーレン

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スクーデリア・アルファタウリは昨年より、シニアチームのレッドブルが所有する60%スケールの風洞を使用している。従来はバイチェスターにある独自の風洞施設(50%スケール)を使ってF1マシンの開発を進めてきた。

兄貴分が持つ高精度の風洞を使う事ができるようになったのはレギュレーションが改訂されたためだ。F1では2021年より前年のコンストラクター選手権順位に応じた空力テスト制限が施行された。いわゆるスライドスケール空力テスト規制(ATR)という仕組みだ。

レッドブルF1の本拠地、英国ミルトンキーンズのファクトリーにある風洞施設、2014年12月18日Courtesy Of Red Bull Content Pool

レッドブルF1の本拠地、英国ミルトンキーンズのファクトリーにある風洞施設、2014年12月18日

これにより強豪レッドブルは風洞稼働時間が著しく制限される事となった。その空き時間をアルファタウリが利用しているというわけだ。クリスチャン・ホーナー代表の言葉を借りればレッドブルはアルファタウリの「大家」である。

これに伴い一つの問題が発生した。ホーナーは「残念ながら我々のチームも100人近くの人材と別れを告げなければならなかった。これは最終的に雇用問題や裁判沙汰に行き着く話だ」と述べ、ATRと予算制限の導入によって人事面での「縮小を余儀なくされた」と説明した。

ファンの写真撮影に応じるレッドブル・レーシングのクリスチャン・ホーナー代表、2022年4月8日F1オーストラリアGPCourtesy Of Red Bull Content Pool

ファンの写真撮影に応じるレッドブル・レーシングのクリスチャン・ホーナー代表、2022年4月8日F1オーストラリアGP

人材の大量放出によって懸念されるのはレギュレーション違反となる知的財産権の流出だが、これを取り締まるのは極めて難しい。

ホーナーは「これはエンジニアや技術者が別のチームに移籍した場合にも起こることだが、紙切れや物理的なデータ、知的財産(IP)を持ち出すことはできないものの、彼らは頭の中にある知識を持ち出す事ができる。故に、FIAが取り締まる事が難しい」と説明する。

ただ風洞という高額な施設を他のチームと共有することは経済合理性に適った話だ。アルファタウリのフランツ・トスト代表は「我々はこれまで独自の風洞を使用していたが、私に言わせればこれは金の無駄遣いだ」と指摘する。

「シナジー効果を目指して他のチームと協力する状況と比べれば、すべてのチームが独自の風洞を持たなければならないという方向性は間違いなく金の無駄であって、持続可能性とのバランスを取る事もできない」

FIAプレスカンファレンスに向かうレッドブル・レーシングのクリスチャン・ホーナー代表とアルファタウリのフランツ・トスト、マクラーレンのアンドレアス・ザイドル代表、2022年4月9日F1オーストラリアGPCourtesy Of Red Bull Content Pool

FIAプレスカンファレンスに向かうレッドブル・レーシングのクリスチャン・ホーナー代表とアルファタウリのフランツ・トスト、マクラーレンのアンドレアス・ザイドル代表、2022年4月9日F1オーストラリアGP

F1は風洞の供給に加えてトランスファラブル・コンポーネント(TRC)オープンソース・コンポーネント(OSC)を整備するなど、小規模チームの競争力を引き上げるための取り組みを進めてきたが、これに伴い懸念されるのがコンストラクターとしての独自性だ。

共有部分が増える事はそれだけ、各チーム間の線引が曖昧になる事を意味する。風洞の共有も例に漏れず、何らかの技術ノウハウが受け渡される恐れが増大する。特に今季はフェラーリからハースへの人事異動が少し行き過ぎた水準に達しているのではとの指摘も出ており、パドックではこの手の話題が注目を集めている。

AチームやBチームを持たない孤高のチームは特にこの問題に敏感だ。マクラーレンのアンドレアス・ザイドル代表は「コアパフォーマンスに関連するいかなるIPも譲渡されるべきではないということは明らかだ」と強調し、アルファタウリとレッドブルを含めた風洞共有に批判的な見解を示した。

「F1で共有が許されるのは、パワーユニットとギアボックスの内部構造に限られる。それは間違いない。如何なるインフラであれ、それを許可する事は認められない。何故ならば、それを許したとたんにマシン側でIPの移転が起こってしまうからだ」

サイドルは更に「FIAが取り締まる事は難しい。つまり、取り締まりが不可能なものは禁止する必要がある」とした上で、恩恵を受けるのは共有される側のBチームだけでなくAチームにも及ぶ可能性を指摘した。

「その理由は2つある。一つには我々のような(他と提携していない)チームに対してBチームが過剰な競争力を持つようになる事、そしてAチームもその恩恵を受けるという事だ。これが我々にとっての懸念事項なのだ」

FIAプレスカンファレンスに出席したマクラーレンのアンドレアス・ザイドル代表、2022年4月9日F1オーストラリアGPCourtesy Of McLaren

FIAプレスカンファレンスに出席したマクラーレンのアンドレアス・ザイドル代表、2022年4月9日F1オーストラリアGP

ザイドルは2023年に向けてFIAが何らかの是正措置を取る事を期待していると付け加えたが、トストはアルファタウリが潔白だと主張する。

「我々はルールを100%尊重している。レッドブル・テクノロジーと風洞を共有しているが、技術的な情報交換は全くない。何もないのだ」

「我々が風洞を使うのは土曜、日曜、月曜のみ3日間だ。他の日はレッドブル・レーシングが使用している。それだけの話だ」

「我々はルールを守っている。もし疑うのであればFIAに報告してもらって構わない。我々としては何も問題はないし、あらゆる面において違反していない事を証明できる」