2021年インディ500 決勝結果:46歳カストロネベスが歴史的4勝、佐藤琢磨は”不服”の黄旗戦略で「優勝争い」逃す
2021年第105回インディ500決勝がNTTインディカー・シリーズ第6戦として米国現地5月30日(日)にインディアナポリス・モーター・スピードウェイ(IMS)で行われ、エリオ・カストロネベス(メイヤー・シャンク・レーシング)がキャリア通算4度目の制覇を成し遂げた。
2001-02年と09年のインディ500ウィナーはスポット参戦となった本大会で60号車ダラーラ・ホンダを駆り、200周のレースの最終盤にアレックス・パロウ(チップ・ガナッシ)との壮絶なバトルを繰り広げた。
”500”の勝ち方を知る46歳のブラジル人ドライバーは、残り2周のターン1でアウト側から24歳のスペイン人を交わしてトップに。ファイナルラップで周回遅れに追い付くと、ダーティーエアーを味方に付けてパロウのオーバーテイクチャンスを封じ、0.4928秒差でトップチェッカーを受けた。
インディ500での通算4勝は、A.J.フォイト、アル・アンサー、リック・メアーズに続く史上4人目の快挙で、会場に詰めかけた13万5千人の観客は歴史的優勝に大喝采を浴びせた。カストロネベスは恒例のフェンス登りをした後、フロントストレッチを駆け足で回ってその声援に応えた。メイヤー・シャンクにとっては初のインディ500勝利となった。
また46歳20日でのインディ500勝利は、1987年のアル・アンサー(当時47歳)、1981年のボビー・アンサー(47歳)、1993年のエマーソン・フィッティパルディ(46歳)に次ぐ史上4番目の年長記録となった。
トップ5は、3位に26番グリッドからの大躍進を果たしたシモン・パジェノー(チーム・ペンスキー)、4位にパトリシオ・オワード(マクラーレンSP)、そして5位に1回目のピットストップでエンジンストールに見舞われながらも驚異的な追い上げを見せたエド・カーペンター(エド・カーペンター・レーシング)という結果となった。
なおインディ500ルーキー・オブ・ザ・イヤーは、20位完走を果たしたスコット・マクラフリン(チーム・ペンスキー)が獲得した。
連覇狙った佐藤琢磨、不満の戦略で14位
恒例のドライバー紹介で一際大きい歓声を浴びた佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)は、2001-02年のカストロネベス以来の連覇、通算3勝目を目指して15番グリッドからスタートした。
燃費走行を中心とした戦略をベースに、混乱を味方につけながら徐々にポジションを挙げていくと、151周目に暫定首位のオワードがピットに入った事で本大会初のラップリーダーに躍り出た。
クリーンエアーを追い風に好ペースを刻み続けた佐藤琢磨は、上位勢としては誰よりも燃費を稼ぎ、残り43周でピットイン。事実上の5番手でコースに復帰するも、順当な1ストップではなく黄旗狙いのノーストップ戦略に打って出た事で再び燃費走行へとチェンジ。一気に20番手近くにまで後退した。
他車が最後のピットストップに動いた事で残り7周でトップに立つも、頼みの綱のイエローは出ず、燃料が持たなかった事から再度のピットストップを強いられ最終14位でフィニッシュした。
レースを終えた佐藤琢磨は開口一番「やりたくはなかった」と語った。本人はオーソドックスな1ストップ戦略での最終真っ向勝負を望んでいたものの、チーム側の意向で不本意な”奇をてらうストラテジー”を採用した事を明かした。
結果として優勝に届いたかどうかは分からないとしながらも、温存していた新品タイヤを使っての最後にもう一度ピットストップに動けば「優勝争いの一角には食い込めたのではないか」と語る佐藤琢磨は、14位という結果、そして最後にガチンコ勝負に挑めなかった事を「とても悔しい」と表現し、「完全に負けた」と失望をあらわにした。
その一方で、アンドレッティ・オートスポーツ所属時代の2017年に熾烈な優勝争いを繰り広げた戦友カストロネベスの優勝については「心から祝福したい」と笑顔を見せた。
ポールポジションからスタートしたスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ)は序盤のイエローコーション下で燃料切れの不運に見舞われ、緊急ピットインを行なうもエンジンが再点火しないトラブルに襲われた。
開始早々に1ラップダウンと戦線離脱を強いられたが、巧みな戦略と狙い定めた好走で17位フィニッシュした。
この結果、ディクソンが保持していたポイントリーダーの座は2位フィニッシュのパロウに渡った。
レース概要
雲一つない快晴の中、1.5マイルのオーバルコースを200周、距離にして500マイル(約800km)で争う伝統の一戦は、路面温度34℃というドライコンディションでグリーンフラッグを迎えた。
32番グリッドのウィル・パワー(チーム・ペンスキー)はスタート前にトラブルを抱えるアクシデントがあったが、幸いにも遅れてパレードラップに参加する事となり、残りの32台と同時にスタートしたが、戦いに加わる事はなく完走最下位となる30位でクルマを降りた。
オープニングラップではコルトン・ハータ(アンドレッティ)がディクソンをオーバーテイク。すると3周目にリーナス・ヴィーケイ(エド・カーペンター)がハータを抜き去りトップに浮上。早々に激しいトップ争いが繰り広げられた。佐藤琢磨は2ポジションアップの13番手に浮上した。
