F1のスポーティング・ディレクターを務めるロス・ブラウンは「誰もクラッシュやペナルティでチャンピオンが決まることを望んでいない」として、F1イギリスGPでの衝突事故についてマックス・フェルスタッペンとルイス・ハミルトンに反省を促した。

フェルスタッペンはシルバーストンでのオープニングラップのコプス（ターン9）で、イン側にいたハミルトンと接触してバリアに激突。ハミルトンは事故の責任として10秒ペナルティを科されたものの、残り2周でシャルル・ルクレールを交わして地元観衆を前に英国8度目の勝利を飾った。一方のフェルスタッペンは予防措置として地元病院に搬送された。

今シーズンのタイトルを争う2人が直接衝突した事で、前半戦のフィナーレ、ハンガリーGPを前にフェルスタッペンのチャンピオンシップでのリードは僅か8ポイントに激減した。

ロス・ブラウンは恒例のレース後コラムの中で3日間を振り返り、史上初のスプリント予選の導入もあり、また「劇的なスタートと劇的なフィニッシュの2つのゲームが展開された」として「素晴らしい週末になった」と述べる一方、1周目の事故について遺憾の思いと懸念を示した。

「タイトル争いの主役たちが再びホイール・トゥ・ホイールのバトルを繰り広げたが今回は衝突してしまい、マックスのレースが終わってしまった。彼がクルマから降り歩き出したのを見て私は心底安堵した」

ロス・ブラウンは「この類の問題の常だが、権利と過失という点で様々な意見があると思う」としながらも、事故によって「スリリングなバトルが奪われた」事は明らかで、「誰もクラッシュやペナルティでチャンピオンが決まることを望んでいない」点に注意が必要だと述べた。

「どちらかのドライバーに重大なリスクがあった事は事実で、これは両ドライバーが反省するところだろう」

「今後はこのような事が起こらない事を望む。2人は半周に渡って激しく競り合った。本当にスリル満点だった。それがレース全体に渡って繰り広げられていたら、どれだけドラマティックなグランプリになったかを想像してみて欲しい」

ロス・ブラウンの脳裏に1994年と1997年の最終戦があるのは間違いない。

チャンピオンシップ1点差で迎えた27年前のアデレード市街地コースでのF1最終戦では、ミハエル・シューマッハがデイモン・ヒルと接触した事で両者相打ちとなり、シューマッハの初のドライバーズタイトルが確定した。

同じく1点差という状況での24年前のヘレスでの最終戦では逆に、ジャック・ビルヌーブと接触したシューマッハのみがリタイヤ。ビルヌーブがタイトルを手にした。ロス・ブラウンはいずれの時もシューマッハと共に仕事をしていた。

ハミルトンは事故を振り返り、今後に向けて「適切なバランスを取ることを学ばなきゃならない」と認め、次戦ハンガリーGPまでの間にフェルスタッペンと話し合う用意があるとしているが「何か問題があるわけではない」として、何を話すかは「分からない」と語っている。

レッドブル・ホンダRB16BのパフォーマンスがメルセデスW12を僅かながらも凌駕し、タイトル争いでの逆転を経てシーズンの約半分を消化しつつある今、ハミルトンがアプローチを変えたのは明らかだ。

今回のレースでは残念ながら「平穏なのは今だけ？ 接触リスク巡るフェルスタッペンとハミルトンのスリリングな駆け引き」での予感が現実となった。ハミルトンは今回始めて「俺は今後一切譲らない」との強いメッセージをドライビングで示した。

スプリント予選と決勝レースでのハミルトンの動きは、デイモン・ヒルが指摘する通り、これまでにない「アグレッシブ」なものだった。それはRB16Bの方が速く、1周目を逃せば逆転のチャンスがないとハミルトンが考えていたためだった。

実際、ラスト2周でのルクレールに対するハミルトンのオーバーテイクの動きは、同じコプスでの仕掛けであったにも関わらず、フェルスタッペンに見せたものとは大きく異なっていた。

ハミルトンは今年のフェルスタッペンを「凄くアグレッシブ」と称して「多くの場合、僕は彼との接触を避けるために譲歩してきた」とした上で前日のスプリント予選に触れ「一旦リードを許してしまうと相手はあまりにも速すぎるから、チャンスがあればそれを逃さないようにする必要がある」と語った。

果たしてロス・ブラウンの願いは2人に届くだろうか？

互いのマシンは同程度の競争力を持っており、勝利のチャンスを得るためにはスタートからレースをリードする必要がある。コンディションが安定している限り、戦略を除いて1周目以外で交わす事はほとんど不可能だ。リスクを誘う条件は揃っている。

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