夕暮れに包まれるヤス・マリーナ・サーキット、2021年12月9日F1アブダビGPにて
Courtesy Of Alfa Romeo Racing

ヤス・マリーナ・サーキット

  • Updated:
サーキットデータ
サーキット名ヤス・マリーナ・サーキット
所在国アラブ首長国連邦
住所Yas Island , Ferrari World Yas Links, Abu Dhabi
設立年2009年
設計ヘルマン・ティルケ
全長 / コーナー数5,281m / 21
最大高低差11m
周回数58
ピット長 / 損失時間358m / 19.2秒
ターン1までの距離*1201m
平均速度194km/h
最高速度336km/h
エンジン負荷と全開率*2 64%
ブレーキ負荷と使用率 17%
燃料消費レベルと量 1.91kg/周
フューエル・エフェクト 0.35秒/10kg
タイヤ負荷レベル
ダウンフォースレベル
グリップレベル
変速回数50回/周
SC導入率40%
総工費30000億円
WEBサイト www.yasmarinacircuit.ae
SNS instagram

*1 ポールポジションから最初の制動地点までの距離
*2 全開率は距離ではなくタイムベースで算出

ヤス・マリーナ・サーキット、アラブ首長国連邦のヤス島に建設されたサーキット。オープンは2009年10月。同年以降、シーズンフィナーレを飾るF1アブダビGPの開催地を務める。

総工費はなんと日本円にして3兆円。周辺には世界初のフェラーリのテーマパーク「フェラーリ・ワールド」や、ゴルフコース、メガヨットに対応したマリーナなどの豪華施設が立ち並び、コース脇には5星ホテル(ヤス・ホテル)が併設されるなど観光には困らない。一連の大規模な開発計画の一環としてレースコースが建設された。手がけたのは数々の近代F1サーキットを設計してきたヘルマン・ティルケ

yas marina circuit photocreativeCommonshg10163

F1初にして唯一のトワイライトレース

ヤス・マリーナ・サーキットはF1史上初めてトワイライト・レースが開催されたグランプリだ。アブダビGPの決勝は日没前にスタートするが、チェッカーフラッグが振られるのは夜となる。約4,700個の照明がコースを照らす。

路面温度の低下が著しいため、タイヤマネジメントが重要。レース終了後には花火が打ち上げられ、シーズン最後を彩る。

ヤス・マリーナ・サーキットを走るMP4-31
© HONDA / 照明下のサーキットを走るMP4-31

中東の砂漠地帯に位置しているためウェットとなる可能性はゼロに等しい。アブダビGP開催時期の平均気温は27.9℃。平均路面温度は30.9℃。2018年の決勝では一時軽い降雨があったものの、2013年から2018年までの6年間においては、ウェットコンディションとなったセッションは1つもない。

コースレイアウト

レーシング専用セクションと市街地をイメージしたセクションとを組み合わせた独特なサーキット。1,233mのロングストレートや、連続する低速の90度コーナーなど、セクター毎にマシンに対する要求が変化するテクニックな一面を持つ。

ヤス・マリーナ・サーキットのコースレイアウト図(F1アブダビGP)

第1・2セクターは高速サーキットといった趣で、後半は中高速のリズミカルなセクションが設けられる。以前は全21コーナーのうちの6つが時速100㎞以下と、低速コーナーが多く配置されていたが、後述の通り2021年に改修され大きく生まれ変わった。

コース上のアップダウンは殆どない。アンジュレーションも少なく路面はスムーズだが、砂漠からの砂によって滑りやすい箇所がある。路面の舗装にはイギリス・シュロップシャー州のベイストンヒルの硬砂岩が使われている。

コース幅が広くエスケープゾーンも多いが、過去5年(2016~2020年)はセーフティカーの導入率が40%を超えている。

トップスピードは第1DRS区間の手前で記録される時速331km。1.2kmの距離を約14秒間に渡ってエンジン全開で走るためICE(内燃エンジン)への負担が大きい。エンジン全開率(アクセルべた踏みでの走行時間)は約64%と、カレンダーの中では低い方だが、旧レイアウトと比較すると3%近く高い。

追い抜き促進、初のコース改修

ティルケは既に2012年の段階で改修を提案していたが、実際に着手されたのは2021年になってからで、この年のアブダビGPに向けて開業後初めてのコース改修が行われた。設計を担当したのはイギリスを本拠とするスポーツ施設の建築企業「Driven International」と、モータースポーツ施設の運営コンサルタント業務を営む「Mrk1 Consulting」。