燃費的に厳しいラップリーダーのヴィーケイはいち早く32周目にピットイン。バイブレーションを抱えたライアン・ハンター=レイ(アンドレッティ)も同じ周にピットに向かった。悲願の初優勝を目指すカーペンターは、ピットアウトの際にエンジンストールに見舞われ大きくポジションを落とした。
34周目にハータがピットインすると、その直後にステファン・ウィルソン(アンドレッティ)がピットレーンで単独クラッシュを喫し、1回目のイエローコーションが出された。ウィルソンはリタイア第一号となった。
このアクシデントが2台のホンダを悪夢に陥れた。
黄旗によってピットクローズとなる中、ディクソンとアレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ)が燃料切れとなり、特例を使ってピットで2秒のスプラッシュ補給を行ったものの、タンクが空になったことでエンジンが再点火せず大きくタイムロス。1周遅れと戦線離脱を強いられた。なお佐藤琢磨はこの混乱を味方につけ、8番手に大きくジャンプアップを果たした。
レースはハータを先頭に、ヴィーケイ、コーナー・デイリー(エド・カーペンター)の並びで47周目にリスタートを迎えた。佐藤琢磨は一気に2台を抜き去り6番手に浮上。パロウを追う立場につけた。
2回目のピットストップの先陣を切ったのは2番手を走行していたヴィーケイ。69周目にピットに入った。トップを牽引するハータとカストロネベスは79周目にピットイン。佐藤琢磨は81周目にピットに入り、実質的にポジションを2つ落とした。
2度目のイエローコーションはレース半分を消化して間もなく訪れた。
佐藤琢磨が118周目にピットストップを行い9番手でコースに復帰した直後、同じくピットに入った僚友グレアム・レイホールがコース復帰の際に左リアホイールの脱落に見舞われ、アウト側のセーファーバリアに激突した。取り付けが甘かったためと見られる。
悪いことに転がるホイールにデイリーが衝突。ノーズを破損した。この黄旗によりディクソンは見事ラップバックを果たした。
隊列はパロウを先頭にカストロネベス、オワードの並びとなり、佐藤琢磨は7番手で126周目にリスタートを迎えた。黄旗の影響で燃費走行の必要性が消滅。各車コース上で激しいバトルを演じ始めた。
151周目、暫定首位のオワードがピットに入ったことで佐藤琢磨が本大会初のラップリーダーに躍り出た。このタイミングでパワーがピットレーンでスピンを喫するアクシデントが発生したがコーションとはならなかった。
クリーンエアーを追い風に好ペースを刻み続けた佐藤琢磨は、上位勢としては誰よりも燃費を稼ぎ、残り43周でピットイン。事実上の5番手でコースに復帰するも、黄旗狙いの残り奇策に出た事で再び燃費走行を強いられ、後続車に次々と抜かれていった。
残り30周を切ると各車続々最後のピットインに動き始めたが、佐藤琢磨とフェリックス・ローゼンクビスト(マクラーレンSP)は奇跡を願いステイアウトした。
残り7周というところでローゼンクビストが堪らずピットイン。これによって佐藤琢磨が再びラップリーダーに躍り出るも、燃料が足らず残り6周でピットに入り2連覇の望みが絶たれた。
最終盤は、真っ向勝負を繰り広げるカストロネベス対パロウの一騎打ちとなった。カストロネベスは残り2周のターン1でトップに浮上。ファイナルラップに入ると周回遅れに追い付き、パロウの追い抜きのチャンスは絶たれた。
リタイヤは3台。唯一の女性ドライバーであるシモーナ・デ・シルベストロ(パレッタ・オートスポーツ)、レイホール、そしてウィルソンがチェッカーを受ける事なくレースを終えた。いずれも接触事故によるものだった。
2021年インディ500決勝順位結果
Pos. | Start | Driver | Gap |
---|---|---|---|
1 | 8 | エリオ・カストロネベス Meyer Shank |
–.—- |
2 | 6 | アレックス・パロウ Chip Ganassi |
0.4928 |
3 | 26 | シモン・パジェノー Team Penske |
0.5626 |
4 | 12 | パトリシオ・オワード McLaren SP |
0.9409 |
5 | 4 | エド・カーペンター Ed Carpenter |
1.2424 |
6 | 23 | サンティノ・フェルッチ RLL Racing |
9.0876 |
7 | 31 | セージ・カラム Dreyer & Reinbold |
13.4359 |
8 | 3 | リーナス・ヴィーケイ Ed Carpenter |
14.2415 |
9 | 24 | ファン・パブロ・モントーヤ McLaren SP |
14.8808 |
10 | 5 | トニー・カナーン Chip Ganassi |
15.4428 |
11 | 9 | マーカス・エリクソン Chip Ganassi |
16.5166 |
12 | 21 | ジョセフ・ニューガーデン Team Penske |
22.3045 |
13 | 19 | コナー・デイリー Ed Carpenter |
22.6921 |
14 | 15 | 佐藤琢磨 RLL Racing |
23.2955 |
15 | 22 | JR.ヒルデブランド A.J. Foyt |
23.5277 |
16 | 2 | コルトン・ハータ Andretti |
28.8029 |
