
角田裕毅、レッドブル昇格かF1退場かの分岐点―リカルドに“キレた”一件が転機に「変えなければF1に残れなかった」
角田裕毅はF1での5シーズン目にしてついに、悲願であったオラクル・レッドブル・レーシングのシートを掴んだ。しかし、昨年のあの一件――ダニエル・リカルドに対して感情を爆発させた騒動――を経た“自己改革”がなければ、レッドブルどころかF1の舞台にすら残れなかったかもしれない。
24歳の日本人ドライバーは、2025年F1第3戦日本GPより、リアム・ローソンに代わって4度のF1王者、マックス・フェルスタッペンのチームメイトを務める。これは角田のキャリアにおける最大のステップアップだが、それはある「転機」なくしては実現し得なかった。
バーレーンでの暴走と自己変革
転機となったのは、昨年の開幕戦バーレーンGPだった。終盤のチームオーダーに不満を募らせた角田は、レース後に怒りを露わにし、クールダウンラップ中にリカルドを煽るような行動を取ったうえ、無線で「みんな、ありがとう。感謝するよ」と皮肉を吐いた。
普段は温厚なリカルドも、この時ばかりは思わず「何だよそれ? 要らないだろ」と声を荒げた。
この行為は「不必要で自滅的」「子供じみた不作法な反応」と各方面から批判を浴びた。これが、角田自身に変化を促す転機となった。
Courtesy Of FORMULA 1
レース後のクールダウンラップでRBのチームメイト、ダニエル・リカルドを追い抜きタイヤをロックさせる角田裕毅、2024年3月2日F1バーレーンGP
インディペンデント紙とのインタビューで角田は、「感情を抑えることが成功のカギだなんて、それまで一度も思ったことはありませんでした。そういう性格だったので」と振り返った。
「以前は、ストレスを走りで発散して、あとは切り替えて…という考え方をしていました。でも今のF1は、スポンサーも多いし、政治的な面も強くなっています。ちゃんとバランスを取らなければなりません。チームが求めているのは感情に身を任せるドライバーではなく、具体的なフィードバックなんです」
「ダニエルとの一件の後、自分のやり方を変える必要があると強く感じました。そうでなければ、F1に残れなかったと思います。この点は本当に努力してきましたし、考え方も変わって、より真剣に取り組めるようになりました」
「ホームじゃない母国」で迎える決意の一戦
角田は今週末、母国日本GPでレッドブル・ドライバーとしてのデビュー戦を迎える。レッドブルはホンダに敬意を表し、ホワイトを基調に赤を配したRA272風の特別リバリーを用意。ファンの期待は最高潮に達している。
しかしながら、欧州での7年にわたる生活を経て、角田にとっての「ホーム」は今や、日本ではなくヨーロッパになりつつある。
「今は、日本よりもヨーロッパで暮らすほうが好きですね。リラックスできるので」と角田は語る。
「去年のアブダビGPの後、日本に戻ったのですが、もう“ホーム”って感じがしなかったんです。ヨーロッパの雰囲気のほうが自分には合っています」
copyright radiodelta_1@Instagram
洪水被害を受けたイタリア・ファエンツァの街の復旧活動に取り組む角田裕毅(アルファタウリ)、2023年5月
オフシーズン中は、白山国立公園でスノーボードを満喫。その後、プレシーズンモードへと切り替え、ドバイでハードなトレーニングに励んだ。
また、長年共に歩んできたマリオ宮川とルイス・アルバレス両氏との関係を解消し、新たなマネージャーとしてディエゴ・メンチャカを迎え、今季の予選ではオーストラリアで5位、中国で9位と、最高の滑り出しを見せている。
2021年にスクーデリア・アルファタウリ(現レーシング・ブルズ)からデビューした角田は、これまで89戦に出場し、トップ10フィニッシュ26回、を積み上げながらも、表彰台には届いていない。
今週末の鈴鹿で角田は、鈴木亜久里、佐藤琢磨、小林可夢偉に次ぐ「4人目の表彰台獲得日本人ドライバー」の座を目指す。感情を乗り越えた先にある、キャリア最大の舞台がそこにある。