セパン・インターナショナル・サーキットのコース上に散乱する大量の紙幣と大型のトラバサミを描いたイメージ画像
copyright Formula1 Data

格差を縮めるはずが逆効果?「F1コストキャップの罠」の正体、“二層構造”の是正へ浮上するATR型ルール

  • Published:
  • Googleで優先するソースとして追加する

ウィリアムズのチーム代表ジェームズ・ヴァウルズは、F1のコストキャップが上位4チームとそれ以外の格差を広げ、「二層に分かれた選手権」を生んでいると批判。大規模チームと小規模チームのパフォーマンス差を拡大させているとの考えを示した。

2026年F1第16戦バーレーンGPの初日を迎えたセパンでヴァウルズは、制度がもたらした財務面の安定化を評価しつつも、小規模チームが長年の投資不足を埋めるために、チャンピオンシップの得点や順位に連動する形で追加予算を認める新たな仕組みの必要性を訴えた。

格差是正のコストキャップで格差拡大

F1は2021年シーズンより、チームが年間を通して使える予算を制限するコストキャップ規則を導入した。当初は年間1億4500万ドルに設定され、ドライバーの給与やマーケティング費用などは対象外とされた。

コストキャップの導入以前、大規模チームはその3倍近い金額を投じており、予算が限られる小規模チームとの間に競争力の差が生まれていた。

フェラーリのチーム代表フレデリック・バスールによれば、コストキャップ導入以前の数年は「5~6チームが倒産寸前」であったが、世界的なF1人気の拡大も相まって、コストキャップの導入後、各チームの財務状況は大幅に改善し、F1チームの運営は収益性のあるビジネスとなった。

コストキャップの導入には、財務面での持続可能性および、競技面における公平性の確保、そしてチーム間の競争力格差の是正という3つの目的があった。ヴァウルズは、このうち財務面では期待を上回る成果があったと認めたが、残る2つについては失敗したと断じた。

最近のF1では、メルセデス、フェラーリ、マクラーレン、レッドブルという、いわゆる「ビッグ4」が支配的な競争力を誇っている。2021年8月以降、この4チーム以外でレースに勝ったチームはなく、過去5シーズンはいずれもこの4チームがチャンピオンシップのトップ4を独占している。

ヴァウルズによれば、コストキャップ導入後の2021~2025年に上位4チームが獲得したポイントは全体の83%を占めた。それ以前は70%台で、上位4チーム以外の表彰台占有率は10%から5%に低下したという。

2025年にコンストラクターズ選手権5位へと浮上したウィリアムズは137ポイントを獲得したが、4位フェラーリは398ポイントと、順位が一つ違うだけで261ポイントもの隔たりがあった。

「統計は他にもいくらでも出せるが、コストキャップは状況を改善したわけではなく、むしろ悪化させたんだ」とヴァウルズは語った。

マイクを手にメディアの取材に応じるジェームズ・ヴァウルズ(ウィリアムズ代表)、2026年9月25日(金) F1アゼルバイジャンGPフリー走行3前(バクー市街地コース)Courtesy Of Williams

マイクを手にメディアの取材に応じるジェームズ・ヴァウルズ(ウィリアムズ代表)、2026年9月25日(金) F1アゼルバイジャンGPフリー走行3前(バクー市街地コース)

設備投資不足が生む「コストキャップの罠」

2023年にチーム代表としてウィリアムズに移籍したヴァウルズは、以前の職場であるメルセデスでは当然のように使われていたシステムが、ウィリアムズには存在していなかったと振り返った。

大規模チームほど設備投資が進んでいない小規模チームでは、例えばファクトリー内で部品の所在を管理するといった、ごく基本的なシステムを整備するために、マシン開発への予算を削らざるを得ず、それがパフォーマンス面で後れを取る原因になっているという。

ヴァウルズは、「そのお金はマシンには使われない。フロントウイングにも、アップグレードにも使われていない。最低限の仕事をするために必要なシステムに投じられているんだ」と指摘し、これを「コストキャップの罠」と称した。

「今年のためにお金を使えば、将来の歩みを遅らせることになる。それはできない。現状、チャンピオンシップは二層構造になってしまっている。これは私の主観ではない。獲得ポイントを見れば、その事実が数字として表れている」

ウィリアムズの場合、支出自体は制度導入前に比べ、おおむね3倍に増やしたという。それでも、効率の悪い旧式の開発ツールや外部のサプライチェーンなど「100個くらいの要素」を背景に、基本的なF1マシンを製造する費用は、メルセデスより「約30%高い」と説明した。

メルセデスのトト・ウォルフ代表と戦略家のジェームズ・ヴァウルズ、2019年F1ドイツGPCourtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.

メルセデスのトト・ウォルフ代表と戦略家のジェームズ・ヴァウルズ、2019年F1ドイツGP

ATR型の仕組みで構造的非効率の是正を

ヴァウルズは、チャンピオンシップの得点または順位に連動した、外部からも理解しやすい予算制限ルールの導入を提案する。これはコストキャップと同じ2021年に導入された空力テスト制限(ATR)の仕組みと同様のものだ。

ATRでは、コンストラクターズ選手権順位に応じて、風洞テストおよびCFD(数値流体力学)シミュレーションによる空力開発を制限している。

ヴァウルズは、小規模チームにより多くの予算を許可する仕組みを求めているわけではない。求めているのは、長年の設備投資不足によって生じた“構造的な非効率”を是正できる仕組みだ。

ただし、これをコストキャップの上乗せという形で実現する方法は望ましくないと考えている。どのチームにどれだけ構造的なハンディキャップがあるのかを、客観的に算定することが非常に難しいためだ。

「例えばメルセデスがより良い仕事をしたのであれば、メルセデスがチャンピオンになるべきだ。それを変えようとしているわけではない」とヴァウルズは語った。

「私がやろうとしているのは、率直に言えば、ウィリアムズの場合は20年にわたる投資不足を取り戻すことだ。でも、それを今のコストキャップの中でやるのは難しい」

「だから、そうした部分をもう一度議論の俎上に載せる必要がある」

F1バーレーンGP特集