オーバーテイクを促進すべく、第1シケイン(旧ターン5・6)はヘアピン(スタジアム・ヘアピン)に変更され、第3シケイン(旧ターン11~13)はバンク付きのロングコーナーへと姿を変えた。

ヤス・マリーナ・サーキットの新しいターン5(旧ターン5~7)と路面、2021年12月9日F1アブダビGPにてCourtesy Of Alfa Romeo Racing

ヤス・マリーナ・サーキットの新しいターン5(旧ターン5~7)と路面、2021年12月9日F1アブダビGPにて

ヤス・マリーナ・サーキットの新しいターン5(旧ターン5~7)と路面、2021年12月9日F1アブダビGPにてCourtesy Of Alfa Romeo Racing

ヤス・マリーナ・サーキットの新しいターン5(旧ターン5~7)と路面、2021年12月9日F1アブダビGPにて

そもそも旧第1シケインは、スタンドからクルマをじっくり観察できるようにとの配慮で設けられたもので、レース性を優先したものではなかった。

改修後のヤス・マリーナ・サーキットのターン9(旧11~14)、2021年12月9日F1アブダビGPにてCourtesy Of Alfa Romeo Racing

改修後のヤス・マリーナ・サーキットのターン9(旧11~14)、2021年12月9日F1アブダビGPにて

改修後のヤス・マリーナ・サーキットのターン9(旧11~14)、2021年12月9日F1アブダビGPにてCourtesy Of Alfa Romeo Racing

改修後のヤス・マリーナ・サーキットのターン9(旧11~14)、2021年12月9日F1アブダビGPにて

かつての2本目のバックストレートの先には4つの90度コーナーが連続していたが、これが5度のバンク角を持つ高速の左コーナー1つに置き換えられた。以前は最初のバックストレートで追い抜いても2個目のストレートで抜き返されてしまうという問題点を抱えていたため、これを解消するために改修が行われた。

高速を維持して第3セクターに入る事ができれば、ターン12が新しいオーバーテイクポイントになるかもしれない。

またラップの終盤、ヤス・マリーナ・ホテル周りの4つのタイトコーナー(ターン17~20)にも手が加えられ半径が拡大された。

ヤス・マリーナ・サーキットの新しいターン13(旧ターン18)、2021年12月9日F1アブダビGPにてCourtesy Of Alfa Romeo Racing

ヤス・マリーナ・サーキットの新しいターン13(旧ターン18)、2021年12月9日F1アブダビGPにて

ヤス・マリーナ・サーキットの新しいターン11(旧ターン16)、2021年12月9日F1アブダビGPにてCourtesy Of Alfa Romeo Racing

ヤス・マリーナ・サーキットの新しいターン11(旧ターン16)、2021年12月9日F1アブダビGPにて

この結果、全長は5,554mから5,281mへと、273m短くなった。レース規定周回数は55周から58周へと増え、シミュレーションではラップタイムが約10~14秒高速化すると見込まれている。

F1アブダビGPの舞台ヤス・マリーナ・サーキットの新旧コースレイアウト

ブレーキへの負担は軽減された。以前はヘビー・ブレーキング(0.4秒以上に渡って4G以上記録)を必要とする箇所が7つであったが、これが5つへと減った。

また再整備と改修に伴い新旧の路面が混在する事になった。両路面でのスイートスポットを見つけるのは困難な作業となるだろう。各チームがいずれの路面に焦点を合わせるのか注目される。

改修後の変化
2020年以前 2021年変更
全長 5.554 km 5.281 km
周回数 55 58
レース距離 305.35 km 306.2 km
コーナー数 21 (左:12 / 右:9) 16 (左:9 / 右:7)
エンジン全開率 61% 64%
150km/h以下のコーナー 12 6

個性的なピットレーン

ヤス・マリーナ・サーキットのピット出口は、ホームストレート進行方向右側に配置されたピット本線を通ってコースを地下からくぐり抜け、その左側から合流する特異な構造となっている。

暗く狭いそのトンネルは、タイヤ交換直後でグリップのないマシンの足元を度々滑らせる。1回のピットストップでのタイムロスは約16秒プラス制止時間。

オーバーテイク

2本のロングストレートを有するもDRSなしではオーバーテイクは困難で、ワイド&ローな車体が導入された2017年のグランプリでは、合計僅か7回のオーバーテイクが計測されるに留まった。この印象が強いためか「つまらない」との批判も少なくない。

