炎上…F1の安全性を称賛しインディカーをこき下ろすフェリペ・マッサに批判続出「無知すぎる」
ベルギーGPでの多重クラッシュを受け、F1の安全性を称賛しつつ米インディカー・シリーズの安全面に対する努力不足に疑念を呈したフェリペ・マッサに批判が殺到している。
スパ・フランコルシャンで26日に開催されたベルギーGPでの多重クラッシュによって、コックピット保護デバイス「ヘイロー」の安全性が証明されたとの意見が沸騰する中、一昨年までF1を走っていたフェリペ・マッサがこの論争に参戦。自身のTwitterを通して意見を述べた。
「今回の事故をみれば、ヘイローの素晴らしさがよく分かるね!!!ここ数年のF1とインディカーでのアクシデントを見れば、F1が常に安全性を改善させようとしていた事がよく分かるよ。F1はヘイローを導入したり、コース設備を変更したり、バーチャルセーフティカーの採用してきた。でも、インディカーの方は十分な事をやってない…」
マッサが指摘するインディカーの安全性不足は、先日ポコノで発生したロバート・ウィッケンズの大クラッシュを念頭に置いたものだった。20日の第14戦ポコノでは、コーナリング中の接触によってダウンフォースを失ったウィッケンズが空中に舞い上がり鉄製フェンスに衝突。肢・右腕・脊椎・肺に損傷を負う悲惨な事故が発生した。
「ポコノみたいなサーキットは信じられないよ。平均時速360kmにも達するのにウオールは低いしフェンスもあんなだし…安全面を考えれば本当に危険だよ。こんな事を言って悪いけど、インディカーはドライバーの安全性を追求しなきゃならないと思うよ」
この発言に対してF1やインディ500、ルマンなど様々なレースを経験してきたマッシミリアーノ・パピスが反論。「主張を聞く限り、君はインディカーについてあまり良く知らないんだと思わざるを得ない。インディカーはこれ迄に数多くのセーフティー技術をいち早く導入してきたんだ。HANSやセーフティーカー、セーフティーチームやセーフティーウォール等をね」
「知識なき批判はモータースポーツにおける安全面の進化を妨げるものだし、クールとは言えない」
平均速度が350kmにも達するオーバルトラックでのレースが魅力のインディカーはこれまで、F1や他のカテゴリに先んじて数々の安全技術やシステムを開発・導入してきた。インディカーはウレタンと鉄製フレームで構成されるSAFERウォールを開発し2002年に導入。モータースポーツ史上最も画期的な安全装置と称賛を浴びた。対してF1がこれを採用したのは4年も後の2006年。インディカーは常にF1に先行し安全面を強化してきた。
© Glenn Dunbar/Williams、衝突時の頸椎損傷・頭蓋底損傷を防止するためのNANSデバイス。今やHANSなしに出走できるレースがないほどに普及している。
セーフティーカーの導入は70年代、対するF1は92年になってから。ピットレーンでの速度制限は91年、F1は94年。HANSデバイスの採用は2001年、F1は2003年。F1よりも危険だからこそ、ドライバーの安全性確保はインディカーの至上命題であり、シリーズの根幹を支える哲学であり続けた。
2015年にマノー・マルシャでF1を走り2016年にインディカー・シリーズに転向したアレキサンダーロッシはマッサのツイートを引用し、呆れた様子で「考える前に喋っちゃうって言う典型的なアレだね…」とコメントした。
F1とインディカーの両カテゴリを最も良く知る男の一人であるマリオ・アンドレッティもまたマッサの意見に異論を述べた。「君の意見には賛同できないな。インディカーは安全領域で数多くの研究を行ってるんだ。効果に1%でも疑問があるものは投入しないほどなんだよ」
インディカーはドライバーの頭部保護ソリューションとしてヘイローの採用を見送り、キャノピー型のウインドスクリーンの導入を目指し開発を進めている。F1と異なり楕円形状のオーバルトラックを持つインディカーにおいては、ヘイローは視界確保やドライバーへのクーリングといった領域において課題がある事が確認されたためであった。
そんなインディカーとは言えども、安全面に対する改善の余地はまだ大きく、今後も現状に甘えること無く進化させていく必要がある。だが、インディカーがF1に比べて安全対策を怠っているとのマッサの指摘は的を得たものとは言い難く、配慮が足らなかったのは間違いない。
F1を代表するドライバーであり、現在FIAで要職を務めている人物がF1を持ち上げインディカーをこき下ろせば波紋を呼ぶのは必至。比較などせず、ただシンプルに「いずれのカテゴリも、より安全なレースを目指して努力しなきゃならない」と述べ、人々の問題意識を高め建設的な議論を生み出す事こそがマッサに求められる役割の一つなのではないだろうか。