メルセデスの開発拠点ブラックリー
Courtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.

2022年F1ルール解説:一部パーツはコピーし放題、4種に分類されたF1マシンのコンポーネント

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「パクリ放題」という表現はニュアンスが異るが、2022年シーズンのFIA-F1世界選手権では、ライバルチームが使用する特定のパーツをそっくりそのまま合法的に流用する手段が用意される。一部のパーツはコピーし放題、と言うわけだ。

技術レギュレーションが一新される今季は、パワーユニットを除くF1マシンを構成する全てのコンポーネントが4種類に分類され、製造・管理に関して規制される事になる。

従来はチームの独自製造を定めた「リスティド・パーツ」と「非リスティド・パーツ」の2種類のみであったが、F1は”コンストラクターとしての独自性”を守りつつもコスト削減を目指しており、今季はこの区分が以下の4種類へと増やされる。

  • リスティド・チーム・コンポーネント(LTC)
  • スタンダード・サプライ・コンポーネント(SSC)
  • トランスファラブル・コンポーネント(TRC)
  • オープンソース・コンポーネント(OSC)

以下、執筆現時点での最新版となる2021年12月発行の第8版テクニカル・レギュレーションに基づき各々の分類について説明し、それに含まれるパーツをみていく。

リスティド・チーム・コンポーネント

リスティド・チーム・コンポーネント(listed team components、LTC)とは各チームが自ら設計・製造しなければならないパーツの事を指す。従来の「リスティド・パーツ」がこれに該当する。規約では「そのデザインや製造および知的財産は、単一の競技者によって独占的に所有・管理されなければならない」とされる。

ただし「他者が持つ知的財産や技術を一切使ってはならない」というわけではない。ライバルチームがこれを利用できないようにしさえすれば認められる。つまり、その技術を持つ第三者と独占契約を結べば良いわけだ。

LTCに分類されるパーツは自らが製造したマシンのみに搭載が許される。つまり如何なる方法であれ姉妹チームに供給したり、提携チームに提供する事は許されない。これには製造を委託した第三者からの横流し等を含む。

誰もが入手可能な公開情報を用いて自らのマシンに反映させる事は許されるが、「リバース・エンジニアリング」を通してLTCを設計する事は禁止される。これはいわゆる”ピンク・メルセデス問題”の再現を防ぐための取り決めだ。

左:メルセデスの2019年型マシン「W10」、最終アブダビGPにて / 右:レーシングポイントの2020年型マシン「RP20」、バルセロナテストにてCourtesy Of

左:メルセデスの2019年型マシン「W10」、最終アブダビGPにて / 右:レーシングポイントの2020年型マシン「RP20」、バルセロナテストにて

ここで言う「リバース・エンジニアリング」とは、写真や画像、3Dカメラや3D立体視技術を使用したライバルチームのコンポーネント解析一般を指す。他チームのLTCと酷似していた場合、FIAがその違法性を判断する事になる。

以下がLTCに分類されるコンポーネントだ。一見、少ないように見えるが、外観の印象の多くを決定づけるエアロパーツが含まれているため、少なくともプレシーズンテストを含むシーズン序盤に非常に似通ったクルマが複数、グリッドにつくといった事態を心配する必要はないだろう。

  • サバイバルセル
  • プライマリーロール構造
  • フロント・インパクト構造
  • 空力パーツ
  • プランク・アッセンブリー
  • ホイールドラムとドラムデフレクター
  • 燃料ブラダー
  • オイル及びクーラントシステム内の一次熱交換器
  • SECU チーム・アプリケーション

スタンダード・サプライ・コンポーネント

スタンダード・サプライ・コンポーネント(standard supply components、SSC)とはその名の通り、全チームに対して供給される同一仕様のパーツを指す。これはFIAが指定した供給者によって設計および製造が行われる。

SSCとして供給されたコンポーネントは変更が許されず、指定した通りに設置、操作しなければならない。また、使用しない事も許されない。

SCCの例として最も分かりやすいのはタイヤだ。F1は昨年末を以て、半世紀以上に渡ってF1の足元を支えた13インチと別れを告げた。ピレリは今季より18インチの大口径タイヤを供給する。また、ホイールはBBSジャパンが独占供給する。契約は2025年までの4年間だ。

「NEXT YEAR I TURN 18」の特別なメッセージがサイドウォールに描かれたピレリ製最後の13インチF1タイヤと2022年導入の18インチタイヤ、2021年12月9日F1アブダビGPヤス・マリーナ・サーキットにてCourtesy Of Pirelli & C. S.p.A.

13インチF1タイヤと18インチタイヤ、2021年12月9日F1アブダビGPヤス・マリーナ・サーキットにて

標準ECUは2008年から変わらずマクラーレン・アプライド・テクノロジーズ製で、燃料流用計も引き続きセントロニクス社が供給する。

  • ホイール・カバー
  • クラッチシャフト・トルクセンサー
  • ホイールリム
  • タイヤ空気圧センサー(TPMS)
  • タイヤ
  • ES IVTセンサー(PU)
  • 燃料流量計(PU)
  • 圧力・温度センサー(PU)
  • 高圧燃料ポンプ
  • 車両からチームへのテレメトリー
  • ドライバー無線
  • アクシデント・データ・レコーダー(ADR)
  • ハイスピード・カメラ
  • 外耳内加速度計
  • バイオメトリック・グローブ
  • マーシャリング・システム
  • タイミング・トランスポンダー
  • テレビカメラ
  • ホイール表示パネル
  • 標準ECU(SECU)
  • SECU FIAアプリケーション
  • リアライト

