マイケル・アンドレッティ、2022年インディカー・シリーズでのロマン・グロージャン起用発表イベントが行われたロングビーチにて,
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ザウバー買収によるアンドレッティのF1参戦、今は”売り時”ではない?

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ザウバー買収によるアンドレッティ・オートスポーツのF1参入話が大きな注目を集めているが、今F1チームを買うのは懸命な判断なのだろうか? 逆に現チームオーナーの立場に立った場合、今は売り時なのだろうか?

当初、F1アメリカGPの開催に合わせて買収成立のアナウンスがあるのではとも噂されていた両者だが、既に8割の株式を取得する事で合意に至ったとの噂がある一方、実際にはザウバーを所有するイスレロ・インベストメンツの大株主達の間で意見が分かれており、交渉が難航しているとも伝えられている。

スイスのヒンウィルに位置するザウバーのファクトリー外観Courtesy Of Alfa Romeo Racing

スイスのヒンウィルに位置するザウバーのファクトリー外観

決別かあるいは合意に至るまで関係者からの正式な発表が期待できない以上、今はただ待つ他にないが、客観的な視点から考えてみるのも一興だ。

バジェットキャップやより公平な分配金制度の導入など、F1はリバティ・メディア体制の下、緩やかながらも着実に改革を進めており、メルセデスやマクラーレン、ウィリアムズに新たな投資家が加わった事が象徴するように、成長段階にある事を強く感じさせる。

現チームオーナーの立場に立てば「安く買った株を如何に高く売るか」が基本的なスタンスと言えるわけで、これ以上株を持ち続けても上る見込みがないと判断すれば、それは一つの売り時と言えよう。

なお、ザウバーの実質的なオーナーはロングボウ・ファイナンスという投資家グループであり、望む水準の利益が得られるのであれば基本的には売却を躊躇する理由はない。

”基本的には”というのは、現オーナーがザウバーを買った背景にスウェーデンの大富豪一家の一人、フィン・ラウシングの存在があり、彼が大のF1ファンだと言われているためだ。

モータスポーツ界で最も著名な投資家の一人であるメルセデスのトト・ウォルフCEO兼チーム代表はどう考えているのだろうか? 自身がザウバーのオーナーであったならば今、売却を検討するだろうか? 答えは「ノー」だと言う。

トト・ウォルフは「今はF1にとって非常に良い時期だと思う。ステファノ(F1のドメニカリCEO)とリバティ(F1の商業権利者)の素晴らしい仕事のおかげで観客動員数は増加し、スポーツの人気も高まっており、徐々にではあるもののアメリカ大陸への進出も着実に進んでいる」と述べ、F1は今現在、成長フェーズにあると指摘する。

「我々自身に関して言えば売上が大幅に増加した。コストキャップが利益をもたらしたのだ。これこそがスポーツチームのあるべき姿だと思う。ただのマーケティング活動やコストが掛かるだけの存在であるべきではない」

「アメリカのチームのように利益を生み出せるようにあるべきで、我々は今、明らかにそういう立場に立っている。私はすべてのチームがすぐにでも利益が上げられる事を強く望んでいるし、それに近い状態にあると思っている 」

「今年は1億4,500万ドル以上を費やすことは出来ず、それはシーズンを経る毎に下がっていく。EBIT(利払前・税引前利益)を見ればF1そのものが大きな成功を収めている状況である事が分かる。チームへの分配金はそこから支払われるわけだが、F1の利益の大部分はテレビ放映権によるものであるため、(先を)予測する事が極めて容易だ」

「私であればチームを売ったりはしない。それどころかイネオスが加わった事で私は更に3%の(チームの株を)追加購入をしたが大いに満足している」

これについてはウィリアムズのヨースト・カピートCEOも「チームにとって将来的に利益を上げるチャンスがあると思う」と述べ、今後益々成長していくだろうとのトト・ウォルフの指摘に同意している。

Sky-Sportsのインタビューを受けるメルセデスのトト・ウォルフ代表、2021年7月30日F1ハンガリーGPにてCourtesy Of Daimler AG

Sky-Sportsのインタビューを受けるメルセデスのトト・ウォルフ代表、2021年7月30日F1ハンガリーGPにて

プロのレーシングドライバーとしてのキャリアを経て、自らが創業した会社を世界最大のモータースポーツ広告代理店に成長させた事でも知られるマクラーレンのザク・ブラウンCEOもトト・ウォルフ同様に、今は売り時ではないとの考えを示した。

「F1はかつてないほど力強さを増していると思う」とザク・ブラウン。

「F1に潜在的な価値がある事を認識していたからこそリバティはF1を買収したのだろうし、彼らは今もそう思っているのだと思う」

「このスポーツに参入してくる投資家達はスポーツの投資家であり、自らもビジネスを行っている真面目な人たちだ」

「世界中の様々なスポーツチームの価値を見ても、F1チームは過小評価されている。だからこそ新しい人々が参入してくるのだと思う」

「今は買い手にとっては良い時期だが、売りたいと思う者は多くはないだろう。つまりそれによってチームの価値は更に押し上げられる事になる」

なおザク・ブラウンは、アンドレッティが買収資金を集めるために設立したと目される特別買収目的会社(SPAC)「アンドレッティ・アクイジション・コーポレーション」の取締役会に名を連ねており、ザウバーとの交渉の進捗について何らかの事情を知っているものと見られるがその口は固い。

F1アメリカGPの会見の中でザク・ブラウンは「私はマイケルの状況についてコメントする立場にないが、彼がF1に対して非常に真剣だという事は伝えておきたい。彼はF1を愛している」と語った。

「もちろん父親がF1ワールドチャンピオンという事もあり、彼には多くの歴史があるし、もしマイケルとアンドレッティの名前がF1に関わる事になればそれは素晴らしい事だろう。それにアメリカのマーケットにもメリットをもたらすはずだ」

「だが今は様子を見守る事だ」

F1グリッド唯一のアメリカンチームであるハースのギュンター・シュタイナー代表は「もしアンドレッティが投資家を連れてきて、それによってまた別のアメリカのチームがグリッドに加わるのであれば、私としてはそれで構わないと思う」と歓迎する意向を示している。

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