
角田の昇格は”一時的措置”に非ずとマルコ―最終戦までシート安泰、託された両タイトル争いと車体開発での中核的役割
F1第3戦日本GPを目前に控えた角田裕毅の電撃昇格は、一時的な措置ではない。レッドブル・レーシングのモータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコは、角田のシートが2025年シーズン終了まで保証されていると明言し、ドライバーズおよびコンストラクターズの両選手権争いでの貢献に大きな期待を寄せた。
2025年シーズン開幕からわずか2戦でリアム・ローソンを降格とし、代わって角田を本家チームに昇格させた今回の決定は、大胆かつ物議を醸すものだった。その背景には、角田の著しい成長と安定したレースパフォーマンス、そしてチーム内での評価の変化がある。
メキシコでのクラッシュが招いたレッドブル・レーシング残留決定
角田を開幕から起用しなかった理由についてマルコは、『SpeedWeek』のコラムを通して「彼のキャリアにはアップダウンが多く、長期的な信頼性と安定性を欠いていた」と率直に語った。
「今ごろになって『最初からツノダにしておけばよかったのでは?』と物知り顔で尋ねる者たちが現れるが、これには理由がある」
「ユーキのキャリアには波が多く、信頼性や一貫性といった面でのイメージが決して確立されていなかった」
さらに、28日の『BBC Radio 5 Live』の中では、昨年のメキシコGP週末に起きた2度のクラッシュが大きな懸念材料となり、ローソン起用の判断に傾いたと明かした。
Courtesy Of Red Bull Content Pool
スタート直後のターン1でカルロス・サインツ(フェラーリ)からリードを奪うマックス・フェルスタッペン(レッドブル)とクラッシュする角田裕毅(RBフォーミュラ1)、2024年10月27日F1メキシコGP決勝レース(エルマノス・ロドリゲス・サーキット)
評価を一変させた今季の進化と成果
だが、今季の開幕戦から角田は一貫して中団最上位を争う走りを披露した。マルコは、オフシーズンの間に「彼は変わった」と指摘する。
「今や大きな飛躍を遂げた。フィジカル面も向上させており、ユーキはまさに筋骨隆々だ」と強調。現在の角田を「より自信に満ちた遥かに力強いパーソナリティ」と評した。
「開幕2戦での彼のパフォーマンスは本当に印象的だった。2024年シーズンの後半にローソンが見せていた強さ、それを今、我々はユーキの中に見ている」
2025年の開幕戦から見せた安定したパフォーマンスが、チームの評価を覆した格好だ。マルコはさらに、角田の成長にはマネジメント体制の刷新も影響しているとした。より成熟したアスリートとしての側面が高く評価された形だ。
Courtesy Of Red Bull Content Pool
ミルトン・キーンズのファクトリーでレッドブル・レーシングのシートフィッティングを行う角田裕毅(レッドブル・レーシング)、2025年3月27日(木) (1)
日本GP直前、ホンダの支援と昇格のタイミング
この昇格が日本GP直前に発表されたことで、「ホンダの影響ではないか」との声もあるが、マルコは「偶然だ。もちろん、ユーキがこのサーキットをよく知っているのは事実だが、それはローソンにも同じことが言える。それが今回の判断の決定打になったわけではない」と強調した。
とはいえ、ホンダは現在も角田を支援していることを認めており、結果的にホンダにとっても有意義な人事であることは疑いない。
ホンダについては、今回の移籍の裏で「数百万ドル」規模の金銭的支援を行った可能性が指摘されているが、『Autosport』によると、これについてマルコは「それが決定的な要因だったわけではないし、判断の動機でもなかった」と語った。
シーズン終了までの猶予、託された期待
角田の昇格はシーズン終了までを見据えた本格的な人事だ。角田は最終アブダビGPまでレッドブルでレースを戦い、両チャンピオンシップへ貢献する役割を担うことになる。
何戦の間に角田は自身を証明しなければならないのか?との質問に対してマルコは「今シーズンの終わりまでだ」と明言し、単なる入れ替えではなく、チームの今季を託す決定であることを強調し、「彼はこの仕事をやり遂げてくれると信じている」と付け加えた。
決定に際してレッドブルは中国GP後、シミュレーターを使って角田を評価した。
マルコは、「すべてがポジティブだった。技術的なフィードバックについてもそうだ。これまで彼には、技術的な理解が乏しいとか、マシンのセットアップができないといった批判があったが、それも間違いだったと分かった」と振り返った。
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ミルトン・キーンズのファクトリーでレッドブル・レーシングのシートフィッティングを行う角田裕毅(レッドブル・レーシング)、2025年3月27日(木) (2)
フェルスタッペンとの連携─戦略と開発の中核に
角田は今後、予選・決勝の両面で安定したパフォーマンスを残すだけでなく、マシン開発における中核的な役割も担わなければならない。
RB21はセットアップの難しさが指摘されており、開発面においては方向性の再検討が求められている。そうした中で、角田にはローソンを上回る豊富な経験を活かし、フェルスタッペンと共に開発の舵取りを担い、マシンのポテンシャルを最大限に引き出すことが求められる。
さらに、エースであるフェルスタッペンの5度目のドライバーズタイトル獲得に向けて、戦略面でのサポートも不可欠となる。
マルコは、「コンストラクターズ選手権だけでなく、マックスを戦略面で支えるという役割もある。2台が揃ってトップ5〜8に入れば、ナンバー1ドライバーに有利な戦略を最大限に活かすことができる」と付け加え、角田に対する期待の大きさを示した。
未来を切り開く昇格となるか─問われる継続性と結果
今回の昇格は、過去のイメージを覆し、自身の真価を証明するまたとない機会であると同時に、レッドブルの将来構想における試金石ともなる。求められるのは結果と継続性。鈴鹿を皮切りに、角田の新たな戦いが幕を開ける。