トランスファラブル・コンポーネント

トランスファラブル・コンポーネント(transferrable components、TRC)とは譲渡可能なパーツの事で、姉妹チームやカスタマーチームなどの他の競技者に供給する事が許される。従来で言うところの「非リスティド・パーツ」だ。

ただし供給が許されるのは、供給側が当該年もしくはその前年に使用したものに限られる。つまり2年以上前のチャンピオンシップで使用したパーツを供給する事はできない。

また同一スペックでなければならない。例えばレッドブルがアルファタウリ用に特注のTRCを設計・製造するような事は認められない。ただし供給される側は、TRCのサブコンポーネントを交換したり変更する事ができる。

バーレーン・インターナショナル・サーキットのガレージでAT02の整備に取り組むアルファタウリ・ホンダのメカニック達、2021年3月26日F1バーレーンGPにてCourtesy Of Red Bull Content Pool

バーレーン・インターナショナル・サーキットのガレージでAT02の整備に取り組むアルファタウリ・ホンダのメカニック達、2021年3月26日F1バーレーンGPにて

  • リア・インパクト構造
  • ギアボックス・キャリア
  • ギアボックス・カセット
  • クラッチ
  • クラッチ・アクチュエーション・システム
  • クラッチ・シャフト
  • ギアボックス内部及びオイルシステムやリバースギアなどの補助部品
  • インボード・フロント・サスペンション
  • フロント・サスペンション・メンバー
  • フロント・アップライト・アッセンブリー
  • フロント・アクスル(ホイールスペーサーとの接触面の内側)及びベアリング
  • インボード・リア・サスペンション
  • リア・サスペンション・メンバー
  • リア・アップライト・アッセンブリー(アクスル、ベアリング、ナット、リテンションシステムを除く)
  • リア・アクスル(ホイールスペーサーとの接触面の内側)及びベアリング
  • パワステ
  • OSC、SSC、LTCに該当しないその他燃料系パーツ
  • 油圧ポンプ及びアキュムレータ
  • 油圧マニホールド、センサー&コントロールバルブ
  • 油圧ポンプ、油圧マニホールド、ギアボックスまたはエンジン・アクチュエーター間の配管
  • オイル及びクーラントシステム内の二次熱交換器
  • ギアボックス及びサバイバルセルへのPU取り付け部
  • タービン及びウェイストゲート出口を除くエキゾースト・システム
  • 電気系統のハーネス全般

TRCの内容に最も影響を受けるのは、フェラーリと密接なテクニカル・パートナーシップを締結するハースだ。米国カナポリスのチームはTRCを最大限に利用する事で空力開発にリソースを割く方針を貫いてきた。

アルファタウリもシニアチームのレッドブルからTRCの供給を受ける。AT03にはRB18が採用するものと同じ油圧系統を含むギアボックス並びにリアサスペンションが搭載される見通しで、ウィリアムズも同様にメルセデスからギアボックス周りを購入する。

オープンソース・コンポーネント

新たに設けられたオープンソース・コンポーネント(open source components、OSC)とは、ソースがオープン、すなわち設計仕様書が公開された誰もが利用可能なパーツ群の事。コピーし放題。ソフトウェア業界で広く親しまれている手法を取り入れた。

コスト削減を目指すSSCの問題点は、供給されたものをそのまま使用しなければならず、改変できない点にある。これを補うのがOSCと言える。各チームはFIAの指定サーバーに公開された設計情報を無償で取得し、独自に再設計・製造する事ができる。

ただしテストや公式セッションで実際に使用する前に予め、変更後の設計仕様書をサーバーに上げる必要がある。そしてそれは他のチームに公開され、誰もが自由に使用する事ができる。ロイヤリティフリーだ。

  • フロントフロア構造
  • ペダル
  • DRSアクチュエータ
  • ドライブシャフト
  • フロント・アクスル(ホイールスペーサーとの接触面より外側)及びナット&リテンションシステム
  • リア・アクスル(ホイールスペーサーとの接触面の外側)及びナット&リテンションシステム
  • ステアリング・コラム
  • ステアリングホイール及びクイックリリース
  • ブレーキディスク、ディスクベル、パッド・アッセンブリー
  • ブレーキ・キャリパー
  • リアブレーキ・コントロールシステム(BBW)
  • ブレーキ・マスターシリンダー
  • 燃料コレクター
  • プライマーポンプ及びフレキシブルパイプ・ホース
  • 燃料系油圧レイアウト
  • 消火器
  • ウォータードリンクシステム

メルセデスF1チームのステアリングホイール、2018年F1アゼルバイジャンGPにてCourtesy Of Daimler AG

メルセデスF1チームのステアリングホイール、2018年F1アゼルバイジャンGPにて

OSCに関しては興味深い事に、技術規約を読む限りは必ずしも”参加”しなくて良いように思われる。つまり、ライバルチームのOSC情報が得られない代わりに、自らのOSC該当パーツの情報を公開しないという選択が許されると言う事だ。

ルールには「FIAの指定サーバーに適用される各種条件に同意し、FIAオープンソース・コンポーネント・ライセンスを承諾した希望チームに対して、サーバーへのアクセスを許可する」と言った旨の記述がある。