
「ファンかと思ったらブラッド・ピットだった」角田裕毅とハリウッドスターが明かす”お互いの逸話”
ホテルを出ようとした角田裕毅(レッドブル・レーシング)の背後から、突然「ユーキ、ユーキ」という声が響いた。振り返ると、そこにいたのは——ブラッド・ピットだった。
「ファンかと思って、本当にただのファンだと思って振り返ったら、ブラッド・ピットだったんですよ」
米スポーツ専門テレビ『ESPN』が伝えた角田のエピソードは、映画『F1:The Movie(邦題:F1/エフワン)』さながら?の、まさにハリウッド映画のようなワンシーンだった。
世界的スターが見せた親しみやすさ
ハリウッドの大スターが突然名前を呼んできたことに、角田は一瞬状況が呑み込めなかったという。それも無理からぬ話だろう。世界的な俳優が、背後から気さくに自分の名前を呼びかけてくる——F1の世界で日々緊張と集中の渦中にある角田にとって、その光景は現実離れして見えたはずだ。
「そしたら僕のところに来て、『やあ』って挨拶してくれて」
その言葉の端々からは、驚きと同時に、ピットの気取らない人柄への親しみが感じ取れる。
Courtesy Of WARNER BROS. ENT
法被姿を披露する主演俳優のブラッド・ピット、2025年6月25日に丸の内ピカデリーで行われた映画『F1:The Movie(邦題:F1/エフワン)』舞台挨拶にて
ピット本人が明かす、角田との「映画的」なやりとり
一方、ピット本人も角田との交流について、実に興味深いエピソードを披露している。米日刊紙『USA TODAY』によると、ニューヨークで行われたプレミアの場でピットは笑いながらこう語った。
「ユーキに会って、『すごく面白かったけど、映画の中で君に追い抜かれてたのがちょっとね』って言われてね」
現役のF1ドライバーから映画内での“敗北”を突っ込まれる——これほどユニークな批評を受けたハリウッドスターが他にいるだろうか。
お互いへの敬意と温かなユーモア――ピットの返答も秀逸だった。
「だからこう言ったんだ。『大丈夫だよユーキ。あれは映画、作り話だから』って」
「作り話」を現実に―ピットが挑んだ究極の肉体改造
だが、ピットにとって映画の中のF1は決して「ただの作り話」ではなかった。撮影に先立ち、彼は実際のF1ドライバーと同様のトレーニングメニューをこなした。F2マシンをベースに製作された特注のレーシングカーを自らの手で操るため、体幹、背中、首、ふくらはぎ、アキレス腱に至るまで全身を鍛え上げた。
5〜6Gという強烈な横Gに耐えながら正確なステアリング及びペダル操舵を要求される世界。VO2 max(最大酸素摂取量)測定で心肺機能を把握し、BATAC(反応速度トレーニング機器)で神経反応を強化。徹底的な肉体改造に取り組み、ドライビング技術さえも磨いた。
Courtesy Of WARNER BROS. ENT
ブラッド・ピット主演のF1映画『F1/エフワン』のシーン (4)
映画スターとF1ドライバーの距離を縮めた真摯な取り組み
これだけの準備があったからこそ、ピットは世界的な俳優でありながら、角田をはじめとするF1ドライバーたちと、より真正面から向き合うことができたと言えるのかもしれない。
映画の中でF1の世界に身を投じ、実際のレースウィークにF1ドライバーたちと共にグランプリ・サーキットでマシンを駆った彼は、その過酷さと緻密さを身をもって体験し、そこに生きる者たちへの深い敬意を抱いたのだ。
その中の一人である角田に対して、まっすぐに名前を呼ぶことで示したそのリスペクト──「ユーキ、ユーキ」という呼びかけの裏には、同じコースを駆け抜けた者同士の特別な絆があったのかもしれない。
「僕らはドライバーたちに対して、本当に敬意を抱いていたんだ」
ピットは、F1ドライバーたちと実際に顔を合わせた際、キャスト陣が見せた喜びと興奮の様子について、そう振り返っている。
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ピエール・ガスリー(アルピーヌ)、ブラッド・ピット、ルイス・ハミルトン(メルセデス)、シャルル・ルクレール(フェラーリ)、2023年7月7日F1イギリスGP初日ドライバーズ・ブリーフィングにて