全9種類:2018年 F1ピレリタイヤ解説 / コンパウンド別特性と作動温度領域

2018年のF1ピレリタイヤ

2018年シーズンのF1には「レインボー」と銘打たれた全部で7種類ものドライタイヤが登場する。ウェットタイヤ2種を加えると計9種類と実に賑やかだ。F1を120%楽しむ上で欠かせないのがタイヤの知識。2018年のF1ピレリタイヤの種類と概要、タイヤに関する基本的なレギュレーションを復習しておこう。

レース戦略の多様化とオーバーテイク数の増加

昨年の「ウルトラソフト」「スーパーソフト」「ソフト」「ミディアム」「ハード」の5種類に加わるのは「ハイパーソフト」と「スーパーハード」の2種類。昨年からの継続タイヤは全て一段階ずつ柔らかくなるため、昨年のソフトは今年のミディアムと同等レベルのものになる。

変更の目的は、レース戦略の多様化とオーバーテイク回数の増加。柔らかくなった事で耐久性が減少し、例年以上のデグラデーションが期待できる。その結果、ピットストップ回数は増加しレース展開が多様化すると共に、オーバーテイクのチャンスが増加するものと見込まれている。

用意される種類が増えたことで、ピレリとしては各サーキットの特性に応じたより最適なタイヤを供給する事が可能となる。何かと批判の矛先にさらされる事が多いだけに、企業戦略として理に叶った判断と言えよう。

晴れ用ドライタイヤ – 7種類

溝のない晴れ用のスリックタイヤのサイズは全種共通で、フロントは305/670-13、リアが405/670-13となっている。外径こそ670mmあるものの、F1は今や軽自動車でも数少ない13インチホイールを履く。最近の市販車が18インチ、20インチといった大口径のホイールを履いている事を思えば、如何に小さいかがよく分かる。

参考までに、プレシーズンテストが開催されたカタロニア・サーキットでの各コンパウンド間のタイム差を、ハイパーソフトタイヤを基準に併記しておく。

桃色 ハイパーソフトタイヤ

2018年に新たに投入されたハイパーソフトタイヤは、17年仕様のウルトラソフトよりも更に2段階柔らかく、全7種類の中で最も柔らかい。作動温度領域(ワーキングレンジ)は低い。

2017年最終アブダビGP後に行われたタイヤテストに参加したルイス・ハミルトンは「過去最高のピレリタイヤ」と褒め称えた。ピレリがこれまでに製造した中で最速のコンパウンドとなる。

高レベルのメカニカル・グリップを発揮するため一発のタイムは異次元レベル。その一方で、タイヤのライフは著しく短いため、使いこなすには優れたレースストラテジーが必要となる。

  • 作動温度領域…低
  • ハイパーソフトとのタイム差…0

紫色 ウルトラソフトタイヤ

メカニカルグリップが必要とされる市街地コース等のタイトでツイスティーなサーキットでの使用を想定し製造されたコンパウンド。ハイパーソフトに次いで2番目に柔らかく、熱入れは容易でピーク性能も高いが、タイヤライフは限定的。

  • 作動温度領域…低
  • ハイパーソフトとのタイム差…0.7秒

赤色 スーパーソフトタイヤ

ウルトラ同様、メカニカルグリップが必要なマリーナベイ・ストリートコースやバクー市街地コース等の低速サーキットに適している。短時間でウォームアップが可能であるため予選にはもってこいだが、その分デグラデーションが酷い。

  • 作動温度領域…低
  • ハイパーソフトとのタイム差…1.3秒

黄色 ソフトタイヤ

性能とパフォーマンスのバランスは良いものの、ミディアムタイヤよりは若干スピード重視に振ったコンパウンド。上記3種類とは異なり作動温度領域は高め。

多くのグランプリに持ち込まれる事が予想され、低速サーキットでは最も硬いコンパウンドのタイヤとして、高速サーキットでは最も柔らかいコンパウンドのタイヤとして投入されるだろう。

  • 作動温度領域…高
  • ハイパーソフトとのタイム差…1.7秒

白色 ミディアムタイヤ

全7種類の内、パフォーマンスと耐久性のバランスが最も優れたコンパウンド。良く言えば万能、悪く言えば特徴がない。18年仕様のミディアムは、幅広いワーキングレンジを持っていた17年仕様のソフトと同等のコンパウンドとなる。

  • 作動温度領域…低
  • ハイパーソフトとのタイム差…2.5秒

青色 ハードタイヤ

事実上、今シーズンのグランプリに投入される中で最も硬く、最も耐久性が高いコンパウンド。高速サーキットや、粗い路面を持つコース、暑いコンディションなど、タイヤに大きな負荷がかかるサーキット用に設計された。熱入れには時間がかかるため予選には適さず、決勝レース専用となる。

  • 作動温度領域…高
  • ハイパーソフトとのタイム差…不明

橙色 スーパーハードタイヤ

全コンパウンドを柔らかめに振った事によるリスク回避のためのコンパウンド。予想以上にタイヤの持ちが悪い、性能が著しく劣化する、バーストの危険がある、等の最悪の状況に備えて保険用に設定された。

供給されるタイヤはシーズン前にホモロゲートされてしまうため、予め念のために用意された。18年マシンがピレリの予想以上の高いダウンフォースとパフォーマンスを発揮しない限り、実戦投入される事はないだろう。

  • 作動温度領域…不明
  • ハイパーソフトとのタイム差…不明

雨用ウェットタイヤ

水切り用の溝の入った雨用ウェットタイヤのサイズは、インター・フルウェット共にフロントは305/680-13 305/670-13、リアが405/680-13 405/670-13となっている。

緑色 インターミディエイトタイヤ

軽い雨用のコンパウンド。最大毎秒約25リットルの水を排水する。ウェット路面および徐々に乾いていくトラック路面でも使用される。

青色 フルウェットタイヤ

大雨用のコンパウンド。最大毎秒65リットルの水を排水する。豪雨に対しては唯一の選択肢。16年仕様のフルウェットは排水性の悪さでドライバー達から厳しい批判を浴びたため、17年仕様で大幅に改良。最新型はさらにブラッシュアップされ耐久性が向上、インターミディエイトコンディションでも一定の性能を発揮する。

’18年 タイヤレギュレーション

2018年も昨年同様、ピレリは各グランプリ毎に3種類のドライタイヤを指定する。その中の最も柔らかいコンパウンド1セットは予選Q3専用タイヤとして、残りの2種類のコンパウンド各1セットはレース専用タイヤとしての使用が義務付けられる。

チームは各マシン(ドライバー)毎に、指定された3種類のコンパウンドから自由に選択して残る10セットを決定する。チームは指定された期限までに各グランプリで使うタイヤセットをFIAに対して申告する義務を負う。申告されたタイヤセットは、レース開催2週間前までは非公開とされる。

ドライコンディションでの決勝レースでは、ドライバーは少なくとも2種類の異なるタイヤを使用することが義務付けられる。また、Q3進出ドライバーはQ2で最速タイムを出したタイヤでレースを開始する必要がある。

その他、タイヤ返却やタイヤの製造・技術に関するマニアックなルールを知りたい方は、F1レギュレーション-タイヤ編を参照されたい。

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