鈴鹿サーキットの看板、2018年10月5日F1日本GP
Courtesy Of Red Bull Content Pool

FIA、F1日本GPでの回収車両騒動を経て対策提言…人工知能導入を模索、配備時期尚早もガスリーは「無謀」

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鈴鹿サーキットで行われた2022年F1日本GPでの回収車両騒動を経て、国際自動車連盟(FIA)はスポーツ担当副会長を務めるロバート・リード監督の下、一件に関する広範な調査を行い、配備のタイミングが早すぎたと結論付けると共に幾つかの対策を提言した。

雨の鈴鹿では、1周目のターン12で発生したカルロス・サインツ(フェラーリ)のクラッシュを経てセーフティーカー(SC)が導入され、その後、マーシャルと回収車両がコース上に配置された。

当時はマシンが巻き上げる水しぶきによって視界が悪化しており、ピエール・ガスリー(アルファタウリ)を含む多数のドライバー達が安全性を理由に、コース周回中に回収車両が配備された事について声高に批判した。

調査概要と7つの対策

FIAはフランス・ジュネーブにあるリモートオペレーションセンター(ROC)を使ってレビューを開始した。これは今季より導入されたレースディレクター支援のための遠隔システムだ。

映像及びデータキャプチャーを使ったROCによるインシデント発生時の時系列再現データを元に議論を進めた結果、FIAは回収車両の導入が早すぎたと結論付け、F1アメリカGPより実施すべき対策として以下の7つの項目を挙げた。

  • 回収車両導入の際は、公式メッセージシステム及びFIAインカムシステムを通してチームに通知。チームはドライバーへの報告義務を負う
  • レースコントロール及びROC用として、ピット内を含む全てのマシンのステータスを表示するための「VSC/SCライブモニタリングウィンドウ」の開発に着手
  • SCまたはVSC下におけるレースコントロールのタスク配分(特にピット内マシンのモニタリングとSC背後の隊列状況)を明確にするためにレースコントロール手順の改定に着手
  • アメリカGPのドライバーズブリーフィングを通して調査結果の詳細と解決策を説明。SCと赤旗に関する規則をドライバーに再確認させる
  • 事件発生並びに、その直前のセクターにおけるドライバーが追従すべきデルタ速度を変更する新機能「ダイナミックVSC」の実装に着手
  • チームと連携し、イエロー、ダブルイエロー、VSC、SCコンディションに関するルール違反を犯した場合のペナルティの前例を見直す
  • コース上の広告ボードの用途や構造、場所、使用材料などの評価

調査結果の詳細

配備は時期尚早

本件の調査は、GPDA(F1ドライバー組合)からの書簡、モハメド・ベン・スレイエムFIA会長、GPDA理事のジョージ・ラッセル(メルセデス)、そしてガスリーとの議論に基づき行われた。

調査委員会はレースコントロールとROCに加えて、安全部門、運営部門、技術部門など、FIA所管の様々な部門から代表者で構成された。

調査委員会は「すべてのFIAレース手順が守られていた」と結論づけたものの、当時のような悪条件下においては、すべての車両がSCの背後に整列しない限り回収車両を配備すべきではなく、配備を遅らせる事が「懸命だった」と結論付けた。

インシデント発生時のレースコントロールの主眼は、事故発生現場およびSC背後の隊列整理にあったため、現行の手順ではピットレーンやSCから遠く離れた車両の状況監視に不備があった。

また、事故車両の回収に際しては安全を最優先としつつも「効率的」に素早く作業を終えるよう「あらゆる努力が払われるべき」だと指摘した。回収に時間を要するとレースが中断される可能性があるためだ。

また、あのような気象条件の中で「回収車両をコースに配備する事は、過去の悲劇的な事件を考慮するとセンシティブな問題」だとも認め、2014年のジュール・ビアンキの一件に触れた。

雨の鈴鹿でビアンキはハイドロプレーニング現象に見舞われコントロールを失い、マシンの撤去作業をしていた回収車両の下に潜り込むような形で追突。脳外傷を負った事で9か月後にこの世を去った。

AI含む新たなシステム導入へ

これを受けて「VSC/SCライブモニタリングウィンドウ」の開発が進めていく事が決定され、2023~24年の導入を目指して回収車両用に強力なレインライトを追加する方向が確認された。

更に、悪天候下などの酷いコースコンディションの際に、コース上の状況をより適切に管理するための人工知能を含む最先端技術の導入を検討していくという。

ガスリーは「無謀運転」

ガスリーが赤旗中断中に車両回収車両とニアミスした件については、「安全に関する基本的なルールを無視して無謀なドライビングをした」とした上で、一件についてスチュワードがペナルティを科した事に留意すべきで、黄旗、赤旗、SC先導下においてドライバーには減速義務がある事を強調した。

調査報告によると赤旗が振られたのは、ガスリーがサインツの事故現場に到達する僅か数m前のことだったが、ガスリーはそれ以前に1度、現場の前を通過しており、事故車両があること、そしてマーシャルがコースに出ている可能性がある事を認識できる状況にあった。

赤旗に切り替わった後、ガスリーは事故現場を時速189kmで通過。アレックス・アルボンのウィリアムズFW44が停止していた場所では163km/hを記録した。これはSCの隊列下で最も速い速度を記録したケビン・マグヌッセン(ハース)より67km/hも速かった

いずれのケースについてもFIAは、安全義務違反だと指摘した。

と言うのも、赤旗に切り替わる以前からSCは導入されており、ドライバーはレギュレーションに従って、SCボードの要求通りにクルマを減速して停止できる状態を整えていなければならなかったためだ。

ただし、VSC及びSC導入下でドライバーが従うべきデルタタイムに関するルールに不備があった事も事実だ。

コース上の広告ボードにノーズを突き刺した事でピットインを余儀なくされたものの、ピットインしてもデルタタイムはリセットされないため、ガスリーは当時「デルタ・ラップタイムより1周あたり18秒速いペース」で走行できる状態にあった。

FIAは「この状況下で期待される速度よりもかなり速く走行していたにもかかわらず、SCデルタコントロールの要件に適合していた 」と認めている。

コース排水性に関して鈴鹿と議論

この他には、コースの排水性能の改善について、FIAと鈴鹿サーキットとの間で議論が行われているほか、FIA技術部門とピレリとの間で現行フルウェット・タイヤの性能分析が進められている。

また既報の通り、今季より鳴り物入りで導入されたレースディレクターの交代制は日本GPを以て中止とし、アメリカGP以降はニールス・ヴィティヒがすべてのレースを取り仕切る。日本GPではエドゥアルド・フレイタスがレースディレクターを務めていた。

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