アルピーヌF1、オークス代表が僅か9ヶ月で電撃辞任―ブリアトーレ復権と混迷の背景

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2025年F1第7戦エミリア・ロマーニャGPを前にした5月7日(火)、アルピーヌF1チームから突如として衝撃の発表が飛び出した。チーム代表を務めていたオリバー・オークスが僅か9ヶ月で辞任し、その職務を元ルノーF1チーム代表のフラビオ・ブリアトーレが引き継ぐというのだ。

アルピーヌは声明の中で、「オリバーのこれまでの貢献に感謝し、辞任を即時に受理した」と説明。さらなるコメントは控えたが、その背後にはチーム内部の不協和音が見え隠れする。

就任からわずか9カ月、頓挫した再建構想

37歳のオークスは、2024年夏にブルーノ・ファミンの後任としてチーム代表に就任。FIA-F2選手権を中心にジュニアカテゴリーで実績を持つハイテックGPの創設者として知られ、F1史上2番目に若いチーム代表として注目を集めた。

彼は就任直後、「チームにはリーダーシップの欠如と方向性の曖昧さがあった」と語り、部門間の連携強化と透明性の確保に取り組んできたが、改革はわずか9カ月で頓挫。辞任の背景には、ドライバー起用をめぐる意見の対立があったと見られる。

ドゥーハンとコラピントの交代をめぐる確執

アルピーヌの2025年仕様レーシングスーツを着用したポール・アーロン、ジャック・ドゥーハン、ピエール・ガスリー、フランコ・コラピントCourtesy Of Alpine Racing

アルピーヌの2025年仕様レーシングスーツを着用したポール・アーロン、ジャック・ドゥーハン、ピエール・ガスリー、フランコ・コラピント

辞任発表の前日には、アルピーヌがジャック・ドゥーハンをわずか6戦で降板させ、リザーブドライバーのフランコ・コラピントを昇格させる方針との報道が相次いだ。ブリアトーレはかねてより南米出身のコラピントの起用を強く推していたとされ、オークスはこの人事に反対の立場だったと見られる。

実際、ブリアトーレはエグゼクティブアドバイザーという肩書きながら、実質的にはチーム運営に強い影響力を持っており、オークスには決定権がなかったという見方が支配的だ。

成績不振と人材流出が続くアルピーヌ

アルピーヌはここ数年、首脳陣や上級技術スタッフの大量離脱が続いており、2023年にはオトマー・サフナウアーがチーム代表を解任され、技術部門の重鎮であるパット・フライやアラン・パーメインらも次々と離脱。技術ディレクターや空力責任者、オペレーション責任者など、主要ポジションが短期間で入れ替わる不安定な状態が続いている。

2025年シーズンも厳しい戦いが続いており、マイアミGP終了時点でわずか7ポイントを獲得するにとどまり、コンストラクターズランキング9位。最下位ザウバーとの差はわずか1ポイントという危機的な状況にある。

“クラッシュゲート”からの復権

グリッド上で話をするクリスチャン・ホーナー(レッドブル・レーシング代表)とフラビオ・ブリアトーレ(アルピーヌF1 エグゼクティブアドバイザー)、2024年8月25日(日) F1オランダGP決勝(ザントフォールト・サーキット)Courtesy Of Red Bull Content Pool

グリッド上で話をするクリスチャン・ホーナー(レッドブル・レーシング代表)とフラビオ・ブリアトーレ(アルピーヌF1 エグゼクティブアドバイザー)、2024年8月25日(日) F1オランダGP決勝(ザントフォールト・サーキット)

新たに指揮を執ることとなったブリアトーレは、F1において最も物議を醸した人物の一人だ。2008年のシンガポールGPで、当時のルノー所属ドライバー、ネルソン・ピケJr.に意図的なクラッシュを指示した「クラッシュゲート」事件により、FIAから無期限資格停止処分を受けた。

その後、2010年にフランスの裁判所が処分を無効としたことで、F1界復帰の道が開かれ、2024年にルノーCEOルカ・デ・メオの招聘を受け、アルピーヌのエグゼクティブアドバイザーとして現場に復帰した。

この復帰には批判の声もあったが、フェラーリのフレデリック・バスールは「彼はすでに代償を払った」と容認。メルセデスのトト・ウォルフも「経験豊富な頭脳の存在はアルピーヌにとって有益だ」と一定の理解を示していた。

ブリアトーレは現場復帰後、すぐさま存在感を発揮。ルノー製パワーユニットの開発を2025年限りで打ち切り、2026年よりメルセデス製カスタマーユニットに切り替える動きを主導した。

混乱の中で問われる指導力

オークスの突然の辞任とブリアトーレの実権掌握は、アルピーヌF1チームが長年抱える「指導体制の不安定さ」と「戦略の不統一性」を再び浮き彫りにした。かつてオークスは「信頼と透明性こそがリーダーシップの核」と語っていたが、果たして今後のアルピーヌは、どのような道を歩むのだろうか。

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