
角田裕毅を苦しめた「ペダルマップ」トラブルの実態―その影響と技術的概要、6年前の類似ケース
角田裕毅(レッドブル)が2025年F1第15戦オランダGPで直面した「ペダルマップ≒トルクマップ」のトラブルは、特殊かつドライバー泣かせの試練となった。チームから詳細な説明はなされていないものの、レースエンジニアのリチャード・ウッドとの無線交信から、その実態が浮かび上がる。
ピットストップ専用マップに“固定”
問題は、通常レース用ではなく「ピットストップ用のペダルマップ」に意図せず固定されてしまった点にある。このマップは急加速を避ける目的で設計されており、スロットル操作に対するレスポンスが大幅に抑制されている。
その結果、スロットル開度15〜40%の領域で反応が鈍く、ペダルを踏んでも思うようにエンジンパワーが得られない状態に陥った。40%を超えてようやく通常に近いパワーが得られるため、「ペダルを踏んでもパワーが出ない」と感じられる症状につながったようだ。
ペダルマップとは、一言で言えば「ドライバーの足の動きを、エンジン出力に翻訳するルール」といったところだろうか。「ペダルの踏み込み量(0〜100%)」と「エンジン出力の出方」を結びつける車載コンピューター上の”変換ルール”のことを指す。
考えられる技術的要因
原因として考えられるのは、ソフトウェアやECUの不具合、あるいはピットアウト時に通常のマップへ戻す操作を忘れたケース。また、スロットルポジションセンサーが異常値を返したことで、ECUが安全措置として制限的なマップに自動的に切り替えてしまった可能性などが考えられる。
ウッドは「走行中には修復できなかった」と無線で伝えており、マップ再ロードやリセットといった対応は走行中には不可能だったことがうかがえる。そのため角田は、セーフティーカー中の周回を利用して、この制限的な特性に慣れるしかなかった。
過去にも類似の事例
同様のケースとしては2019年のモナコGPが挙げられる。当時、マックス・フェルスタッペンはピットストップ後に標準マップへ戻し忘れるというミスを犯した。
結果、残りのレースを最適ではない加速特性のまま戦わなければならなかった。ホンダはパワーユニットの設定で部分的に緩和しようと努めたが、あくまでも”緩和”であり、完全に解消するものではなかった。
それでも入賞を果たす粘りの走り
結局、角田は残りのレースを“足枷”を背負ったまま戦わざるを得なかったが、集中力を切らさずに走行を続け、終盤にはピエール・ガスリー(アルピーヌ)をパス。最終的に9位フィニッシュし、逆境を乗り越えて8戦ぶりのポイント獲得を成し遂げた。
角田は限られた条件下で最大限の結果を引き出したと言えるだろう。