メルセデスの「勝者予測ツール」すらをも混乱させたフェルスタッペン対ハミルトンの大接戦
2021年のF1開幕バーレーンGPは、57周の全てを通してマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)とルイス・ハミルトンがしのぎを削り続け、誰が勝つのか最後まで見通せない大接戦となったが、その混戦ぶりはメルセデスの「勝者予測ツール」すらをも混乱させるものだった。
メルセデスはバルテリ・ボッタスという駒を活かし、序盤のピットストップでフェルスタッペンからトラックポジションを奪い去ったが、その代償としてハミルトンは最終スティントでタイヤの履歴が浅いフェルスタッペンと対峙する事となった。
願ってもないメルセデスの低調という形で迎えた開幕戦であっただけに、フェルスタッペンとしては何としても表彰台の頂点に立ちたいところであったが、最終盤のオーバーテイクがトラックリミットに抵触する形となり、一旦は首位奪還を果たしたもののポジションを戻さざるを得ず、結果的にハミルトンが0.745秒という僅かの差でトップチェッカーを受けた。
これによりハミルトンは、2015年以来となる開幕ウィナーを達成し、8度目のタイトル獲得に向けてフェルスタッペンに対し早々に優位を築いた。
メルセデスのテクニカルディレクターを務めるジェームズ・アリソンは週末を終えて、サクヒールでのレースは自前の予測ツールが勝敗を予想できない程の接戦であったと説明し、キャリア30年という自身がこれまでに経験した中で「過去最高にスリリングかつハラハラドキドキで心臓が爆発しそうな体験だった」と振り返った。
「我々はタイミングスクリーンやテレビの他に、タイヤの摩耗具合やポジションを維持あるいは維持できない可能性を算出する様々な種類の予測ツールを備えているが、それらのツールは何の役にも立たず、予測は2~3秒毎に変化する始末だった」とアリソンは語る。
「ルイスが勝つと言ったかと思えば、その後マックスが勝つと言い換えたり、そんな状況だった。ただ実際のところ、こうしたソフトウェアがなくても、どれほどタイトだったかは一目瞭然だった」
「我々は皆、息を止め、心から幸運を祈り、ルイスが最後まで耐えられる事を全力で願っていた。実際彼がフィニッシュラインを越えたとき、我々のガレージ内には、その喜びのあまりに集団ヒステリーが発生した」
「昨年は非常に強力なパフォーマンスで多くのレースに勝つことができたが、昨日のバーレーンでのレースほど記憶に残るレースは今後も殆どないだろう」
両者の頂上決戦の裏ではバルテリ・ボッタスが苦渋を舐めた。2回目のピットストップでタイヤ交換に手間取ったため約11秒を失い、結果的に3位表彰台には上がったものの、優勝争いの権利を剥奪される格好となった。
何が起きたのか?
アリソンによると、ナットがねじ山から完全に外れる前にガンマンがホイールガンを引き抜いたためナットが”なめて”しまい、マウントから外れなかったのだという。更に運が悪いことに、これに加えてホイールガンの仕様が更に作業時間を伸ばす形となった。
”なめる”というのは、ナットやネジなどがドライバーによって破壊されてしまう事を指す。メルセデスでは「machining the nut(ナット加工)」と呼ぶそうだ。
市販のドライバードリルやインパクトドライバーは「締める」際と「緩める」際に手動でモードを切り替え、回転方向を変化させる。だが、作業時間短縮を目指した仕様なのだろう。ホイールガンはこれを自動で切り替えるよう設計されているという。
要は「緩めるモード」の状態で作動させて一旦その作業を終えると、ホイールガンは自動的に「締めるモード」にスイッチするらしい。
そのため、ガンマンがホイールを外そうとして再びホイールガンを稼働させたところ、本来であれば緩めなければならないにも関わらず、逆に締めてしまったというわけだ。
アリソンは「こうした顛末の結果、通常なら2秒で終わるピットストップが、劇的なダメージを引き起こす事になってしまった」と付け加えた。
初戦バーレーンは「勝者予測ツール」が機能しなかったが、第2戦以降もそうとは限らない。メルセデスのエンジニアリングディレクターを務めるアンドリュー・ショブリンは、この先のレースでレッドブル・ホンダに遅れを取り続ける事を懸念している。
ショブリンはW12の弱点として高速コーナーでのパフォーマンス不足を挙げ、こうした特性を持つイモラ(エミリア・ロマーニャGP)やポルティマオ(ポルトガルGP)ではレッドブル・ホンダが優位に立つだろうと予想し「彼らには弱点らしきものが見当たらないように思う」と語った。
ただその一方で、パッケージが持つ性能の全て引き出せているわけではないとして、「今後数戦でパフォーマンスを上げていくため、懸命に作業に取り組むつもりだ」と誓ったが、結果を出すのは厳しいだろうとも口にした。