エンジンと車体にアップグレードが投入されたレッドブル・ホンダRB15、ポール・リカール・サーキットにて
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ホンダのスペック3エンジンは決勝パフォーマンスが向上、無敵誇った盟友IHIとの渾身のターボ

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ホンダF1はライバルチームに先駆けて、第8戦で早くも今季3代目となる最新型パワーユニット「RA619H スペック3」を投入する。 第4戦アゼルバイジャンGPで投入されたスペック2は主に信頼性の改善に重きを置いたものであったが、今回のアップグレードは些細ながらもパフォーマンス向上を目的としている。

マクラーレン時代とは異なり、昨年以降のホンダエンジンは高い品質を誇っており、年を経る毎に致命的なトラブルが減少してきている。レッドブルとの提携一年目の今年も目立った故障はない。

2018年仕様のホンダ製F1パワーユニットRA618H
2018年仕様のホンダ製F1パワーユニットRA618H

F1レギュレーションはパワーユニットの各構成部品に対して、それぞれ年間に使用しても良い上限数を設定しており、これを上回った場合はグリッド降格ペナルティが科せられる。パワーユニットの主要エレメントである内燃エンジン=ICEは、4基目以上の投入で罰則の対象となる。闇雲なエンジン交換はチャンピオンシップ争いで大きな痛手となるわけだ。

2019シーズンはトータル21戦で構成されており、単純計算で均等割すると7戦に1度のペースで新しいエンジンに交換するのが理想だ。品質に問題がない状態で8戦で3基目というのはある意味異常と言えるが、裏を返せばレッドブル・ホンダがそれだけのメリットが得られると考えているという証でもあり、勝利を渇望している事の現れでもある。

ホンダの19年型スペック3の大きな変更点は、航空機用ジェットエンジン開発のノウハウを投じた新型のターボチャージャーと内燃エンジンだ。ホンダは傘下に小型ビジネス用ジェット機開発企業を抱えており、2017年から同社の技術をF1エンジン開発に活かしてきたとみられるが、これを公にしたのは今回が初めてだ。

新型ターボには、そのジェットエンジン開発の技術とノウハウが投じられていると言う。ターボ開発には、ホンダがF1で無敵の強さを誇った1980年代の盟友IHI(旧石川島播磨重工業株式会社)が関与している。

両者はホンダがF1に復帰した2015年当初からタッグを組んでいたが、昨年11月にテクニカルパートナーシップ契約を締結して技術協力体制を強化。当時ホンダのモータースポーツ部長を務めていた山本雅史氏は、内部ブランディングが提携の理由だとしていたが、最大の理由は社外秘のノウハウをIHIに提供する点にあったのだろう。

提携発表から7ヶ月というタイミング、そして、普段は決定的な内容を口にしない田辺TDがIHIとジェットエンジン部門のシナジーを強調するあたり、このように考えた方が合点がいく。スペック3のターボは、マル秘技術をIHIに提供した事によって生まれた第一弾の成果と言えそうだ。今後に向けての重要なマイルストーンとなるやもしれない。

予選ではなく決勝でのパフォーマンスが向上

ホンダF1の現場統括責任者を務める田辺豊治テクニカル・ディレクターは、今回のスペック3が「信頼性ではなく性能向上」に焦点を当てたものだと認める一方で、劇的なパフォーマンス向上をもたらすものではなく、フェラーリやメルセデスとのギャップが大きく減ることはないとしている。

「テストベンチでのデータでは、前のバージョンよりもパワーが増加していることを確認できていますが、それと同時に、現在チャンピオンシップをリードしているマニュファクチャラーの数値にはまだ手が届いていない事も承知しています」(田辺TD)

2019年F1フランスGP公式記者会見に出席したレッドブル・ホンダのピエール・ガスリー
フランスGPの木曜記者会見に出席したピエール・ガスリー

では、今回のスペック3はスペック2と大差ないものなのだろうか? ピエール・ガスリーは田辺TDの意見に同意しつつ、決勝レースでは幾らか効果が期待できるはずだと考えている。

「スペック2エンジンは、より信頼性の改善に焦点を当てたものだったけど、今回のスペック3はパフォーマンスに重点を置いている」とピエール・ガスリー。フランスGPの木曜記者会見で見解を述べた。

