F1公式ゲーム「F1 22」のアウディF1ショーカー、2022年12月7日
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権力闘争か 驚きの第2段再編も…アウディF1、ザウバー首脳2名を解任 ビノットをCOO兼CTOに任命

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アウディは2024年7月23日(火)、ザウバーグループの取締役会会長を務めていたオリバー・ホフマンと、CEOを務めていたアンドレアス・ザイドルをF1プロジェクトから解任し、元フェラーリ代表のマッティア・ビノットをサウバーの最高執行責任者(COO)兼最高技術責任者(CTO)に任命した。

大規模な経営陣刷新の理由としてアウディは、2026年のワークス参戦に向けた「ファクトリーチームの統制構造再編の一環」であると説明。アウディのCEOで、サウバーの取締役会会長に就任することが発表されたゲルノート・デルナーは以下のように補足した。

「明確な経営構造と責任分担、意思伝達の簡素化、そして効率的な意思決定プロセスによって、F1プロジェクト全体をF1水準のスピードに引き上げることが目標だ。そのためにはチームが独立して迅速に行動できる必要がある」

アウディ傘下のザウバー・モータースポーツAGの最高執行責任者兼最高技術責任者に就任したマッティア・ビノット、2024年7月23日Courtesy Of AUDI

アウディ傘下のザウバー・モータースポーツAGの最高執行責任者兼最高技術責任者に就任したマッティア・ビノット、2024年7月23日

大規模再編の裏に権力闘争か

アウディが買収したザウバーのコース上でのパフォーマンスは今のところ、十分な水準に達していない。バルテリ・ボッタスと周冠宇を擁するスイス・ヒンウィルのチームは今季開幕13戦を終えて唯一のノーポイントチームとしてコンストラクター選手権最下位に沈んでいる。

現在の競争力だけではなく、中長期的な見通しについても外部評価は低い。

ドライバーマーケットで最も多くのチームからラブコールを受けるカルロス・サインツ(フェラーリ)は、少なくともアウディからの長期ワークスオファーを受けた際にすぐ、首を縦に振らなかった。そしてカスタマーのウィリアムズや浮上の見通しが見通せないアルピーヌといった他の選択肢を検討している。

これらの状況からプロジェクトが暗礁に乗り上げている可能性は当然に見て取れるものの、アウディの本国ドイツ国内の報道によると、今回の再編の裏にはF1プロジェクトにおける「権力闘争」があった。

マクラーレンのかつてのチーム代表、ザイドルは”2026年に向けたアウディのワークスF1プロジェクト”の旗振り役として2023年にザウバーに加わった。これは現在のコース上のパフォーマンスの責任を負うものではないと考えられる。

そして今年3月、アウディによるザウバーの完全買収と合わせてホフマンがプロジェクトの「総代表」に就任したことで状況に変化が生まれた。

アウディF1チームの最高経営責任者(CEO)に就任するアドレアス・ザイドルCourtesy Of Audi

アウディF1チームの最高経営責任者(CEO)に就任するアドレアス・ザイドル

ホフマンの役割はあくまでもプロジェクト全体の監督だが、腹心のユリウス・ゼーバッハ(アウディ・スポーツGmbHマネージング・ディレクター)とともにザイドルの役割である実際の運営業務に介入。この結果、人事やインフラ整備に関する重要な決定が遅れるなど影響が発生し、本国が問題の解決に乗り出したと伝えられている。

興味深いのは、アウディがザイドルとホフマンのいずれの肩を持つわけでもなく、両名を解任したことだろう。また、問題を受けての決断の速さも印象的だ。いずれにせよアウディが、大規模な軌道修正が早期に必要だと判断したことに疑いはない。それだけ現在の進捗と課題を問題視していたのだろう。

アウディAG技術開発担当取締役オリバー・ホフマンCourtesy Of Audi

アウディAG技術開発担当取締役オリバー・ホフマン

更なる再編の可能性も

フェラーリとアウディはともに、サプライチェーンや人材が集結するF1の本拠、イギリス以外にファクトリーを置くシャシー及びパワーユニットの両方を内製化する大手自動車メーカーによるワークスチームであるという点で、スクーデリア一筋にキャリアを歩んできたビノットのトップ就任は理に適った選択のように思われる。

問題は、具体的な業務範囲は不明ながらもCOOとCTOという2つの役割をどこまで担えるのかという点だろう。それは例えばレッドブルのクリスチャン・ホーナー代表がピエール・ワシェの役割を兼任するようなものである。そこでビノットを支える新たな人事発表があるのではと噂されている。

Auto Motor und Sportによると、現在アストンマーチンのチーム代表を務めるマイク・クラックが新たにアウディに加わる可能性があるとされる。

また、テクニカル・ディレクターを務めるジェームス・キーの処遇も気になるところだ。キーはマクラーレン時代の上司ザイドルに引っ張られて2023年9月にザウバーに加わった。まだ在籍11ヶ月とは言え、決定的な結果を残すには至っていない。

有能なF1エンジニア兼マネージャーとして25年以上のキャリアを持つビノットは2024年8月1日付けてザウバーに合流する。