2016年のレースでは、ラップリーダーのルイス・ハミルトン(メルセデス)が追い抜き困難な特性を利用。後続2番手を走るランキングリーダーのニコ・ロズベルグを他のマシンの餌食にすべく故意にペースを落とした。ハミルトンが4度目の王者になるにはロズベルグが4位以下になることが条件で、そのために後続マシンがロズベルグを捉えられるようペースを異様なほど落としたのだ。

オーバーテイク(回) リタイヤ(台)
通常 DRS 接触 機械的問題
2016年 25 29 2 3
2017年 0 7 0 2
2018年 10 22 1 4
2019年 12 23 0 1

オーバーテイクが容易とは言えず、また、ピットレーン出口が高架をくぐった先にあるなど複雑であり、他のコースと比較してタイムロスが多くリスクも大きい事から、F1アブダビGPは例年、1ストップ戦略が主流となっている。

コースレコード

タイム ドライバー チーム
ラップレコード 1:39.283 ルイス・ハミルトン メルセデス 2019年
コースレコード 1:34.779 ルイス・ハミルトン メルセデス 2019年

F1アブダビGP歴代ウィナーとポールシッター

開催年 ドライバー チーム タイム
2020 優勝 マックス・フェルスタッペン レッドブル・ホンダ 1:36:28.645
ポールポジション マックス・フェルスタッペン レッドブル・ホンダ 1:35.246
2019 優勝 ルイス・ハミルトン メルセデス 1:34:05.715
ポールポジション ルイス・ハミルトン メルセデス 1:34.779
2018 優勝 ルイス・ハミルトン メルセデス 1:39:40.382
ポールポジション ルイス・ハミルトン メルセデス 1:34.794
2017 優勝 バルテリ・ボッタス メルセデス 1:34:14.062
ポールポジション バルテリ・ボッタス メルセデス 1:36.231
2016 優勝 ルイス・ハミルトン メルセデス 1:38:04.013
ポールポジション ルイス・ハミルトン メルセデス 1:38.755
2015 優勝 ニコ・ロズベルグ メルセデス 1:38:30.175
ポールポジション ニコ・ロズベルグ メルセデス 1:40.237
2014 優勝 ルイス・ハミルトン メルセデス 1:39:02.619
ポールポジション ニコ・ロズベルグ メルセデス 1:40.480
2013 優勝 セバスチャン・ベッテル レッドブル・ルノー 1:38:06.106
ポールポジション マーク・ウェバー レッドブル・ルノー 1:39.957
2012 優勝 キミ・ライコネン ロータス・ルノー 1:45:58.667
ポールポジション ルイス・ハミルトン マクラーレン・メルセデス 1:40.630
2011 優勝 ルイス・ハミルトン マクラーレン・メルセデス 1:37:11.886
ポールポジション セバスチャン・ベッテル レッドブル・ルノー 1:38.481
2010 優勝 セバスチャン・ベッテル レッドブル・ルノー 1:39:36.837
ポールポジション セバスチャン・ベッテル レッドブル・ルノー 1:39.394
2009 優勝 セバスチャン・ベッテル レッドブル・ルノー 1:34:03.414
ポールポジション ルイス・ハミルトン マクラーレン・メルセデス 1:40.948

サーキットの場所

アブダビ市内からのアクセスも良く、車で30分程度の場所に位置する。アブダビ国際空港からの便も良い。

サーキット内にあるヤス・レーシング・スクールでは、アストンマーチンや3000ccのV6フォーミュラカーを使ってコース走行が体験できる他、最新鋭のコントロール・ルーム見学などが出来る。

写真で見るヤス・マリーナ

日中のヤス・マリーナ・サーキット
© Andrew Hone, Pirelli / 日中のヤス・マリーナ・サーキット

夕暮れのヤス・マリーナ・サーキット
© Andrew Hone, Pirelli / 夕暮れのヤス・マリーナ・サーキット

ヤス・マリーナ・サーキット:セクター2の始まり、アップダウンが無いことがよく分かる
© Pirelli / セクター2の始まり、アップダウンが無いことがよく分かる

ヤス・マリーナ・サーキット:2箇所目のDRSが設置されるバックストレート
© Pirelli / 2箇所目のDRSが設置されるバックストレート

ヤス・マリーナ・サーキット:低速セクション
© Pirelli / 低速の第3セクター