17 | 1 | スコット・ディクソン Chip Ganassi |
38.6410 |
18 | 20 | ジャック・ハーベイ Meyer Shank |
40.1572 |
19 | 25 | マルコ・アンドレッティ Andretti |
40.3591 |
20 | 17 | スコット・マクラフラン Team Penske |
40.8337 |
21 | 16 | ジェームズ・ヒンチクリフ Andretti |
40.8464 |
22 | 7 | ライアン・ハンター=レイ Andretti |
41.5762 |
23 | 30 | ダルトン・ケレット A.J. Foyt |
1 lap |
24 | 29 | マックス・チルトン Carlin |
1 lap |
25 | 13 | ピエトロ・フィッティパルディ Dale Coyne |
1 lap |
26 | 27 | セバスチャン・ブルデー A.J. Foyt |
1 lap |
27 | 14 | フェリックス・ローゼンクビスト McLaren SP |
1 lap |
28 | 11 | エド・ジョーンズ Dale Coyne |
1 lap |
29 | 10 | アレキサンダー・ロッシ Andretti |
2 lap |
30 | 32 | ウィル・パワー Team Penske |
3 lap |
31 | 33 | シモーナ・デ・シルベストロ Paretta Autosport |
31 lap |
32 | 18 | グレアム・レイホール RLL Racing |
82 lap |
33 | 28 | ステファン・ウィルソン Andretti |
168 lap |
第6戦インディ500終了時点でのポイントランキング
インディ500出走組を対象とする。
Pos. | Driver | Pts. | Total | Gap |
---|---|---|---|---|
1 | アレックス・パロウ Chip Ganassi |
85 | 248 | 0 |
2 | スコット・ディクソン Chip Ganassi |
36 | 212 | -36 |
3 | パトリシオ・オワード McLaren SP |
65 | 211 | -37 |
4 | シモン・パジェノー Team Penske |
71 | 201 | -47 |
5 | リーナス・ヴィーケイ Ed Carpenter |
56 | 191 | -57 |
6 | ジョセフ・ニューガーデン Team Penske |
36 | 184 | -64 |
7 | コルトン・ハータ Andretti |
37 | 154 | -94 |
8 | グレアム・レイホール RLL Racing |
11 | 148 | -100 |
9 | スコット・マクラフラン Team Penske |
20 | 143 | -105 |
10 | マーカス・エリクソン Chip Ganassi |
39 | 138 | -110 |
11 | 佐藤琢磨 RLL Racing |
33 | 131 | -117 |
12 | ウィル・パワー Team Penske |
10 | 128 | -120 |
13 | ジャック・ハーベイ Meyer Shank |
24 | 121 | -127 |
14 | エリオ・カストロネベス Meyer Shank |
103 | 103 | -145 |
15 | アレキサンダー・ロッシ Andretti |
10 | 101 | -147 |
16 | エド・カーペンター Ed Carpenter |
66 | 99 | -149 |
17 | ライアン・ハンター=レイ Andretti |
19 | 94 | -154 |
18 | セバスチャン・ブルデー A.J. Foyt |
10 | 89 | -159 |
19 | コナー・デイリー Ed Carpenter |
37 | 85 | -163 |
20 | フェリックス・ローゼンクビスト McLaren SP |
11 | 82 | -166 |
22 | トニー・カナーン Chip Ganassi |
45 | 79 | -169 |
23 | エド・ジョーンズ Dale Coyne |
10 | 77 | -171 |
24 | ジェームズ・ヒンチクリフ Andretti |
18 | 74 | -174 |
25 | ダルトン・ケレット A.J. Foyt |
14 | 62 | -186 |
26 | サンティノ・フェルッチ RLL Racing |
57 | 57 | -191 |
27 | セージ・カラム Dreyer & Reinbold |
53 | 53 | -195 |
28 | ファン・パブロ・モントーヤ McLaren SP |
44 | 53 | -195 |
29 | ピエトロ・フィッティパルディ Dale Coyne |
10 | 34 | -214 |
30 | JR.ヒルデブランド A.J. Foyt |
30 | 30 | -218 |
31 | マックス・チルトン Carlin |
12 | 28 | -220 |
33 | マルコ・アンドレッティ Andretti |
22 | 22 | -226 |
34 | シモーナ・デ・シルベストロ Paretta Autosport |
10 | 10 | -238 |