グランドスタンドのファンの声援に応えるメルセデスのルイス・ハミルトン、2021年7月18日F1イギリスGP決勝レースにて
Courtesy Of Daimler AG

バトンら外部識者はF1イギリスGPのクラッシュをどう評価? 物議醸すフェルスタッペン対ハミルトン事故

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史上初のスプリント予選が導入されたF1イギリスGPの決勝レースは、タイトルを争う者同士の物議を醸すクラッシュに始まり、チェッカーフラッグは振られたものの依然として幕が降りる気配がない。

これがチャンピオンシップに絡むものではなく、低速域での事故であればその余波もだいぶ変わったものになっただろうが、事故の当事者は14万人もの熱狂的ファンが集まる母国で何としても巻き返さんとするルイス・ハミルトンと、悲願の年間王座を狙う野心的な若きマックス・フェルスタッペンであり、劇的な衝突は時速270km近くに達する高速のコプス(ターン9)で発生した。

当然のことながら直接の当事者達は互いに相手方を非難する。そして事故現場に居合わせたドライバー達の見解は先に紹介した通りだ。では外部の識者はこのインシデントをどう評価したのだろうか?

お互い相手に”期待していた”、とチャンドック

Sky Sportsで解説を務める元F1ドライバーのカルン・チャンドックは、フェルスタッペンが51Gの衝撃を受けた例の事故を次のように分析した。

「マックスがスペースを与えた事でハミルトンはイン側に入ったが、どの時点であれ彼はマックス・フェルスタッペンの前には出ていない」

「マックスが(コーナーに)入り、そしてルイスはエイペックスを外したように見える。接触した際、彼のラインはエイペックスから大きく外れていた」

「マックスはルイスに余裕を持たせていたが、同時にルイスが手を引く事も期待していたと思う。そこが決定的な部分だ」

「ルイスはマックスが引くことを期待し、他方マックスはルイスが手を引くことを期待したのだと思う」

「僕に言わせれば両者ともに事故を避けるためにもっと何かできたはずだが、個人的にはレーシングアクシデントだと考えている」

ジェンソン・バトンは判断保留も…

同じくSky Sportsの解説者で、かつてマクラーレン時代にハミルトンをチームメイトとしていたジェンソン・バトンは判断を保留としたが、発言内容からはハミルトンにやや非があったと考えている事が伺える。

「マックスは十分にスペースを残していたが、あの速度では(ハミルトンが)イン側からコーナーを回るのは難しい。彼(ハミルトン)は手を引くべきだった。あの速度であのアングルからのアプローチだった事を踏まえれば、エイペックスを外すのも頷ける」

「誰が悪かったのか、はっきりとした答えを出すのが難しい問題だ。他のドライバーを壁にぶつけたためにペナルティが科されたが、これは判断が本当に難しい」

ホーナーに反論するデイモン・ヒル

チャンドックとバトンの仕事仲間であるデイモン・ヒルは事故直後、今回のハミルトンの動きは「暫くなかったレベルにアグレッシブだった」とした上で「悲しいかな、彼はイン側をキープしてマックスが退くことを期待していたが、そうはならなかった」と指摘した。

「レースアクシデントという側面があるとは思うが、ルイスに対してペナルティが出ないとは思えない。彼はコプスで引くことができた。あれは非常に野心的な動きで、結果は非常に深刻なものだった」

結果、エマニュエル・ピロら5名から成る審判団は、エイペックスを外してイン側にスペースを確保していた44号車W12の方が「過失が大きい」として、ハミルトンに10秒ペナルティーと2点のペナルティポイントを科す裁定を下した。

なおヒルはレース後、ハミルトンの勝利が「空虚なもの」であったとするホーナーのコメントに反論し「彼は今日、素晴らしい勝利を収めた。私はあれが空虚な勝利であったというホーナーの意見には同意しない」と述べた。

頭を抱えるジョリオン・パーマー

すっかり解説者として板についた感のある元ルノーF1ドライバーのジョリオン・パーマーも頭を抱えている。

「ルイスはマックスの横に完全に並んでいたが、僅かにエイペックスを外したのは明らかで、その結果マックスの方に向かっていった。だがマックスもターンインを続けており、コプスにおいて余りに大きいリスクを負っていた」

「判断するのは本当に難しい。レーシングアクシデントと見なす事もできる。ふたりとも激しく競い合っていたからね」

人が人である以上、バイアスは避けられないとの前提に立つべきという点で、チャンドックを除く全員がイギリス人であるという点には留意が必要だろう。とは言え、インド人元F1ドライバーは英国モータースポーツ統括団体「モータースポーツUK」の史上最年少役員に就任するなど生活の基盤は英国にあり、殆どイギリス人のようなものではあるが。

事故の影響は1戦に留まらない

豊富なレース経験を持つ識者達が指摘する通り、事故の責任がいずれにあるかは難しい問題だが、フェルスタッペンが忘れてはならない点がある。

それは、あそこで一歩引いていれば次戦ハンガリーに向かうに際してのチャンピオンシップを巡る展開が大きく異なっていたという点だ。

生き残ったハミルトンが勝利を飾った事でフェルスタッペンのリードは33点から一気に8点にまで縮まった。仮に全面的に優先権があったとしても、一歩引いてさえいれば少なくとも26点、場合によっては40点ものリードを以てイギリスを後にしていた可能性がある事は指摘されるべきだろう。

事故による金銭的後遺症も深刻だ。チームがコストキャップに頭を悩ませる中、シャシーは無残な姿へと変貌した。その損害額は少なく見積もっても1億はくだらない。予定されているアップグレード計画への影響が懸念される。

更にパワーユニットが再利用不可ともなればすぐにではないにしろ、シーズン終盤のクリティカルな場面で致命的なグリッド降格が科せられる可能性は非常に大きい。エキゾーストを除き、フェルスタッペンの各PUコンポーネントの猶予はあと1基だ。

ただフェルスタッペンが安牌を切って控えめに1周目を終えていれば、あのような白熱したバトルを見ることはできなかっただろう。更にチャンピオンシップの激化という点で言えば、今回の一件が残りのシーズンをよりエキサイティングなものにした事は疑いない。フェルスタッペンが無事であったからこそ言える事ではあるが。

評価というものは何を評価の対象とするかによって変わってくる。

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