「でも、さほど大きなメリットは期待できない。全体的なパフォーマンスはわずかに向上すると思うけど、飛躍的に変化する事はないだろうし、先行するチームに大きく近づくわけでもない。でも、予選での違いは大きくないと思うけど、決勝では多少違いがあるはずだ」

アルボンにスペック3を導入しなかった理由

今回スペック3が投入されるのはトロロッソのアレックス・アルボンを除く全3台。なぜ4台全てに新型を搭載しなかったのだろうか?アルボンによると、2台両方のマシンに罰則が科されることをチームが嫌がったためだという。

STR14をドライブする二人のドライバーは、すでに3基目の内燃エンジンを使用しており、クビアトは今回のエンジン交換によってフランスGPの決勝でグリッド降格ペナルティを受ける。もし仮にアルボンが新しいエンジンの封を切ることになると、クビアトと同じく4基目の使用となるため、レギュレーションで許可された年間上限数を上回ることになる。

メディアセッションで質問に答えるトロロッソ・ホンダのアレックス・アルボン、F1フランスGPにて
メディアセッションで質問に答えるトロロッソ・ホンダのアレックス・アルボン

アルボンは、新型エンジンがどれだけのゲインをもたらすかとの質問に対して 「明日実際にコース上で比較してみない事には何とも言えないよ。でも、僕は自分のガレージのことだけに集中しているから、よく分からないけどね」と答えて次のように続けた。

「僕のガレージ側では、エンジンの状態がかなり良いと見ている。ダニールの方は僕のエンジンよりも若干限界に近かったから、チームは僕よりも彼のエンジンの方を早めに変えることを決断したんだ」

「チームとしては、2台の車に同時にペナルティが科されるのは望んじゃいないから、エンジン交換のタイミングを分けることにしたんだ。今後僕がいつ交換するかについては分からない」

アルボンは第3戦中国GPでクラッシュを喫しており、他の3台に比べてマイレージに幾らか余裕があるため交換の必然性が低い。また、2台のマシンに異なるPUを載せることで、レッドブル陣営はその性能の違いをコース上で確認する事も可能となる。

レッドブル・ホンダ、仏GPでの表彰台の可能性

レッドブル・ホンダは前戦カナダGPでフェラーリとメルセデスに大きく引き離され、トップ争いの蚊帳の外に置かれる状況であった。9番グリッドから5位フィニッシュを果たしたマックス・フェルスタッペン曰く「3番手からスタートしても5位止まりだったはず」との事。表彰台争いの可能性すら微塵もなかったと主張した。

F1カナダGP予選でQ2敗退を喫し、歩いてパドックへと戻るレッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペン
マックス・フェルスタッペンは戦略でのミスが響き、カナダGP予選でQ2敗退を喫した

レッドブルはポール・リカール・サーキットに、エンジンだけでなく車体側にもアップグレードを投入する予定で、特徴的なリアビューミラー等、新開発のパーツを多数持ち込んでいるようだ。期待外れに終わったカナダからの巻き返しの可能性は如何ほどか?

フランスGPの舞台となるポール・リカール・サーキットは、複数のロングストレートを持つ一方で、低・中・高の各コーナーを持つ比較的バランスの高いコースと言える。カナダのジル・ビルヌーブ・サーキットがパワーハングリーな特性を有していたのに対して、トータルバランスの代名詞であるカタロニア・サーキットと似通ったトラックだ。

そのカタロニアで開催されたスペインGPでは、フェルスタッペンが2位バルテリ・ボッタスから3.6秒遅れの3位表彰台を獲得。君が代を期待するのは現実的とは言えないが、類似性のあるポール・リカールでポディウムに上がるレッドブル・ホンダを拝める可能性は低くはない。

ピエール・ガスリーにとっては年に一度の母国レースであるだけに、何としても地元ファンの目の前で好成績を挙げたいところだ。

「僕らのパッケージは、カナダと比べて若干ポール・リカールに適したものだと思う」とガスリー。「でも、ここにもたくさんのロングストレートがあるから、僕らにとっては少し厄介だろうね。とは言え、今回は幾らか車体側に新しいアップグレードが入るし、カナダよりは競争力が増すはずだと思ってる」

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